子どもに言ってはいけない「どうしてできないの!」 叱らずにやさしく課題を伝える方法
特別支援教育とは「得意なことを伸ばし、苦手なことを少しでも改善して、生活や学習での困りごとを解決していく」ことを目的とした”全ての人にとって効果的”な教育です。
特別支援学校で教師として働く平熱さんが、子どもを「どうしてできないの!」と叱責してしまう親御さんに向けて、特別支援教育をもとにした対処法を語ります。
※本稿は平熱著『特別支援教育が教えてくれた 発達が気になる子の育て方』(かんき出版)から一部抜粋・編集したものです。
「どうしてできないの!」が出そうになったら
「どうしてできないの!」は、言った人が気持ちいいだけの乱暴な言葉です。言葉に具体性がなく、そのひとことで解決に向かうわけでもありません。
多くのことは、10になってはじめて「できた」と認識されます。9までできてても、「できた」とは数えてもらえません。
たとえばカレーをつくるとき。ざっとこんな工程があります。
1. つくりたいカレーを決める
2. 材料を調べる
3. 材料を買う
4. 材料の下ごしらえをする
5. 材料を切る
6. 材料を炒める
7. 煮込む
8. アクをとる
9. ルーを入れる
10. さらに煮込む
もう少し細かく分解します。
まず、どんなカレーをつくるのか決めます。チキンかビーフか、シーフードか。夏野菜かもしれません。そのカレーをつくるために必要な材料を調べます。材料を買いに行きます。
野菜を洗い、皮を剝む き、適切な大きさに切ります。適切な順番、火加減、時間で野菜や肉を炒めます。適切な大きさの鍋に炒めた材料を入れ、適切な水量、時間で煮込みます。
煮込むことで出てきたアクをとります。具材がやわらかくなったか確認し、火を止め、ルーを割って溶かし、焦げつかないように底から混ぜて、さらに煮込みます。
ここまでできて、10までできて、やっとカレーが「できた」になります。
ある子は、材料を切るところまでできたとします。ここで手が止まってしまうと、カレーはできていません。だから大人はつい言っちゃいます。「どうしてカレーができないの!」と。
もちろん、まちがってはいません。カレーはできてませんから。ただ、子どもやわたしたちに必要なのは「どうしてカレーができないの!」と𠮟責することでしょうか?
わたしたちがしなくてはいけないのは、「できたところまで」まずはしっかり評価してあげることです。ほめてあげることです。
「材料を切る」までにいくつもの工程を経てきました。1から6まではできました。だから伝えましょう。
「材料を切るところまでできたんだね! つぎは炒めていこうね!」と。炒め方がわからないのなら、わかるように教えていきましょう。できる方法を探し、できるようにサポートしましょう。
もし、がんばってもできないのなら、その工程を飛ばすことも必要かもしれません。「7はできなかったけど、8から10はできたね!」と声をかけていくことができれば、子どもも大人も課題が浮き彫りになります。
たしかにカレーは「できてない」けれど、1から10までできなかったわけではありません。できなかったのは「7」だけです。取り出して練習するのは「7」だけです。
この場合、カレーができるかできないかは「7」ができたかどうかとイコールです。別の言い方をすると「7だけ手伝ってもらえれば、カレーをつくることができます」と伝えられれば、ほとんど「できた」と変わりません。
子どもに注意する大人に気をつけてほしいことがあります。
「どうしてカレーがつくれないんだ!」と怒る人はいても、「どうして100メートルを10秒で走れないんだ!」と怒る大人はいませんよね。「カレーがつくれる」人とおなじように、「100メートルを10秒で走れる」人は存在するのに、です。
理由はわかりきっています。100メートルを10秒で走れないことについて、「できなくて当然」「できなくても困らない」と思っているからです。「できない」ことにネガティブな感情を抱いていないからです。
だから、立ち止まって考えましょう。
発達につまずきがあろうがなかろうが、だれかにとって「カレーをつくること」が「100メートルを10秒で走ること」とおなじくらい、大変なことだってあるんです。
「自分ができるから」「多くの人ができるから」を理由に、「できて当然」として話を進め、その道を譲らないことは、おたがいにしんどくなっちゃいます。
「できない」を「できる」にしていくことはとても大切ですが、「できない」と「できる」を見極めていくことも大切です。
「どうしてできないの!」と怒るまえに「どこまでできたか」をまずはしっかり見てあげてください。そして、たっぷりほめましょう。そのつぎに「どうしたらできるか」を考えては試し、やり直していきましょう。
特別支援教育が教えてくれた 発達が気になる子の育て方(かんき出版)
発達につまずきのある子どもたちと、そのまわりにいる大人のために、特別支援教育をベースにした「困った!」を小さくするヒントを凝縮。将来子どもが社会に出たとき、たくさんの人やサービスに助けてもらいながら、少しでも自立して生きるために必要なことを考える。