子どもの国語力を伸ばすために「本の感想を聞く」は効果ある?
子どもたちの言葉を奪う社会の病理を描き出して話題となった『ルポ 誰が国語力を殺すのか』の著者、石井光太氏。「ヤバイ」「ウザイ」などの言いかえを紹介しながら、楽しく語彙を増やす児童書『超こども言いかえ図鑑』の著者の一人、小川晶子氏。
両者が「子どもと言葉」について感じる危機感を、それぞれの立場からざっくばらんに語り合った。第4回は、本当の国語力を身に着けるために大切なことをテーマにしてお届けする。
石井光太(いしい・こうた)
作家。国内外の貧困、災害、事件などをテーマに取材・執筆活動をおこなう。2021年『こどもホスピスの奇跡 短い人生の「最期」をつくる』で新潮ドキュメント賞を受賞。
小川晶子(おがわ・あきこ)
ブックライター、絵本講師。
児童書や教育関連の書籍を中心に本づくりに携わっている。
国語力は総合的な「生きる力」のために必要
石井:言葉を生きる力にするには、さまざまな体験を通じて、学力以外のところを鍛えなければいけません。それは一見、効率が悪く見えるのですが、大事なことです。コスパ(コストパフォーマンス)やタイパ(タイムパフォーマンス)ではかってはいけないのです。
先日、ある小学校の運動会の話を聞いたのですが、そこでは1年生と2年生が徒競走やダンスをしている間、他の学年は国語や算数をやっているというんです。次に3年生と4年生が運動会をしている間、1年生・2年生は勉強に戻る。
コロナをきっかけにこのスタイルになったわけですが、体験を軽視しているように感じます。徒競走とダンスを覚え、親に披露するのが目的になっているんです。でも、本来の運動会は、全学年が一緒になって応援したり、喜んだり悔しがったりという体験こそ大きな価値があると思うんですよね。
今は読解力や語彙力に注目は集まっていますが、「言葉」や「国語力」は総合的な「生きる力」のために必要なのだというのを前提にする必要があります。
語彙力が必要だと言ってひたすら語彙を増やす、読解力が必要だと言って読解のトレーニングをするといったことで、成果を上げようとしているように見えます。ぼくはそれは怖いと思っています。
小川:表層的で細分化された「〇〇力」にフォーカスしたツールが大量にあるというのが現代ですね。遊びや体験を減らしてさまざまなものを詰め込まれ、成果を求められているのだとしたら、子どもたちは辛いですね。
石井:子ども自身が、自分が生きていくためにどういう力が必要なんだろう?と考える機会を奪ってはいけないと思います。それは簡単に答えが出るものではないでしょう。
ちょっと難しい本を読む自分、かっこいい!
小川:今は何でも簡単にわかりやすくした本が多く出ています。
かつては、ちょっと背伸びして難しそうな本を読むのが「かっこいい」という風潮もあったと思います。でも今の子どもたちは、かみ砕いてたくさん与えられるので、あえて難しい本を読もうとはなかなか思えないかもしれません。
『超こども言いかえ図鑑』は、文豪くんや式部さんというキャラクターを登場させていますが、いずれはやはり本物の文豪の作品や平安文学にも触れてほしいです。
石井:「かっこいい」というのが大事ですね。難しくて意味がわからなくても、読んでいるうちに慣れてくるから。
深く物事を考え、語ることができる、伝えることができる人間をかっこいいと思う文化があれば、子どもたちも背伸びして難しい本を読もうかなと思うでしょう。
ところが、何でも簡単にして動画で効率よく学べればいい、理解できればいいという考え方が主流になっていますね。そうすると背伸びしている時間がもったいない、タイパが悪いということになります。
小川:『ルポ 誰が国語力を殺すのか』の中で紹介されていた、日本女子大学附属中学校の「アンネの日記」文庫本を読む授業はとても印象的でした。学校がそういった作品を読むのがかっこいいという空気を醸成し、成功しています。時間をかけて1冊を読み、時代背景を調べたり、自分の体験とつなげて考えて言語化し、語り合い、発表する。こういう授業なら、生きる力としての国語力を養うことができますね。
石井:そう思います。単に文学作品を読めばいいということではなくて、体験と言語化が必要なんです。とくに子どもたちは、無意識にいろいろな体験をしてはいますが、それを言語化しないことが多いです。
ですから親や先生は、子どもの体験を言語化させてあげたいところです。話をさせたり、日記や感想文を書かせたりといったことです。それによって子どもたちは体験を言葉で理解することができるんです。言語化された体験があると、文学作品を読んだときに体験とつなげて考えられるようになります。
本を読んで得たボキャブラリーも、実際に使う場面がなければ身に着かないですよね。他学年に向けて発表するとか、不特定多数の人に向けて話をするといった機会を作ることで、言葉を選ぶことができるようになります。
言葉にできないモヤモヤも大事
小川:家でできることを考えるとすると、なるべく文学作品に触れさせて、それから体験を言語化するのを促して…。ただ、本を読ませて「どうだった?」って聞いても言葉が出て来ないことが多く、あまり感想を求めるのも良くないのかなと思ったりします。どうなんでしょうか。
石井:子どもは、本当に心が動いたときは言葉にしようとしますよ。親が横について感想を求めるというのではなく、自由な空間で、勝手に空想を広げていくような体験が重要でしょうね。
それから、アウトプットできないモヤモヤを持つというのも大事だと思うんです。あのとき言葉にできなかったものを抱えているから、その後の人生の中で一生懸命言葉にしようとするじゃないですか。
小川:確かにそうです。子どもの頃、言葉にならないもどかしさをよく感じていました。
石井:子ども時代はとくに、感じること、モヤモヤを持つことが大事です。知識の勉強だけでは得られないことです。
関連書籍
ルポ 誰が国語力を殺すのか(文芸春秋)
『ごんぎつね』の読めない小学生、反省文の書けない高校生…子供たちの言葉を奪う社会の病理と国語力再生の最前線を描く渾身のルポ!「文春オンライン」200万PV突破の衝撃ルポ「熊本県インスタいじめ自殺事件」を含む、現代のリアルと再生へノンフィクション!
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マンガで笑って、言葉の達人! 超こども言いかえ図鑑(Gakken)
気がつくと、毎日「ヤバイ」「マジ」って言葉ばかり使っていない!?なんでも「ヤバイ」なんていっていたら、それこそ「ヤバイ」状況!日本語はひとつの意味をたくさんの表現であらわすことができるんです。学校行事をつうじて日本語のゆたかな表現を学んじゃおう!