犯罪心理学者が警鐘 「闇バイトに手を出す子ども」を生んだ家庭で起こっていること

出口保行,小川晶子

近年ニュース等でよく聞く「闇バイト」。簡単に高額報酬がもらえるバイトに見せて、実態は特殊詐欺の実行犯など犯罪の手先である。いかにもあやしいように思えるが、なぜ簡単に手を染めてしまうのか。その背景には子どもたちの語彙力のほか、単純な知識不足や事前予見能力の欠如がある……。

「ヤバい」「ウザい」といった言葉を言いかえながら語彙を増やす児童書『超こども言いかえ図鑑』著者の一人である小川晶子氏が、10万部突破のベストセラー『犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救う言葉』、新刊『犯罪心理学者は見た危ない子育て』著者である出口保行氏に闇バイトの実状と、巻き込まれないための対処法について聞いた。

出口保行
犯罪心理学者。東京未来大学こども心理学部部長。1985年東京学芸大学大学院教育学研究科発達心理学講座を修了。同年国家公務員上級心理職として法務省に入省。以後全国の少年鑑別所、刑務所、拘置所で犯罪者を心理分析する資質鑑別に従事。心理分析した犯罪者は1万人超。内閣府、法務省、警視庁、各都道府県庁、各都道府県警察本部等の主催する講演会実績多数。独自の防犯理論「攻める防犯」を展開。フジテレビ「全力! 脱力タイムズ」にレギュラー出演。前作『犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救う言葉』(SB新書)は累計9万部突破の話題作となった。

小川晶子
ブックライター、絵本講師。
児童書や教育関連の書籍を中心に本づくりに携わっている。

親の言うことをよく聞く「いい子」が、知らないうちに犯罪の手先に

小川:『犯罪心理学者は見た危ない子育て』の中で、偏った「高圧型」の親に育てられ、闇バイトに手を出してしまった事例がありました。「高圧型」とは、一方的にああしなさい、こうしなさいと命令し、言うことを聞かないと罰を与えるなどして子どもを支配する養育態度ですよね。

事例のトモヤは親の言うことを聞いて勉強を頑張り、大学に進学しますが、同年代の男に「簡単だけど稼げるバイトがある」と声をかけられ、特殊詐欺に加担することに。

親からの命令に疑問を持つことをおさえ、その通りに動くのに慣れていたトモヤは、闇バイトに親和性が高かったんですね。何とも言えない気持ちになりました。

「指定の住所に行って紙袋をもらい、コインロッカーに入れるだけ」というバイトは普通はあやしいと思いますが、こういった「闇バイト」に簡単にひっかかってしまう子も増えているのでしょうか。

出口:犯罪全体の数としては減っている中で、増加しているのが特殊詐欺です。事例のように、実行犯を短期的にバイトとして雇う手口が増えています。銀行口座を貸す、携帯電話を貸すだけで簡単に高額な報酬がもらえるというのも同じ「闇バイト」です。

インターネットやSNSを使ったやりとりだけで進みますから、目的も首謀者も知らないままに犯罪に加担できてしまうんです。

とは言え、事例のトモヤもそうであったように、普通は悪いことだとわかっていますよ。本気で「いいバイト」だと信じているわけではない。ただ、「知らなかった」と言えば済むのではないかと思ってしまうのです。気づかないフリができるシステムが作られているということなんです。

小川:たとえ知らなかったとしても、犯罪なんですよね?

出口:そうです。特殊詐欺に加担したら100%犯罪であって、言い逃れはできません。首謀者は行方をくらまして「闇バイト」で手先になった人が捕まるなんて納得いきませんが、加担していることは紛れもなく罪なんです。

ニュースを知らない怖さ

小川:SNS上で「一回で数十万円稼げるいいバイトがあるよ」と知らない人に教えられ、特殊詐欺の受け子をして逮捕された女子高生の話を読んだことがあります。彼女の場合は、家庭の中であまり会話がなく、言葉の裏というか背景を想像するのが苦手だったようです。

見知らぬ人に高額なバイトを紹介されたら普通はあやしいと思いますが、「変だと思わなかったの?」と聞いても「わかんない」という答え。語彙力、コミュニケーション力の問題もあると思いますが、単純に「ニュースを知らない」というのもあるかもしれないと思いました。

『犯罪心理学者は見た危ない子育て』の中で、家族でニュースを共有することをすすめられていますよね。これは本当に重要なのではと思います。

出口:昔は、家でテレビのニュースを流していて、「こんなに怖い事件があるんだ」とか「どうしてこんなのに騙されるんだろうね」なんて自然と言い合ったりしていましたよね。

でも、今は家族それぞれがYouTubeやネットフリックス、あるいはSNSなど好きなものを見ているのが普通です。テレビや新聞を全然見ない人も多いですし、ニュースに触れない人もいるでしょう。

すると、本当に知らないということがありえます。テレビの人間からすると驚くのですが、世間を大きく騒がせている事件のことでさえ「何それ?」とまったく知らない人がいるのです。

小川:好きなコンテンツだけ見てニュースに触れていなければ、危険を察知できないですよね。

出口:自ら時事ネタを選択して見る子どもはいないでしょうから、親が教えてあげる必要がありますね。

小川:出口先生はTikTokでも情報を伝えられているのがすごいですけど……(https://www.tiktok.com/@y.deguchi_official)

出口:私のことをTikTokerだと思っている人もいます(笑)。テレビを見ている人とTikTokを見ている人とでは層が違うということですよね。どのチャンネルにしろ、ニュースに触れていればいいんです。

違法薬物販売も巧妙になっている

小川:「闇バイト」同様、近年巧妙になっているのが違法薬物販売という話もありました。インターネットを使って、軽い気持ちで入手することが可能になっていると。隠語を使い、一見すると違法薬物だとわからないようにして、販売しているんですよね。これも、あまり知識がなければ、何かのきっかけで手を出してしまうかもしれません。

出口:本当に怖いですよ。本に書いたことですが、覚せい剤を使用して少年鑑別所に入ってきた中学2年生の女の子なんて、体重が二十数キロというガリガリに痩せた体でものすごい力で暴れますからね。男3人で押さえるのも大変だというくらい。どうして押さえるのかって、そうしないと死んでしまうからです。暴れて壁に頭をぶつけ、死ぬ勢いなんです。そのくらい錯乱します。

薬物乱用によって脳の細胞が壊れてしまうと、もう元には戻れません。人間でない何かになってしまう。恐ろしい光景をたくさん見てきました。

でも、薬物を販売する側は「一度やってみて、ダメだと思ったらやめればいい」「酒やタバコほど害はない」など、耳障りのいいことを言います。

小川:最低限の知識と、言葉の裏にあるものを読み取る力が必要だと感じます。それから、『犯罪心理学者が教える 子どもを呪う言葉・救う言葉』に書かれていたように「事前予見能力」でしょうか。「今これをしたら、将来こうなる」ということがちゃんと想像できることが必要だと思います。

出口:非行少年や犯罪者の多くに欠けているのはこの「事前予見能力」です。周りから見ると短絡的で「そんなことをしたらすぐに捕まるに決まっているでしょう」と言いたくなるのですが、中長期的なスパンで物事を考える習慣ができておらず、その場の感情でやってしまいます。

そもそも子どもは現在に意識が向いていて、「将来どうなるか」なんて考えないものです。成長の過程で、少しずつ身に着けていくのです。

小川:とても大切な力ですね。

関連書籍

犯罪心理学者は見た危ない子育て(SBクリエイティブ)
法務省心理職として1万人を超える非行少年・犯罪者を見てわかった、犯罪者が育つ家庭の傾向とは。親なら誰でも、知らず知らずのうちに偏った子育てに陥っていることがあります。非行少年・犯罪者の育った家庭環境の事例とともに、気をつけるべきことを伝えます。


関連書籍

マンガで笑って、言葉の達人! 超こども言いかえ図鑑(Gakken)
気がつくと、毎日「ヤバイ」「マジ」って言葉ばかり使っていない!?なんでもかんでも「ヤバイ」なんていっていたら、それこそ「ヤバイ」状況!日本語は、ひとつの意味を、たくさんの表現であらわすことができるんです。たとえば、おいしい給食を食べたとき。あなたならなんていうかな?「このあじ、ヤバイ!」だけじゃなく、「おいしい」「美味(びみ)」「頬(ほほ)が落ちるよう」などさまざまな表現があるよ。学校行事をつうじて、文豪くん&式部さんをはじめとする登場人物たちと友情をはぐくみつつ、日本語のゆたかな表現&言葉を学んじゃおう!