3歳までが重要…「絵本の読み聞かせ」がIQに影響すると言われる理由は?
言葉は食べ物と同じくらい大事な栄養
石井:いまの子どもたちは、「行間を読んだり、物語の背景を想像したりする力が弱い」と多くの先生方がおっしゃっています。言葉そのままを受け止めるので、国語の授業でもびっくりするような読み違いをします。
自著で紹介したことですが、戦争文学の名作『一つの花』を4年生の国語で読ませたときのエピソードがまさにそうです。物語はこうです。戦争中どの家も貧しく十分なご飯がない中で、「一つだけちょうだい」というのが口癖になっていた少女ゆみ子が、父親が兵士として戦場へ行くことになって見送る道中「一つだけ」と言う。
そして、父親が持っていくはずのおにぎりを全部食べてしまった。父親が汽車に乗り込む前に、また「一つだけ」とせがむゆみ子に、父親は「一つだけあげよう」といって、駅構内のゴミ捨て場のようなところに咲くコスモスを摘んで渡してあげた…。
これについて「父親が駅でコスモスを一輪あげたのはなぜか」を問うと、「駅で騒いだ罰として、汚い花をゆみ子に食べさせた」といった回答があがるんです。
小川:びっくりしました。戦争中の親子の心理をまったく想像できていないのですね。
石井:こう言ってはなんですが、AIに負けない人材をと言いつつ、AIみたいな人間を作っていますよね。書かれてあることだけを読めば、そういう回答になるのかもしれませんが、それならAIと同じでしょう。
このように、読解力以前の基礎的な力が不足している子たちが増えているのです。生きる力としての国語力が不足していれば、この先非常に苦労することになります。
国語力があれば、人生のあらゆる課題に対して、それを乗り越える方法を考えることができるんです。その能力が、生まれ育った環境だけで決まるようではいけません。親ガチャにはずれたら、適切な言葉を持てないというのは問題です。
小川:どんな家庭でも、言葉の力を身に着けられるのが理想ですよね。
石井:それが教育の担うことですが、残念ながら公教育だけでは難しいです。やはり、幼児期の家庭で豊かな語彙に触れないことには、国語力のベースができません。
今は児童福祉がかなり成長してきており、行政のサポートは手厚くなっています。たとえば貧困家庭などリスクのある家庭をチェックして、サポートしているんですね。でも、食料品は送っても絵本は送っていないでしょう。
物理的に栄養をとることは大事ですが、言葉も大事な栄養なんです。食べなければ生きていないのと同じくらい、言葉を得ないと生きていくのが大変なんです。社会全体として、もっと意識すべきことだと思いますね。
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