「お菓子買って」と子どもが泣きわめく前に、親にできる予防策
小さな子どもを連れての買い物は本当に大変なもの。お菓子をねだったり、じっとしていられずに店内を駆け回ったりする子どもに頭を悩ませる親は多いでしょう。
ですが、心理療法士のイザベル・フィリオザさんは、2歳から6歳までの子どもが耐えられるキャパシティには限界があると言います。買い物中、落ち着きのない子どもに対して親がどう対応すればいいか、お伝えします。
※本稿は『子どもの気持ちがわかる本』(イザベル・フィリオザ[著]、アヌーク・デュボワ[イラスト]、土居佳代子[訳]/かんき出版刊)から、一部抜粋・編集したものです
イザベル・フィリオザ (心理療法士)
1957年パリ生まれ、心理療法士。父は心理学者、母は心理療法士で病気を体・心・感情を含めて全体的に見るというホリスティック医療の先駆者。パリ第5大学で、臨床心理学の修士号を取得したあと、フランス、アメリカ、ベルギー、イギリスなどで、交流分析、新ライヒ派のセラピー、神経言語プログラミングなどを学ぶ。それ以後、独自のセラピーを開発し、感情を専門とするセラピストとして、多くの大人や子どもの治療に当たる。
著書に『心のインテリジェンス』『未来をひらく愛の子育て』(いずれもPHP研究所)や、中でも本書シリーズ『子どもの気持ちがわかる本』(かんき出版)は、世界的な大ベストセラーとなり、16カ国で翻訳されている。
かんしゃくを起しているときの子どもの気持ちは?
【子どもの声】
ママ、ぼくの脳と体の中は台風みたいにグルグルしてる。ママが何を言っているのかもわからない。おしりをたたかれたら、もっと泣いちゃうよ。ママはきっとおしりをたたいたのがよかったと思うだろうけれど、違うんだ。緊張して固まっちゃうだけなの。
怖いことやストレスはもうたくさん。
どうしてそんなに怒ってるの? どうしてぼくのこと怒るの? ママ、お願い、このグルグルした嵐を止めてよ。助けてほしいから、ぼくはもっと叫ぶよ…。ぼくを暴れるままにしておかないで、ママ。
たくさんいろいろなものや音があるところだと、ぼくはどうしたらいいかわからなくなっちゃうの。お菓子は、ほしいんじゃないの。何とかしなきゃと思って、ただそう言ってみているだけ。
ママがダメって言うと、ぼくはもっと逆上する。わざとしてるんじゃないの。いろいろな刺激のせいで、ホルモンが体と神経にいっぱいになっているから、叫んだり、泣いたり、地面を転がったり、頭をぶつけたりするんだ…。
おうちへ帰ってママと2人だけになるまで我慢できる時もあるけど、できないこともある。
興奮した子どもを落ち着かせるには
子どもの神経組織は、緊張が高まるとそれを解放するためのリアクションを起こすことがあり、「かんしゃくを起こす」などとも呼ばれます。
親は落ち着かせようとするでしょうが、子どもの脳にとっては、この感情の発作そのものが落ち着くための方法なのです。そのすぐあとに、緊張がすっかり解けてニコニコしたりするので、親はあっけにとられて、子どもが自分を困らせようとしたのだと思ってしまいます。
「譲歩するか/しないか」、つまりお菓子を買い与えるかどうかの二者択一は、落とし穴です。どちらを選んでも、子どもの欲求は否定されてしまうからです。スーパーマーケットには、色彩やものや音が溢れていて、周囲には緊張があり、大人も興奮気味でいら立っています。
その上、カートの中でじっと座っていなければならないという状況が加わって、幼い子どもの脳の容量はあっという間にいっぱいになってしまいます。
幼児の脳は、たくさんの知覚の刺激をいっぺんに受けて、なすすべがなく、自分の神経を高ぶらせている刺激をどうやって選別し整理すればいいのか、わからなくなります。
お菓子をねだるのは、自分でも落ち着こうとして、何か手がかりになるものはないだろうか? 何か一点に集中できるものはないだろうか? と求めた結果、過剰な刺激から立ち直る方法として、やってみているだけのことなのです。
親のほうがいら立って、子どもに落ち着きなさい、と言うより、私たち自身の自律神経の中に包み込んであげるようにするほうが効果的です。優しく安定感を持って、包み込んであげれば、子どもの体内でオキシトシンというホルモンが分泌され、落ち着くのを助けるでしょう。
またこのホルモンは、神経回路の発達を促すので、一生を通じて感情のコントロールに役立ちます。
子どもに何か仕事を与える
【子どもの声】
ママ、ぼくが怒って暴れる時はね、自分を抑えて、落ち着きたい、安心したいとだけ思っているの。こんなふうに時々、イライラしちゃうから、ぼくは怖いよ。泣き叫んでいる時は、ぼくを優しくしっかりと抑えてほしい。すごく暴れても、しっかり抑えてね。お願い、ママ、お菓子は買わないで、ぼくにどうすればいいか教えて。
お菓子を買いすぎることにならないように、予防策を講じるのがお勧めです。初めての場所や刺激の多い環境。たとえば駅、商店街、スーパー、家族の祝い事などでは子どもに何か仕事を与えましょう。もちろん能力に合ったものを。
そうすると子どもは、それに注意を集中させることができます。脳が、やる気が出て自発的な行動を促すホルモン、ドーパミンを分泌して、ストレスをコントロールし、恐怖や怒りのシステムを抑制します。
4歳では、何かを頼まれた時、10分くらいは記憶にとどめておけるようになりますが、それより前の年齢では忘れてしまいます。そのため、もっと下の年齢では、頼まれた仕事を何度か思い出させてあげてください。
子どもがしていることに言及する(もちろんほめてあげて!)のもよい考えです。「わあ! 美味しそうなみかんを選べたわね。それを袋に入れて、もう1つお願い…」
こうしたやり方は時間がかかるようですが、ママにとって結局とても時間の節約となります。それに人前で大騒ぎしなくて済むという、おまけもありますよ。
【子どもの声】
みかんやにんじんを選んでいると、大人になったみたいな気がするの。そしてこのお仕事のことで頭がいっぱい…。ママは喜んでくれるし、わたしは泣き叫ばなくてもすむから、いやな思いや怖い思いもしない。
子どものエネルギーをほかへ導いてあげる
子どもの脳は、暇になるとすぐに何かしら気を紛らすことを見つけますが、それがママの気に入ることとは限りません…。ママやパパから子どもにもできそうな仕事を頼むことで、脳の前頭連合野(情報を受けとって行動計画を立てるところ)を動かすのを助けることになります。
大人たちの多くは、子どもが動き回らずにはいられないことを、注意を引こうとしているとか、言うことを聞きたくないしるしだと思ってしまいます。確かに、注意を引こうとしている時もあるかもしれませんが、それ以上に多くの場合は、ただ単に動きたいという欲求があるだけなのです。
順番待ちの列に並ぶこと、渋滞に巻き込まれること、レストランで待つこと、さらには列車に3時間も乗ることは、2歳から6歳までの子どもが耐えられるキャパシティを超えています。
よく動く子どもを必ずしも「じっとさせる」必要はなく、そのエネルギーをほかへ導いてあげればいいだけ。1カ所にじっとしていないからといって、叱るのは、子どもの脳にとっても心の安定にとっても、役に立たないばかりか、実は害なのです。叱る代わりに、何か目標や用事などを与えて、脳の欲求をもっと効果的に満たしてあげましょう。
子どもの気持ちがわかる本(かんき出版)
子どもの困った行動に対して、「子どもの言い分」や「科学的な裏付け」などさまざまな視点から分析したうえで、ママやパパが対応する方法を示した育児書。最新の神経生物学や生理学に基づき、子どもの話を聞くこと・同調することに焦点を当て、子どもの行動の裏にある動機を分析する手法を提案する。