子どもを賢く育てるには? 医師が「親の甘えさせ方が重要」と語る理由

成田奈緒子

「甘えられた子」の脳は…

子どもの「甘え」をしっかり受けとめることで、3つの脳がしっかり育ちます。

【からだ脳】脳に規則正しい生活リズムがインプットされる
幼児期は「眠い」「食べたい」などの生理的な欲求をそのまま出すことで、子どもは全力で甘えます。「甘え」をきちんと大人に受けとめてもらい、タイミングよく欲求を満たされていると、「寝る」「起きる」「食べる」といった生活リズムが脳に刻まれます。

また、喜怒哀楽をストレートに出し、甘える子どもをありのまま受けとめることで、親に対する愛着が形成されます。

【おりこうさん脳】新しく得た知識、情報が脳に蓄積される
子どもの好奇心からくる要求、たとえば「○○したい!」「△△を見たい!」などを聞き入れ、甘えさせてもらった脳では、知識や情報が次々と蓄積されて、さらなる学習への意欲が高まります。

毎日たくさん新しいことを学び、それを十分な睡眠でしっかりとした神経回路網として脳に定着させれば、かしこい脳に育ちます。

【こころの脳】論理思考を担う前頭葉がしっかり育つ
10歳頃からは、友人関係もやや複雑になってきて、本音は家族の前でしか言えなくなってきます。「今日、学校に行きたくないなあ」と弱音を吐くとき、子どもは行かなくてはいけないことは百も承知で甘えているのです。

こういうときには突き放さず、「そうなんだ、行きたくないんだ」とまずは共感し、さりげなくスキンシップを取って安心させましょう。認めて受けとめられることで、じっくり考える余地が生まれ、論理思考の前頭葉が育ちます。

「甘えられなかった子」の脳は…

脳が育たず、生きていくために必要な力を伸ばせなくなります。

【からだ脳】生活リズムが乱れやすく、不安が強い脳に
子どもの「眠い」「食べたい」「いやだ!」「○○したい!」という要求をしっかり受けとめ甘えさせないと、5歳頃までに作られる「からだ脳」がきちんと育ちません。睡眠や食欲のリズムが整わないだけではなく、親に受け入れられたという実感が得られず自信が育たないので、不安が強い脳になります。

【おりこうさん脳】学習に必要な好奇心や探求心が育たなくなる
小さい頃から習い事などでたくさんの知識を投入し続けていても、それが「自発的」な子どもの好奇心から取り入れたものでなければ、「おりこうさん脳」の育ちにはあまり効果がありません。

たとえば、成長にともない「やっぱりピアノより和太鼓を習いたい!」と子どもの興味関心が変わったときに、「簡単にやめるなんてダメ!」と甘えさせない関わりばかりだと、子どもは次第に自分の探求心を引っ込めてしまいます。

【こころの脳】前頭葉が育たず、自分で考えられない子になる
せっかく自分で考えたことを言葉にしても、頭ごなしに否定され甘えさせてもらえないことが繰り返されると、子どもは考えるのをやめます。

そして、親の言う通りになんでも行動するようになります。親にとっては育てやすく都合がいいかもしれませんが、これは「こころの脳」、すなわち前頭葉が育っていない状態です。

脳をしっかり育てるためにこんなふうに「甘え」を受けとめよう

どんなときも子どもの一番の味方になり、気持ちに寄り添うことが大事です。

・おおらかに受けとめ、十分に甘えさせる
脳の育ちの順番をよく理解すれば、「ここは叱っても仕方がない」と割り切れるはずです。特に乳幼児期は「原始的な要求を前面に出す」ことこそが、子どもの脳の発達に大切です。

まずは、子どもが出してくる要求をいったんそのまま「よしよし」とおおらかに受けとめ、甘えさせます。その上で、「今は○○だから我慢ね」と理由を含めて伝えましょう。

できなくても仕方ないのですが、もしも我慢できたときには、「できたね!」「がんばったね!」と笑顔と言葉で大いにほめ、抱きしめてあげてください。お金や物をご褒美として与えるのはできるだけ避けましょう。

小学生になり、たとえば「宿題は後でやるから遊びに行っていい?」と甘えてきたら、いったん聞き入れて任せてみましょう。ただし、晩ごはんと寝る時間についてだけは甘えを許さずしっかり守らせ、生活リズムは崩さないようにします。

宿題ができず学校で叱られても、親に受けとめてもらえている子は折れません。むしろ、失敗を繰り返さないように自分で考えて自発的な行動ができるようになります。



・どんなときでも共感とスキンシップ
高学年ともなると子どもの言葉も過激になりますが、しょせんは親にだけ見せる「甘え」から発しているものです。大人は「そんなことを言っていると、まともな大人に育たない」と考え、正論で説き伏せようとしがちですが、これはNGです。

たとえば「○〇君、大っ嫌いだから、サッカーに入れたくない!」と言う子どもに、「そういうことを言ってはいけないよ。みんなと仲良くしなければダメでしょ」とは言わず、まずは「そうなんだ。○〇君、大っ嫌いなんだ」とオウム返しをしましょう。

親に甘えてわがまま発言をしていることを重々承知している子どもは、受け入れられたことに驚き、つい本音を話したくなります。「大っ嫌いってことはないけど、今日◯○君、僕の悪口を言ったんだよ。だからさ……」などと理由を伝えてきたら、「だからサッカーに入れたくないのね」と、さらにオウム返し。

そうすれば脳がきちんと働き出して子どもは、「うん……。でも、〇○君、サッカーうまいからなあ、やっぱり一緒にやりたいな」などと言い始めます。そこで、「ちゃんと考えられたじゃない!」とほめて抱きしめてあげれば、子どもは「わかってもらえた」と大きく安心します。