もう勉強なんかしたくないのに…中学受験が引き起こした「親子の確執」

親野智可等

子どもの幸せを願って「中学受験」をすることに決めたのに、当の我が子はやる気がない…。言う通りに勉強しない子どもにイライラしてしまう…。そんな悩みを抱える親御さんがいます。しかし、子どもに受験勉強を強いることは、本当に正しいことなのでしょうか? 教育評論家の親野智可等さんが語ります。

※本稿は親野智可等[著]ぴよととなつき[イラスト・マンガ]『反抗期まるごと解決BOOK』(日東書院本社)から一部抜粋・編集したものです

親野智可等(おやの ちから)
教育評論家。本名、杉山桂一。長年の教師経験をもとに、子育て、しつけ、親子関係、勉強法、学力向上、家庭教育について具体的に提案。人気マンガ「ドラゴン桜」の指南役としても著名。Twitter、Instagram、YouTube、Blog、メールマガジンなどで発信中。

ぴよとと なつき
滋賀県出身のイラストレーター、まんが家。夫と息子2人と過ごす日々を育児マンガにしてSNSにて投稿中。最近オンラインで筋トレと英会話を始めました!ブログ「ピヨトト家のひとコマ。」voicy「近所のピヨトトさん」

中受が親子関係に影響…

中学受験をさせたいのですが、本人はモチベーション低め。受験に熱心な夫と息子との関係もあまりよくありません。なんとかやる気を出させるには?

(小学5年男子の母)

受験よりも子どもの心身の健康が大切です

こちらの相談者さんのお話を詳しく聞くと、お父さんは子どもが勉強しないことに腹を立てて勉強用具をゴミ箱に棄てたり、子どもが読んでいた雑誌を取り上げて投げつけたりしたことがあったそうです。

私が改めて感じたのは、中学受験で子どもに無理をさせることの弊害がいかに大きいかということです。

こういう話は氷山のほんの一角であり、同様の事例は密かに多く起きています。事件にならないとメディアが報道することはありませんが、将来の大きな事件の元になりかねない親子の確執が、家庭という密室の中で生み出されているのです。

そもそも10歳ちょっと過ぎたくらいの子どもたちにとって、毎日長時間の勉強をやり続けるというのは不自然なことです。発達段階から見ても、この年代は毎日楽しく遊びまくる、時間を忘れて自分がやりたいことに没頭するという姿が自然です。黄金の少年少女時代の最後の時期なのです。

にもかかわらず、やりたいことをやる時間は取り上げられ、毎日難しい勉強をやらされ、やらないと叱られる…。この年代の子どもたちにとって親からそのように辛く当たられるのは、苦痛以外の何物でもありません。

本格的な思春期・反抗期が始まる前のことを思春期前期と呼びます。この大切な時期に良い親子関係を築き、親への信頼感を育てることで、子どもは他者信頼感を持てるようになります。また、自分を肯定してくれる言葉をたくさんもらうことで、自己肯定感を持てるようになります。

そして、自分が本当にやりたいことを十分やることで、生きる喜びを味わったり、物事に主体的に取り組む自己実現力が育ったりする時期でもあります。

ところが、この大切な時期に、無理な中学受験によって真逆な方向に進んでいる親子がたくさんいます。

例えば「親から叱られ続けることで自己肯定感が持てなくなり、自己否定感にとらわれるようになる」「やらされることばかりやっているうちに、自分がやりたいことを自分で見つけて取り組む主体的な自己実現力が持てなくなる」「ギリギリの成績で合格し、入学してからも苦しい状態が続き、重苦しい思春期になってしまう」などです。

無理な中学受験でなく、子どもの人生全体を見据えた上で持続可能な中学受験を目指してほしいと思います。

例えば「無理な目標設定をせず、本人ができる範囲の頑張りで届く目標にする」「遊びも含めて自分がやりたいことをやるなど、子どもらしい健全な生活を楽しみつつ勉強する」「少し余裕を持って受験に臨める学校に進学し、ゆとりのある状態で豊かな思春期を過ごす」などです。

親が中学受験に一生懸命になるのはそもそも子どものためのはずです。それならば、この時期の子どもにとって一番大切な自己肯定感・他者信頼感・自己実現力などの涵養を、目の前の受験勉強によって犠牲にしていないか細心の注意を払うべきです。

最後に付言しますと、中学受験への強いモチベーションがない、まだ自己管理力が育っていない、学力が伴っていないなどの状態にある子は、潔く中学受験から撤退し、高校受験で勝負した方が良い結果が得られる可能性があります。

親子関係が良いと他者信頼感が育つ

私は長年教壇に立って数多くの親子を見てきましたが、その経験からも親子関係の大切さを強調したいと思います。

親子関係は子どもにとって一番最初の人間関係であり、そこで良い関係を築くことができると「人は信頼していいんだ」という認識を持つことができます。

それによって、他者一般に対する信頼感、つまり他者信頼感を持つことができるようになります。これがある子は、一生涯にわたって良好な人間関係を築くことができます。

逆に、親子関係が悪いと他者不信感を持ってしまいます。これは言い換えると人間不信であり、良好な人間関係を築けなくなる可能性があります。

また、親子関係が良い子は、よく褒められて自己肯定感が育っています。ですから、勉強や運動やイベントなどでも「面白そう。やってみたい。自分は頑張れる。できる」と感じることができ、積極的なチャレンジが可能になります。また何かで挫折したり失敗したりしても立ち直ることができます。

「親子関係を良くする」をもっと大切に

このように、親子関係を良くすることはとても大事なのですが、肝心の親たちの関心は別のところにあることが多いようです。子育てに邁進している多くの親たちの関心は、主に次の3つです。

①子どもの学力を上げたい。もっと勉強ができるようになってほしい
②しっかりしつけをして子どもが自立できるようにしたい
③良い学校に行ってほしい。良い仕事に就いてほしい。勝ち組になってほしい

親たちは、無意識のうちにこの3つの願いを持っています。中には、これらのことを達成するためには多少親子関係が悪くなっても仕方がないと思っている人すらいるようです。

しかしながら私はこの3つよりも、もっともっと親子関係を良くすることを大切にしてほしいと思います。

親子関係を良くするには、子どもが親の愛情を実感していることが大切です。「自分は親に大切にされている。愛されている」と感じることができれば「お父さんやお母さんは話を聞いてくれる。自分のことを分かってくれるし受け入れてくれる」と感じ「自分もお父さんやお母さんが大好き」と思えるようになります。

子どもの人生を良くする最大の鍵は「親子関係」です。どうか皆さんも、お子さんの幸せを心から願うのであれば、何よりも良好な親子関係を築くことを優先してもらいたいと思います。

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