「さかなのおにいさん かわちゃん」が教える、子どもの”好き”を見つけて伸ばす方法
最新刊『おさかなさがしえずかん』が人気を集める「さかなのおにいさん かわちゃん」。魚に関わる活動を通して、日本全国のたくさんの子どもたちと触れ合ってきたかわちゃんに、子どもたちの「好き」のエネルギーとその受け止めかたについて、ご自身の体験とともにお話をききました。(取材・文:KADOKAWA児童局図鑑編集部、写真提供:さかなのおにいさん かわちゃん)
さかなのおにいさん かわちゃん
大阪出身。魚の生態や海の大切さを面白いイラストや歌で伝えることで子どもの好奇心を育てる活動を行なう。メディア出演のほか、絵本制作やテレビ番組「シナぷしゅ」での歌・アニメーション制作などクリエイターとして活躍の場を広げる。
子どもの「好き」の見つけかた
↑取材で撮影させていただいたかわちゃんの部屋には、壁にも魚のモチーフが飾られていて魚への熱い思いが伺えた
――普段どのような活動をしているか教えてください。
子どもたちが魚を好きになる入口をいろんなところで作ろうと思って活動しています。テレビ・ラジオ番組で魚や水族館の紹介をしたり、魚のことを好きになってもらえるように絵本を描いたり、「シナぷしゅ」ではアニメーションや歌を作って歌っています。
2023年9月に開催された「ぷしゅソングフェス」では歌のおにいさんのようにたくさんの子どもたちといっしょに魚の歌を歌いました。「子どもたちが魚を好きになると海はきれいになる」が僕の目標です。
――どのような子ども時代を過ごされていましたか?
父親が魚が好きで、0歳から5歳くらいまでは家で熱帯魚を飼っていました。家族のように大事に育てていて、父親からは「クジラの赤ちゃん」と教えられていました。自分ではクジラを飼っていると思っていたのですが、幼稚園で魚が好きな友達ができて家に遊びに来てもらった時に、その子にクジラではないと思うと指摘されて…。
父親に確認したら、実はレッドテールキャットフィッシュだったという印象的な思い出もあります(笑)。
――どのようなご家族でしたか?
父親はアクティブで何でも体験させようというタイプで、母親は絵を描いたりDIYとかものづくりが好きなタイプでした。まず親が僕に将来を期待しているということは全く感じませんでしたね(笑)。家業があったので父親からは「お前は自由なことをしろ」とは言われていました。
幼少期に親にしてもらって一番良かったなって思うことは、週末ごとのアウトドア生活です。金曜の夜になると家族全員で車に乗り地元の大阪から滋賀へ向かいました。
週末は琵琶湖のほとりにある自然豊かな町(滋賀県高島市マキノ町)に通って、花や野菜を植えたり、薪を割って火をおこしたり、家を建てたり…。当時はイノシシやサル、クマとも遭遇するような本当にのどかな場所で。
小学校6年間その生活が続いたのですが、自分の中ではその日々が人生の土台になっていると感じます。魚に限らず、さまざまな自然や生き物を見て実際に触れ合ったからこそ、図鑑や本で見ていたものに対して実感が生まれたし好きになったのかなって。
大人になってからも「自分は自然が好きだったな」「魚釣り楽しかったな」というポジティブな気持ちや思い出がとても大事だと思いますね。
褒められた経験が自分の「好き」を誰かにつなげていける
↑小学校低学年時代から魚や絵を描くことが大好きだったそう。画用紙いっぱいに堂々と描かれたオレンジ色のクジラの姿が印象的
――好きなことを見つけて続けてこられた秘訣を教えてください。
2023年夏から「おさかなサマースクール」をスタートさせました。「好きなことを見つけて広げて誰かに伝えてハッピーにできたら人生は豊かになる」をテーマにして、国内外の子どもたちとオンラインでつながってワークショップを重ねていく活動です。
そのサマースクールの保護者アンケートで一番多かったのが「かわちゃんの子どもへの声のかけ方がめっちゃ参考になりました」だったんです。
僕の「ここがいいね!」「ここできててすごいじゃん!」という声がけは、幼少期から僕の母親が本当に細かいことをいちいち褒めてくれたことが関係している気がしています。
たとえば「今日は靴並べられてえらいね!」とか「爪切るのうまいね!」とか(笑)。些細なこと普通のことでも褒めるところを見つけてくれて。子どもって自分が何が得意かなんて分からないので、親が「あんたは器用やね」って言うから「自分は器用なんかな」と思うし。
子どもは特技に気づけると自信が持てますよね。僕自身は、だから好きなことを続けてこられたと思います。
「好き」はいくつあってもOK! 「好き」のものさしでたくましく生きる
↑テレビやラジオのほかに、保育園・幼稚園・小学校での講演会や、さまざまなイベントで魚や海のことを子どもたちに楽しみながら知ってもらう活動を続けている
――活動を通して子どもたちから教わったことはありますか?
普段からたくさんの子どもたちと話すのですが、やはり褒められた経験がたくさんある子は自信を持つというだけでなく、自分が褒められたように他の人の良いところにも気づけるし他の人のことを褒めることができるみたいなんです。
よく「これからの子どもたちにはコミュニケーション力が必要」とかいわれますけど、コミュニケーション力を培うために必要なことって「親の褒め力」なのかもしれません。
自然の体験も子どもを褒めることも、身近な場所や親が自分でできる小さな範囲で充分なのだと思います。近所の公園へ行ってテントウムシを見つけたり草花を見たり。
魚たちを探しながら、350種以上の魚たちの生態を面白く紹介していく『おさかなさがしえずかん』の一部
いまはタイパ(=タイムパフォーマンス)の時代ですよね。子どもたちもYouTubeやTikTokを倍速で見たり。タイパでも良いのですが、結果的に受け身で知識を得る機会も多いように思います。
子どもたちには能動的であることが大事だと思っているので、最新刊『おさかなさがしえずかん』でも普段は本を読むことが好きじゃない子でも「遊びながら楽しみながら」を意識しました。年齢ごとに楽しみかたが変えられるように、余白をつくったつもりです。
――子どもが「好き」を見つけても、継続せず悩む親も少なくありません。
たとえ一時的だとしても「好きなことがある」ということ自体が素晴らしいですよね。好きなことがどんどん変わっていっても、それぞれの「好き」のものさしが増えていくと、それぞれの「好き」で繋がった人たちやコミュニティも増えます。
社会が変化しても、「好き」のものさしがあれば豊かに生きていけると思っています。子どもにはたくましく生きてほしいと言いますが、たくましく生きるっていうのは「好き」のものさしを見つけるということかなと自分なりには思っています。
関連書籍
おさかなさがしえずかん(KADOKAWA)
本書は、魚や水の生きもののことを楽しく教えてくれる「さかなのおにいさん かわちゃん」による魚の探し絵図鑑絵本。太平洋、深海、極海、日本の川、太古の海、回転寿司屋さん…などさまざまな場所に逃げてしまった350種以上の魚や水の生きものたちを、探して見つけて遊べます。 カラフルで楽しいヴィジュアルと、ちょっとオモロい!? 魚たちの姿に思わず笑ってしまうかも!? 本格的な魚たちの生態が学べるだけでなく、もっと楽しみたい人に向けたミッションもあるので、未就学児から小学生まで長く楽しめます。