図鑑は好奇心の入り口…宇宙飛行士・野口聡一さんに聞く「興味の幅の広げ方」

野口聡一

宇宙で感じた「地球はひとつしかない」という感覚

―宇宙での経験を通して、子どもたちに伝えたいメッセージはなんですか?

『世界がもし100人の村だったら』という絵本がありますが、私が滞在した国際宇宙ステーション(ISS)は、定員が7人ですから、まさに『世界がもし7人の村だったら』という環境。一人ひとりの行動の影響がより濃く現れます。誰かがISSの水を無駄づかいすれば、明日必要な水がなくなってしまうほどです。7人で協力して、お互いを尊重し合って暮らしていかなければ、最悪の場合は全員が命を落としてしまう恐れもあります。

だからこそ、ISSでいざこざが起きたときは何が問題で、不満をなくすためにはどうすればいいのかを前向きに考えて、行動していくことが大事です。たった7人でも、多国籍で年齢層も広く、経験もバラバラなひとが集まるISSは言ってみれば国際社会の縮図のようなもので、まずはその中で持続可能な社会をつくっていかなければならないのです。

それから、私が宇宙から地球を見て強烈に感じたのは、「地球はひとつの生命体なんだ」という感覚でした。地球は、どこにも繋がらずに、この暗くて冷たい宇宙空間という「死の世界」にぽっかりと浮かんでいます。ちょっと冷たい言い方ですが、それが真実の姿なんです。私たちが知っている空も雲も山も海も全部がこのひとつの球体のなかにある。

だから、この地球を汚すことは、たとえそれが一部だとしても、すべての生物に影響を及ぼしてしまうんだと実感しました。ひとつしかない地球で、わが国の空は隣の空より綺麗だ、と言うことはなかなか難しいですよね。でも反対に、自分たちが地球のためにやることは、全世界の命にとっていいことでもあるんです。こういう感覚はとても大切だし、伝えていきたいと思っています。

子どもの興味の幅を広げるには?

―野口さんが考える子育てについて聞かせてください。科学に興味を持ったこどもたちにどういう教育をしていけばいいのでしょうか?

大人はつい「文系」「理系」と言ってしまいますが、「文系理系」というのは高校2、3年生のときに数学ができるかどうかの違いです。大人になると数学が持つ価値はほとんどないじゃないですか。私はいわゆる理系ですが、数学の知識は消費税計算するときぐらいしか使わなくて(笑)。つまり理系文系の違いは実はそれほど決定的な差ではないんです。高校生のときに数学ができるかできないかで、将来の方向性が大きく変わってしまうのはおかしいと常々思っています。

それ以上に問題なのは、高校時代に数学が不得意だったために文系に進んだ方が、その後の人生で科学技術に常に苦手意識を持ってしまいがちなことです。これは本当にもったいないと思っています。科学技術への理解やイノベーションにつながる発想は、数学を解く能力と全然リンクしてないことの方がむしろ多いです。ひらめきやいろんな人と話すコミュニケーション能力は、微分積分が得意かどうかでは測れないでしょう。ですから、お子さんを無理に理系に育てる必要はありませんし、文系理系にこだわらずに興味を広げることが大事です。

―子どもの興味の幅を広げてあげるには、どうすればいいでしょうか?

図鑑の表紙を見たときに、どれを選ぶかはまさにその子どもの興味そのものでしょう。図鑑には宇宙や生物系だけではなく、歴史ものもありますよね。戦国武将と深海魚の両方が好きでも不思議ではありません。とにかく子どもたちの幅広い知的好奇心に応えるのに、図鑑はその分野の入口としてはすごくいいですよね。だから、書店や図書館に並んでいる図鑑を表紙だけで決めて「ジャケ買い」していいと思いますよ。そこから世界が広がっていって、もしかしたらその一冊がその後の一生を決めることになるかもしれません。

角川の集める図鑑GET! 宇宙
角川の集める図鑑GET! 宇宙

生命の起源をたどる!「宇宙地図」でわかるまったく新しい宇宙図鑑。地球から宇宙の果てまで! いざ壮大な宇宙の旅へ!!38億年前に地球の海で生まれた生命。その材料はいったいどこからやってきたのでしょうか?「宇宙と生命」というまったく新しい切り口で、最新研究をぎゅっとまとめた3歳から高学年まで長く使える宇宙図鑑の新定番!
難しくなりがちな「宇宙」の知識を、わかりやすく伝える工夫と特典が満載です。