子どものスマホを勝手に見るのはNG?「親の過干渉」のボーダーライン

佐藤優
2023.11.20 15:32 2023.12.01 11:30

スマホをいじる男の子

子どもに失敗して欲しくないという気持ちから、スマホをぬすみ見たり、交友関係に口を出してしまっていませんか? そんな思いやりも、行き過ぎると過干渉になってしまいます。本稿では作家の佐藤優さんが、中学生のナギサとミナト、ロダン先生の対話形式をとって「親の過干渉と毒親」の問題について易しく解説します。

※本稿は佐藤優著『正しさってなんだろう 14歳からの正義と格差の授業(Gakken)』から一部抜粋・編集したものです

スマホをぬすみ見ても罪にはならない?

悩みを抱える女の子

【ロダン】夫婦や恋人同士の場合は、勝手に相手のスマホを見ると、プライバシーの侵害とみなされる可能性があるけれど、子どもが未成年のときは、親が勝手に子どものスマホを見ても、残念ながら、罪に問われることはないんです。

【ミナト】え? そうなの???

【ロダン】未成年の子どもは、法律的には親の保護下にあるからです。でも、だからといって、本人にナイショで親が子どものスマホをぬすみ見るのは、決してほめられたことじゃない。親子であっても、こえちゃいけない線があると思います。心配だからって、子どもの人格を認めないと、子どもはいつまでも自立できません。

【ナギサ】なんでもお母さんの言いなりになると思ったらおおまちがいです!

【ロダン】大人から見ると、そっちに行ってもうまくいかないんじゃないかな、こっちのほうがいいんじゃないかな、と思うことはたくさんあります。わが子なら、なおさらです。だから、ついあれこれ口を出したくなるんだけど、大人がそうやって予防線を張ってしまうと、子どもたちは自由に失敗することさえできなくなります。

遠回りすることが一番近道

うつむく男の子

【ミナト】失敗なんかしないほうがいい気がするけど?

【ロダン】それはちがうと思う。失敗というのは、新しいことにチャレンジした結果です。失敗して、痛い目を見た人は、次の機会には、きっと同じ失敗をしないはずです。たくさん失敗した人は、たくさん経験しているから、次は成功する可能性が高くなる。

はじめから失敗をおそれて何もできない人と比べると、答えがすぐに見つからない問題にぶつかったときの対応力に差が出ます。受験とちがって、世の中は答えのない問題だらけだからね。

【ナギサ】失敗は成功の母、ですよね!

【ロダン】うまくいったことより、失敗から多くを学ぶのが人間です。なんでも親が先回りして、でこぼこのない平坦でまっすぐな道を用意してしまうと、子どもはせっかくの学びのチャンスをうばわれてしまう。回り道したり、寄り道したり、時にはいま来た道をもどったり、つまずいて転んだりしながら、人間は成長していくものです。

【ミナト】イチロー選手も「遠回りすることが一番近道」だと言ってた!

【ロダン】なかには「子どもには自分と同じ失敗をしてほしくない」という親もいるかもしれません。でも、自分はその失敗から何かを学んだはずなのに、自分の子にそれを学ばせないのは、おかしいと思いませんか? 親はそれで1つかしこくなったかもしれないけど、子どもにはその知恵を身につける機会さえないのですから。

【ナギサ】ホントですね!

【ロダン】最短コースでゴールを目指すのが効率的でムダがない、とよく言われます。でも、それが有効なのは、ゴールが明確に決まっているときだけで、さっきも言ったように、社会に出れば、正解がない、つまり、あらかじめゴールが決まっていない問題だらけなんです。

だから、あれこれ試すことは、一見、遠回りに見えて、実は問題解決のいちばんの王道とも言える。イチロー選手もそのことを言ってるんじゃないかな。

【ミナト】「ムダなことはしたくない」って人が多いけど、コスパだけ考えたら、なんにもできなくなっちゃうよね。

考える小学生

【ロダン】人生にムダなんかありません。だから、思い切っていろんなことにチャレンジしたほうがいいし、いろんな人たちと接してみるのがいいと思います。

【ナギサ】でも、お母さんは「友だちとうまくいってるの?」「あの子とはあんまり仲良くしないほうがいいよ」とか言って介入してくるんです。

【ロダン】世の中にはいろんな人がいるから、大人でも「合う人」「合わない人」というのは当然あります。でもそれは、つきあってみてはじめてわかることでもあるわけです。

小さいときからいろんなタイプと接していれば、そのあたりの見分けがつくようになるし、おたがいに気持ちよくいられる距離感も自然と身につきます。だけど、家庭環境も経済水準も学力も似たような人たちばかりに囲まれて育つと、社会に出てからびっくりすることになるんです。「こんなやつ、本当にいるんだ !」と。

【ナギサ】自分よりできの悪い人をバカにする人っているよね!

【ロダン】他人を見下す人は、どんなに優秀で学歴が高くても、一流のリーダーにはなれません。部下になる人たちが、ついていかないからです。だから、できるだけいろんなタイプの人と接しておくことが重要なんです。

つきあってみて、やっぱりイヤだと思ったら、おたがいに距離をおくようになる。親がつきあう友だちを決めてしまうと、そのあたりの距離感が身につかないので、ほどほどに聞いておくことです。

佐藤優

佐藤優

1960年、東京都生まれ。作家、元外務省主任分析官。現在は執筆や講演、寄稿などを通して積極的な言論活動を展開している。