ヨシタケシンスケさんの「わたしの子ども時代」

ヨシタケシンスケ
2024.05.09 22:28 2015.03.05 00:00

ヨシタケシンスケさんの「わたしの子ども時代」の画像1

大ヒット絵本『りんごかもしれない』の作者、ヨシタケシンスケさん。2015年3月に『りゆうがあります』が発売され、注目を集めました。そんなヨシタケさんの子ども時代とは?ご本人に語っていただきました。(取材・文:熊本りか 写真:金子 睦)

※本記事は『PHPのびのび子育て』(2015年3月号 「わたしの子ども時代」)に掲載され、WEBサイト「PHPファミリー」に2015年3月に転載されたものです。

私の子ども時代

「小さい頃から、おもしろいことばかり考えていたのですか?」。僕の絵本『りんごかもしれない』を読んでくださった方からよくそう聞かれます。この絵本は、ひとつのりんごを目にした男の子が、そこからどんどん発想を広げていくお話ですが、実は僕の子ども時代はその真逆。楽しい想像とは無縁だったのです。

僕には姉と妹が2人いるのですが、2歳年上の姉がとにかく我が強くて、僕はまったく歯が立ちませんでした。異を唱えることでその場が荒れるくらいなら、姉の言うことに黙って従うほうがいい。それが僕の生きる道だったんです(笑)。しかも姉は、勉強もできるし、絵を描いても習字を書いても上出来。いくつもの賞をもらうような子どもだったので、年中みんなから褒められていたんですね。

そんな姉に僕は勝手にコンプレックスを抱き、自分はきっと何をやってもダメなんだと思い込んでしまったようで……。引っ込み思案で気が小さかった僕は、姉を怒らせないようにといつもびくびくしていたせいか、家の外でもまわりの目ばかり気にしていたように思います。自分のことを話したり、やりたいことを主張することができず、保育園に行くのもイヤで仕方がなかった。毎朝、母にしがみついて泣いていました。

僕のための空き箱やテープ……母の“応援”が嬉しかった

でも、だからといって毎日がつまらないとも感じてはいなかったんです。それは、はしゃぐようなことのない毎日が僕にとってはすべてで、それ以外の世界があることに気づいていなかったから。おもしろいことを探してみようという発想さえありませんでした。

別の世界があることに、やっと気づいたのが大学生の時。ものの見方をちょっと変えるだけでいろんなものをおもしろがれると知って、人生が変わったんです。

正直、鮮明に覚えている子ども時代の記憶は少ないのですが、工作が好きだったことだけはよく覚えています。工作だけは姉が手を出さなかったというのも少なからずあったのですが(笑)、工作関係のテレビ番組の影響も大きかったですね。いろんなものを作れるのっていいなと憧れました。

何より嬉しかったのは、作品を作ると母がものすごく褒めてくれたこと。いろんな大きさの空き箱やテープを僕のためにとっておいてくれたので、応援してくれているのを子ども心に感じていました。

今にして思えば、僕が姉にコンプレックスを抱いていることに気づいていた母が、なんとかして僕に自信をつけさせようとしてくれていたのかもしれません。「その子なり」が口ぐせで、僕のあるがままをいつも認めてくれた母が、本当に大好きでした。

子どもたちをほっとさせたい

母が家庭文庫を開いていたので、家にはたくさんの本がありました。僕は、文字より絵のほうに興味があったので、絵本は大好きでした。特に気に入っていたのは、1ページの中に絵がいっぱい描いてあって、どれが好きかと母と言い合えるものや、物の断面図が描いてあるような本。今の作品にその傾向が見られるのは、そういうのが子どもの頃からずっと好きだったからなんです。

大好きだからこそなかなか手を出すことができなかった絵本というジャンルに挑戦してみようという気になったのは、父親になり、息 子という身近な取材対象を得てからです。2人の子どもたちを見ていると、自分も通過してきたはずなのにすっかり忘れていたことを、「そういえば自分もこんなことを考えていたなあ」と思い出すことが増えました。

大人になると当たり前にわかっていることでも、子どもはそもそもその発想にさえもいたらないことだってある――そんなことにも気づきました。

新刊『りゆうがあります』(PHP研究所)で伝えたいのは、大人は「立場上」ちゃんとしているように見せてはいるけれども、実は君たちとたいして変わらないんだよという、ある意味、身も蓋もない、でも大切な事実です。

そこから何かを学んでほしいとか大仰なことではなく、そんなことを考えてもいなかった子どもたちに「言われてみればそうだよね~」と、自然に受け取ってもらえたら嬉しいです。

大人はよく、子どもに目標や夢を持たせようとします。でも、それがないとダメだと言うのは残酷だと思うんです。僕だって、夢はな かったけど、どうにかなりましたし、夢の叶わない人もいる。それでいいんです。子どもたちにはそんな、ほっとさせるメッセージを送り続けたい。物議をかもすようなことは望んでいませんので、場を荒立てない、ふわっとした表現でね(笑)。

ヨシタケシンスケ

ヨシタケシンスケ

1973年、神奈川県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。日常のさりげないひとコマを独特の角度で切り取ったスケッチ集や、児童書の挿絵、装画、イラストエッセイなど、多岐にわたり作品を発表している。『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)で、第6回MOE絵本屋さん大賞第1位、第61回産経児童出版文化賞美術賞などを受賞。2児の父。

関連書籍

りゆうがありますの画像1
りゆうがあります(PHP研究所)
ハナをほじったり、びんぼうゆすりをしたり、ごはんをボロボロこぼしたり、ストローをかじったり…。こどもたちが、ついやってしまうクセ。それには、ちゃんとした「りゆう」があるんです。4~5歳から。
りゆうがありますの画像2りゆうがありますの画像3