「早く!」と急かさなくても、自ら動く子どもに育てる方法

曽田照子
2023.10.30 12:01 2023.11.28 11:50

嫌がる子

ついつい「早く!」と言ってしまいがちなシーンで、その言葉を使わずに乗り切るコツとは? よくあるシーン別に、子育てNGワード専門家の曽田照子さんがご紹介します。

※本稿は『PHPのびのび子育て』2021年5月号から一部抜粋・編集したものです。

なぜ子どもは急いでくれない?

真剣な表情の女の子

忙しい毎日、私たち親はついつい「早く!」や、それに似た言葉を言ってしまいがちです。さっさとやって、グズグズしないで、テキパキ動いて、などと子どもを急かす言葉を浴びせかけ、子どもがイメージ通りに動かないと「どうして急いでくれないの」とイラッとしたり、そんな自分を後で振り返って反省したり……していませんか?

子どもを追い立てるのが良くないのは、子どものペースの邪魔をしてしまうことになるからです。子どもは、一見、むだな時間を過ごしているように見えても、もしかしたら、その間にじっくり考え思考力を鍛えたり、空想にふけって創造力を育んだり、あるいは、のんびりくつろいでストレスを発散したりしているのかもしれません。

子どもを急かせば、そういった、子どもの育ちに必要な余白のような時間を取り上げてしまいます。そうならないように、できる限り子どものペースを見ながら、じっくり待ってあげるのが理想的です。

……とはいえ、忙しい毎日。理想と現実は違います。実際には子どもに早く動いてもらいたいシーンは多々ありますよね。遅刻もしたくないし、時間は限られているし、やらなければならない仕事もあります。

そこで、毎日の生活の中で、子どもを追い立てずにすむように工夫してみましょう。あらかじめ準備を整えたり、別の伝え方をしてみたり、さまざまな方法を試してみることで、ママやパパの心にも余裕が生まれてきますよ。

「早く!」と言わないためにママ・パパが心がけたいこと

悩む女性

普段から次の3つのことを意識してみましょう!

①子どもは時間がかかるもの、と覚悟しよう
大人なら一瞬でできるような、たとえば、服を着てボタンをかける、靴を履くといった行動でも、もたついたり、失敗してやり直したり……子どもはなかなかスピーディーに動けません。そもそも時間がかかるものだという覚悟を決めることが大切です。

②気が散りそうなものは、あらかじめ隠しておこう
「これ何?」「知りたい」「遊びたい」というのは知的好奇心の表われですが、急いでいるときは困りますね。気持ちをそらすより、そもそも気づかせない、という作戦が効です。子どもが気を惹かれそうなものは、見えないところへ隠したり片づけたりしましょう。

③「急ぐのは誰の都合かな?」とあらためて考えてみよう
「遅刻したくない」「早く片づけたい」といった理由で私たちは子どもを急がせますが、それって誰のためでしょうか? 親の都合で子どもを急がせているかもしれない、と自覚すると、少し気持ちに余裕が出てくるかもしれません。

【シーン1】子どもはいつも朝がのんびり。ご飯やお着替えが進まない

ご飯を前に表情を歪める子

・朝に何をするのかを「見える化」しましょう
忙しい朝、時間は迫ってくるのに子どもはのんびり……。「早くご飯食べなさい!」「さっさとお着替えして!」と言いたくなります。これが毎朝だと、さすがにウンザリしてしまいますよね。言わなくてもいいように「しくみ」で工夫しましょう。

子どもと相談しながら朝の時間割を作る、「朝やること」をイラスト入りのカードにしてホワイトボードなどに貼り付け、できたら移動する、などの方法で見える化するのが有効です。

もし毎朝、同じような時間に同じような声かけをしているなら、スマートスピーカーをセットして「歯みがきの時間だよ」「朝ご飯食べ終わったかな」などの声かけを自動化するのも効果がありますよ

【シーン2】出発時間になったのに、おもちゃで遊び始めてしまった!

おもちゃで遊ぶ男の子

・少しだけ待ってあげると、後がスムーズに
家を出る準備は整ったのに、ちょっと目を離した隙に、子どもがお気に入りのおもちゃを引っ張り出して遊び始めてしまった……。さてどうしましょう?

こんなときは、しかたない。あきらめて5〜10分待つのが得策です。子どもはお出かけに緊張して「いつもの自分」を取り戻したいと遊び始めた可能性もあります。叱ったり取り上げたりすれば、よけいお出かけがスムーズに行かなくなります。

次の遊びに移行しないように、ササッと周りを片づけながら、「出かける時間だから、あと5分で終わりにしてね」と声をかけ、スマホのタイマーを子どもからも見えるようにセット。時間が来たら「さあ、一緒に片づけて、行きましょう」と明るく切り替えます。

【シーン3】園から帰る途中、みちくさばかりで前に進まない!

駄々をこねる子

・時間を区切りつつ、子どもを見守ってあげて
園からの帰り道、子どもを立ち止まらせる数々の誘惑。すべてにお付き合いしていたら時間がいくらあっても足りません。

もしかしたら、立ち止まっている時間が長く感じるのは、「帰ったらまずアレをして、コレをして……」なんて次の段取りに気を取られているせいかもしれません。「5分だけ」などと時間を区切って、子どもを見守りながら待ってみましょう。案外、すぐに飽きることもあります。

そうそう、子どもがグズグズ歩くのは、ママやパパと一緒に歩く時間が楽しいから引き延ばしたい、という心理が働いている可能性もあります。たまには親子のふれあいの時間だと割り切って、ゆっくりのんびり歩いてみてもいいかもしれません。

【シーン4】のろのろ食べるせいで、なかなか食事が終わらない!

ごはんを食べる女の子

・成長すると解決!楽しい雰囲気は壊さないよう
遊び食べやながら食べをして、なかなか食事が終わらないとき、「早く食べなさい!」って言いたくなりますよね。でも、食べている最中にきつく叱るのはおすすめしません。特に食が細い子は、プレッシャーをかけられると、ますます食べることに消極的になってしまいます。

テレビなど子どもの気を散らすものはできるだけ遠ざけたうえで、「タイマーが鳴る前に食べちゃおう」などと声をかけたり、「ママのマネをして同じものを食べる」という遊びにしたり、お弁当箱に盛り付けて気分を変えたりすると、早く食べ終われることもあります。

成長するにしたがって解決する場合がほとんどです。おいしく味わえるよう、楽しい雰囲気を心がけたいですね。

【シーン5】スーパーで買い物途中、お菓子コーナーから離れない!

叱られて泣く女の子

・子どもに「自分で選ぶ」体験をさせてあげよう
スーパーのお菓子売り場でテコでも動かないわが子に「やれやれ」とため息をついた経験、私もあります。結局、負けて「1個だけよ」と買い与えてしまいました。

ある程度は大人が折れてあげてもいいのではないでしょうか。お菓子売り場から離れないのは、大人が野菜やお惣菜を選んでいるのを見て、子どもも「自分で選ぶ」体験をしたくなったのかもしれません。

買い物体験や食育の一環と位置づけて、子どもを買い物に参加させてみてはどうでしょう。メモを片手に「ニンジンはどこだっけ?」などと一緒に探し、「どれにしようか」と相談しながら買い物をすれば、「選びたい」という気持ちがかなえられて、素直に聞き分けてくれる可能性もあります。

【シーン6】遊びやテレビに夢中で、お風呂や就寝が遅れてしまう!

テントで遊ぶ男の子

・まずは大人が生活習慣を正し、子どものお手本に
遊びやテレビに夢中になっている子どもに「早くお風呂に入って」とか「もう寝なさい」と言っても、効果はあまりありません。

毎日の生活習慣は、あらかじめ時間を決めて大人もそれを守る、という方法がおすすめです。「7時半だ、お風呂の時間だね」と当然のように大人が動けば、子どもはやがて「そういうものだ」と思うようになります。

そのうえで、好きなキャラクターのお風呂グッズを用意したり、寝る前にお話をしてあげたりするなど、子どもが喜んで動けるような工夫も加えましょう。遊びやテレビは、日中の時間のあるときまで取っておきましょう。幼児のうちは難しいですが「楽しみを先送りする力」がつくと、将来、時間を有効に使えるようになります。

子どもらしい時間感覚を尊重してあげよう

真剣な顔の子ども

私たち親が子どもに「早く!」と言いたくなってしまうのは、時間に追い立てられて常に焦っているせいではないでしょうか。きっちり時間を守ったり、スピーディーに仕事をこなしたり、社会の都合に合わせて動くのが大人というものですよね。

一方で、子どもの時間は自由です。好奇心や生理的欲求に突き動かされて、気ままに過ごしていくのが本来の姿なのでしょう。社会に合わせた「大人の時間感覚」と、自然のままの「子どもの時間感覚」、この2つの時間感覚のズレが、私たちをいらつかせ、子どもを必要以上に急かしてしまう原因だと私は思っています。

このズレは、子どもが成長して、学校や地域へと生活範囲が広がり、周囲に合わせることが増えるにつれて、自然に小さくなっていく場合がほとんどです。ですから、子どもが小さい時期に無理に修正しなくていいのです。

幼児のうちは、できるだけ子どもらしい時間感覚を尊重してあげましょう。そうすれば、子どもは自分のペースでのびのびと育つことができます。もしかしたら「早く!」と言いたくなったときほど、逆に「ゆっくりね」「じっくりやろう」と声をかけるべきときなのかもしれません。

曽田照子

広告制作プロダクション勤務を経てフリーライターに。2009年より「子育てNGワード専門家」として執筆、講演活動を行なう。著書に、『決定版 ママ、言わないで! 子どもが自信を失う言葉66』(学研プラス)などがある。

X:@sodateruko