人気の絵本作家が「パンダの目は描かない」と決めた理由とは? 柴田ケイコさんの制作秘話

柴田ケイコ
2023.12.28 14:33 2023.10.06 17:00

柴田ケイコさん

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パンをかぶった目つきの悪い小動物(『パンどろぼう』)に、お茶碗によそられたずんぐりむっくりの白くま(『おいしそうな しろくま』)……人気絵本作家、柴田ケイコさんが描くキャラクターは、ただかわいいだけではない、ひとクセのあるビジュアルが魅力的です。そんな柴田さんが、人気の動物・パンダを描くときのこだわりとは?

新作絵本、『パンダのおさじと フライパンダ』(ポプラ社)の制作秘話をご本人に語っていただきました。


柴田ケイコ(イラストレーター・絵本作家)
高知県在住 2002年よりフリーイラストレーター 2016年よりイラストレーター兼絵本作家 個展や企画展にて雑貨制作も行う。

子どもの心を掴む「楽しい呪文」の誕生秘話

パンダのおさじとフライパンダ

――『パンダのおさじと フライパンダ』では、「アッポパイ、ポコパイ」の呪文と、楽しいダンスが子どもたちの心を掴んでいます。子どもが喜ぶツボがわかるのは何故でしょうか?

自分自身に子育ての経験があるのが大きいかもしれないです。覚えやすいフレーズが子どもの心に刺さるのを、自分も読み聞かせで体験してきたので。

テレビCMでキャッチーなコピーが流れてくると、子どもだけでなく大人もずっと頭に残りますよね。そういう要素を絵本に入れてもいいなと思い、『パンダのおさじと フライパンダ』では呪文を登場させました。

私は落語が好きなんですけど、「死神」という古典落語のおまじないがすごく面白くて。呪文のヒントはそこから得ています。理由はわかりませんが、私自身もともと呪文が好きなのかもしれないです。

――かわいいだけじゃない、ひとクセあるキャラクターも柴田さんの作品の魅力ですよね。絵本のキャラクターを作る上で、何か意識されていることはありますか?

既存のキャラクターと似ているものは、なるべく作らないよう意識しています。ちょっと変わっていた方が皆さんも反応して下さるし、私もそういうキャラクターが好きなので。『パンダのおさじと フライパンダ』には、そこまで濃いキャラクターはいないんですけど、しゃもじいがちょっと怪しいですよね。ああいうやつがいてもいいと思っています。

自分でパンダを描くとなったら、目は入れたくないなと思っていたので、おさじくんは真っ黒な目元になりました。私の感覚だと、目を入れるとかわいさが退いてしまう気がしたんです。「パンダって遠くから見たら目が見えないし、いいんじゃないかな」と思って。目を描けば表情をつけやすくなるのかもしれないんですけど、目がなくても、何となく表情が出ると思うんですよね。

マズルは白にしちゃうと一般的なパンダになっちゃうので、おさじくんらしい色でちょっと差別化しようかなと思って、ほんのりピンクにしました。

「子どもにとって面白いお話」を書きたい

柴田ケイコさん

――『パンダのおさじと フライパンダ』もそうですが、動物と食べ物の面白い組み合わせが絵本によく登場しますよね。アイデアはどんなタイミングで生まれるのでしょうか。

やっぱり、ご飯を食べてる時や、作ってる時……あとは、車を運転している時や、掃除機かけてる時など、仕事場から離れているタイミングにアイデアが浮かぶことが多いです。プロットを考えるときも、仕事場を離れて別の場所へ行くようにしています。あまり家の中にはいないかもしれないですね。

――登場する食べ物が全て美味しそうです。

美味しいものを食べるのが大好きなので、どうしても食べ物を描くことが多いですね。読者の方から、「子どもの食べず嫌いがなおりました」という感想もよくいただきます。

『パンダのおさじと フライパンダ』を読んだ方からは、「絵本に出てくるメニューを実際に作ってみました」という感想もいただきます。難易度が高いメニューも登場するので、「子どもにリクエストされて困ってます」という声をいただくことも。(笑)

――読んでいてびっくりするストーリー展開も多いですが、お子さんへの読み聞かせの経験から、このような作風が生まれたのでしょうか。

絵本って、ちょっと教育的なものや大人向けのものまで、種類が豊富にありますよね。その中で、「自分は何を書きたいのか」と考えた時に、「子どもにとってわかりやすい話、面白いお話を書きたい」と思ったんです。

理屈では説明できない展開の物語って、子どもも楽しめるし、私自身もすごい好きなんです。理屈もある程度大事なんですけど、それだけだとどうしても面白みが欠けてしまう。

ちょっとめちゃくちゃな話もありますけど、その方が書いてて楽しいし、私はやっぱり「びっくりさせたい」「おもしろがってほしい」という気持ちがあるので、自然とそういった作風になっていると思います。

「おさじ」を身近に感じてもらえたら

パンダのおさじ

――ご自身の絵本を、お父さんお母さんにどのように読み聞かせして欲しいと思いますか?

絵本によって、読み聞かせのスタイルが少し違ってくると思います。
『パンダのおさじと フライパンダ』の場合は、「ここは踊っていいよ」「踊りながら聞いてね」と声をかけてあげたり。 『おいしそうなしろくま』シリーズだったら「どのすしネタが好き?」といった問いかけがあるので、1対1はもちろん、大人数のときに読んでも面白いかもしれません。
「このように読んでほしい」というのは全くないので、自由に、自分らしく読んでいただけたらと思います。

もしお父さんお母さんが、読み聞かせがつらいと感じるのであれば、例えば病院の待合の隙間時間に読むなど、生活の中にすこしだけ絵本を入れてあげて、親と子のコミュニケーションツールにしてもらえたらいいなと思っています。
絵本は子どもにとって、たとえばボールで遊ぶと同じぐらいの感覚で、身近な存在であってほしいです。

――『パンダのおさじと フライパンダ』は、発売してまもなく重版がかかるほどの人気ですね。

沢山の方に「かわいい」と言っていただき、本当にありがたく思っています。おさじくんは、「手のひらサイズのパンダが、自分を応援してくれる存在であってほしい」と思って描いたキャラクターなので、皆さんも生活の中で、たとえ見えなくても、「そこにおさじくんがいる」と思ってもらえたら嬉しいです。

これからもシリーズが続くと思うので、次回も楽しみに待っていてください。

(取材・文:nobico編集部)

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