安易な「ほめて伸ばす」がかえって子どものやる気を奪ってしまう理由

島村華子

子どもに自信をつけさせたいという思いから、「ほめて伸ばす」子育てを大切にされているご家庭は多いでしょう。しかし、安易なほめ言葉では逆効果となってしまうケースがあるのです。子どもの自己肯定感を高めるには、どのようにほめてあげれば良いのでしょか。モンテッソーリ&レッジョ・エミリア教育研究者の島村華子さんが解説します。

※本稿は、島村華子著『自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

安易な「ほめて伸ばす」には要注意!

「すごい!」
「よくできたね!」
「えらいね!」
「さすが○○ちゃんだね!」
「才能あるね!」
「なんでもできるね!」

これらは、子どもをほめるときによく使われるフレーズです。

しかし、ポジティブで子どもの自信につながるように聞こえるこれらの言葉は、子どもの成長にとって必ずしもよい影響があるとは限らないのです。

近ごろは、日本人の自己肯定感(自己に対する肯定的な感情)の低さが問題視されているため、”ほめて伸ばす”方法が子育ての主流になってきています。

たしかに、子どもから大人まで、誰もが他人から認められたいという承認欲求をもっています。子どものときにもっと親にほめられたかったと思っている人も少なからずいるでしょう。

しかし、ほめ方によっては、子どもに不安やプレッシャーを与えたり、モチベーションが下がる原因になったりと、さまざまな弊害があるのもたしかです。

ではなぜ、「すごいね!」「お利口さんだね」と子どもをほめることがネガティブな結果につながるのでしょうか。逆に子どもに対してどういった声をかけるべきなのでしょうか。ほめること自体が悪いわけではありません。認めてあげることは大切です。

ただ、ほめ方の種類によってよくも悪くも子どもの成長に影響があるのです。

3種類のほめ方、どれが正解?

「ほめる」とは、「他者の成果やパフォーマンス、あるいは特性に対するポジティブな評価のこと」を指します。つまり評価している側の人の主観で相手の善しあしを決めることなのです。

大きく分けて、ほめ方には3種類あります。

①おざなりほめ(perfunctory)
どういうところがどういうふうによかったのか具体性に欠ける、中身のない表面的なほめ方をする
・「すごいね!」「上手!」

②人中心ほめ(person focus)
性格(優しさ・気遣いなど)・能力(頭の良さ・足の速さなど)・外見(顔・体形など)といった、表面上の特徴を中心にほめる
・「優しいね」「頭がいいね」「かわいいね」

③プロセスほめ(process focus)
努力・過程・試行錯誤した手順を中心にほめる
・「がんばって最後までやりきったね」「失敗してもあきらめなかったね」 「いろんな方法を試したね」

たとえば、ごはんをこぼさずに食べた子どもに「すごい、すごい」と言うだけなのがおざなりほめ、「お利口さんだね」と言うのが人中心ほめ、「こぼさないようにスプーンの持ち方を変えてみたのね」と言うのがプロセスほめになります。

「おざなりほめ」と「人中心ほめ」がNGな4つの理由

おざなりほめと人中心ほめには、4つの問題があります。

①「ほめられ依存症」になる
② 興味を失う
③ チャレンジ精神が低下する
④ モチベーションが低下する

順に見ていきましょう。

①「ほめられ依存症」になる
ほめられないと自信がもてず、外部からの承認でしか自分の価値を見いだせなくなります。たとえば絵を描いて親に見せたときに、「上手!」「絵の天才だね!」と言ってもらえないと、「自分の絵はダメなんだ」と思うようになります。

また、「つねに認めてもらいたい、ほめてほしい」という承認欲求が強くなるため、ほめられなかった場合に不機嫌になったり、不安になったりするのです。

② 興味を失う
「上手ね」「すごいすごい」と言われ続けると、子どもはほめられること自体に快感を覚え、「どうしたら次もほめられるかな」と考えるようになります。その結果、ほめられるためだけに行動をするようになり、せっかく楽しいと思っていたことにも意義を感じなくなってしまうのです。

たとえば、自分が描いた絵を「上手ね」と言ってもらえなくなったとたん、「ほめられないなら、もう絵は描かなくていいや」と本来は好きだったはずのお絵描きをやめてしまいます。

③ チャレンジ精神が低下する
ほめるというのは他者からの評価が基本です。大人でも、「あなたは仕事ができる人だね」などとまわりにほめられるとプレッシャーを感じすぎてしまうことがあるのではないでしょうか。
子どもも同じです。そして、周囲からの評価が下がることを恐れ、失敗を避けるためにチャレンジすることを躊躇するようになります。

たとえば、「頭がいいね」と言われ続けると、「万が一、失敗をしたら、賢いというイメージが崩れてしまう」とプレッシャーを感じ、言い訳が多くなるなど、周囲の評価から自分を守ろうとします。

④ モチベーションが低下する
努力の有無にかかわらず、いつも「上手!」と言ってもらえたら、自己評価をする必要がなくなります。その結果、子どもはがんばらなくてもよいと思うようになり、努力をして何かを成し遂げることの必要性を感じなくなるのです。

たとえば、心を込めずに描いた絵に対しておおげさに「すごいすごい」と言われることで、この程度でよいのだと思い、上を目指すことをしなくなります。

3つのほめ方の研究

研究例:ドゥエック博士とミューラー博士(1998)

研究内容:
1)128人の小学5年生を3つのグループに分けて実験

2)子どもたち全員にIQテストを受けてもらい、テスト後にそれぞれのグループに3種類の違ったほめ方をした。
グループ1には「こんな問題ができるなんて頭がいいね」と能力(人中心)をほめ、グループ2には「問題を解くためにあきらめずにがんばったね」と努力(プロセス中心)をほめ、グループ3には「よくできたね!」とおざなりにほめてみた。

グループ1:人中心ほめ
グループ2:プロセス中心ほめ
グループ3:おざなりほめ

3)子どもたちに、次に挑戦する問題について簡単なテストか難しいテストを選んでもらうように聞いてみた。

結果:能力をほめられた子どもたち(グループ1)の67%が簡単なテストを、努力をほめられた子どもたち(グループ2)の92%が難しいテストを選択。おざなりのほめ方をされた子どもたち(グループ3)の選択は半々に分かれた。

4)今度は子どもたちに先ほどよりも難しいテストを解いてもらって、あまり成績がよくなかったことを伝えた。その後、子どもたちにこの難しいテスト問題を解き続けたいか、楽しかったかを聞いてみた。

結果:能力中心とおざなりのほめ方をされた子どもたちの多くがこれ以上続けたくないと言ったうえに、問題を解くのはおもしろくなかったと答えた。一方で、努力をほめられた子どもたちの多くがもう少し長くテストを続けたいと言ったうえに、問題を解くのは楽しかったと答えた。

5)最後に子どもたちに最初に実施したテストと同等レベルのテストをもう一度実施した。

結果:能力をほめられた子どもたち(グループ1)の成績は最初と比べて約20パーセントも低下した。一方で、努力をほめられた子どもたち(グループ2)の成績は約90パーセントも上昇した。おざなりのほめ方をされた子どもたち(グループ3)の成績に大きな変化はなかった。

まとめ:努力をほめられた場合、失敗の後にもチャレンジする意欲的な姿勢(グロースマインドセット)を見せる子どもが多かったのです。逆に能力をほめられたり、おざなりなほめ方をされたりした場合、 チャレンジに直面したときに消極的で挫折する(クローズマインドセット)子どもたちが多かったのです。

この実験結果からもわかるように、人中心(例:能力)やおざなりなほめ方をした場合、子どもの上昇志向を止めてしまう可能性があるのです。

自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方
自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
プログレッシブ教育(進歩教育、オルタナティブ教育)の代表格である「モンテッソーリ」と近年最注目の「レッジョ・エミリア」を知り尽くしたオックスフォード児童発達学博士による、エビデンスに基づく最先端の教育メソッドをほめ方・叱り方という「声かけ」に落とし込んだ画期的な最新子育てバイブルです。(※本書は、おもに3〜12歳の子どもを対象としています。)