突然キレる、笑う…発達障害の子の複雑な感情の裏側で起こっていること
衝動的にキレる、笑う…。発達障害の一種・ADHDの子どもの中には感情のコントロールが上手くできないことも。気分が態度にすぐ出てしまう原因、 そして親がとるべき対応について、精神科医である岩瀬利郎さんが解説します。
※本稿は岩瀬利郎著『発達障害の人が見ている世界』(アスコム)から一部抜粋・編集したものです。
岩瀬利郎(精神科医、博士)
東京国際大学医療健康学部准教授/日本医療科学大学兼任教授。埼玉石心会病院精神科部長、武蔵の森病院院長、東京国際大学人間社会学部専任教授、同大学教育研究推進機構専任教授を経て現職。精神科専門医、睡眠専門医、臨床心理士・公認心理師。
注意散漫でミスを連発してしまうADHDの人
ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)は、「注意欠如・多動症」という日本語の名称の通り「不注意」「多動性・衝動性」が特性としてよく知られています。
注意散漫で、忘れ物をしたり、仕事でケアレスミスをしたりといった失敗を連発しがちなうえに、注意の持続も苦手なので、細かい仕事や同時進行する仕事(マルチタスク)をこなせず、話を聞きもらすことも多々あります。
遅刻しがちだったり、片付けが苦手だったり、物事に段取りをつけてこなすことができなかったりするのも、多くの場合不注意が原因です。
また、ADHDの人は絶えず体のどこかを動かし、じっとしていられないことがあります。そのときそのときの思いつきで行動するため、結果を考えずに行動したり、危険な行動に出たり、話があちこちに飛んだりと、周囲からは軽率に見えがち。
衝動買いなどの浪費や暴言などにもつながりやすく、子どもの場合は、授業中でも立ち歩いてしまったり。「不注意」も「多動性・衝動性」も多くの場合、成長とともに緩和されていきます。
ただし、大人になっても一定程度は残ることがあり、努力で改善することに限界があるのです。
この2つの特性は、アメリカ精神医学会が発行する『DSM―5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)』にも載っているものなのですが、私はこれに加えてもうひとつ、「傷つきやすい」という点も、ADHDの人の大きな特性なのではないかと考えています。
ADHDの人は、大人になってもミスを繰り返したり、評価を得られなかったりして、自己肯定感が低くなりがち。
「また失敗するのでは」という不安感や、拒絶されることへの敏感性を持っていて、近年「繊細さん」という呼び方で知られるようになった、いわゆるHSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)的であることが多いと、常々、感じているからです。
衝動的に怒ったり笑ったり…気分が態度に表れやすい
診察室に入ってくるなり、ゲームをやりはじめたADHDのE君(12歳・男子)。お母さんがしまうように言うと、すごい勢いで怒り、騒ぎ出しました。
気分が態度にすぐ表れてしまうE君は、怒ったり不機嫌になったりしやすいだけではなく、大人しくしていなければならない場面なのに、楽しくて大笑いしてしまうこともあります。
ADHDの人の衝動性は、気分が態度に直結しやすい特性となって現れることもあり、これは情動をコントロールするなど、理性を司っている大脳皮質の働きの弱さが一因と考えられています。
人は、脳内で怒りなどの感情が起こっても、大脳皮質がそれを抑えたりコントロールしたりする指令を同時に出しています。この大脳皮質の働きが弱いと、衝動を抑えきれず、ちょっとしたことでもすぐ不機嫌になったり、おかしくてたまらなくなったりすることがあるのです。
周りからは「豹変してる…」と思えてしまう感情の爆発も、脳が見せる世界の違いによるもの。特にお子さんの場合は、そうした特性が強く出ることがあります。