図鑑は好奇心の入り口…宇宙飛行士・野口聡一さんに聞く「興味の幅の広げ方」
3回の宇宙飛行を行った宇宙飛行士の野口聡一さんは、2022年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)を退職し、現在は大学での研究や教育など新たな活動に取り組んでいます。その活動のひとつとして、今回取り組んだのが「図鑑づくり」です。
出来上がった図鑑を手に、野口さんの子ども時代の図鑑とのかかわりから、子育てへの意識まで、たっぷりと語っていただきました。
(取材:井上榛香/写真:後藤利江)
宇宙でのくらしを想像してほしい
―図鑑GET!シリーズの最新刊『宇宙』(KADOKAWA刊)では、野口さんが宇宙でのくらしを取り上げた第5章の構成から写真提供まで関わられたとうかがいました。出来上がった図鑑をご覧になられていかがですか?
写真の提供も含め、子ども用の学習図鑑を作り込むのは初めてだったので、すごく良い経験になりました。
みんなに知っていただいているというと少しおこがましいですが、「見たことがある野口さんが宇宙でこんなことをしていたんだ」と、言葉と映像で、図鑑を読んでくれた人の頭に、すっと入ってくるようにしたくて。私の宇宙飛行の体験が伝わりやすくなるように「この場面にはこういう写真がふさわしい」という話を随分細かく相談させていただきました。
写真を見直していて気づいたのですが、国際宇宙ステーション(ISS)の船内の写真は、モノトーンで暗いものが多いんですよ。読者のお子さんには、宇宙飛行士のことを「大変そう」というよりも、「大変だけど、なんだか楽しそう」と感じていただけるように意識して写真を選びました。
例えば、ISSでの食事風景の写真は、新しい仲間がISSに到着したのを祝うパーティーの様子です。食卓には宇宙飛行士の出身国の得意料理の宇宙食が並んでいました。こうして各国の宇宙飛行士のみんながにこやかに笑い合っている光景はまさに国際協力の象徴ですし、将来宇宙旅行に行ったらこんなシーンがあるんじゃないかと想像してもらいたいですね。
消防車、船、電車…乗り物好きだった少年時代
世界初の宇宙食ラーメンを食べる野口さん(写真提供:NASA/JAXA)
―野口さんご自身は、子どものころは図鑑を読まれていましたか?
図鑑は好きでしたね。私が子どものころは、今より宇宙開発が進んでいなかったので、図鑑にロケットが出てくるのは最後の1ページぐらいでした。それでもそのロケットのページを一生懸命に読んでいた覚えがあります。昔は宇宙の図鑑といえば「星と星座」といったタイトルで、宇宙は“眺めるもの”として取り上げられているものが中心でしたが、今回の図鑑には宇宙開発の話もたくさん取り上げられていて嬉しいです。
私の宇宙への関心は、どちらかというと乗り物好きから来ています。消防車や船、電車、飛行機、その先にあったのがロケットだったわけです。こういう興味の広がり方もありますよね。一方、手が届かない星や星座への憧れから始まって、惑星、月面着陸、そして有人宇宙飛行という興味の広がり方もあるでしょう。この両方がちょうど重なるのがロケットや、ISSだと思っています。
だから一口に「宇宙」と言っても、ギリシャ神話から入る人もいれば、私のように乗り物から宇宙に興味を持つ人もいますし、はたまた、生物から宇宙に興味を持つなんてこともあるでしょう。今の「宇宙図鑑」というのは、いろいろな方向の興味に応える情報が載っている図鑑なんです。
―現在は子どもたちに向けてどのような活動をされていますか? また、子どものころに宇宙に興味を持った経験は、どのように活きると思われますか?
小中高生の子どもには講演や書籍の執筆・監修を通じて、宇宙飛行の体験を伝えています。最近はテレビ番組に出演する機会も多いです。やはりテレビに私が出ると、宇宙の話題を取り上げてもらえますが、テレビに出ておしまいではなく、それを見た子どもたちに宇宙や科学に興味を持ってもらいたい。あるいは書籍を通じて、子どもたちが宇宙に対して夢を持ったり、話題のひとつにしたり、そういう広がりが生まれるといいなと思っています。
とはいえ、宇宙に興味を持ったとしても、必ずしも全員が宇宙に行きたいと思うわけではありません。宇宙に行くのは怖いけれど、宇宙の話は好きだという子どももいます。全員が宇宙に関する仕事に就くとは思っていませんが、宇宙に興味を持つことで、視野を広げたり、新しい解決法を知ったり、自分の好きな分野の参考にしていただけたら、もうそれで十分でしょう。例えば、料理が好きなひとが宇宙食の知識をケーキづくりに活かしたり、スポーツ選手が海外チームに入るときに、宇宙飛行士がどうやって言葉や習慣が違うひとたちと暮らしているのかといった話が参考になったりということが、起きればうれしいですね。