子育て家庭を苦しめる「教育費の上昇」が止まらない原因とは?

佐藤優
2023.11.20 15:35 2023.12.13 11:40

私立の小中学校に入ったのに塾に通う理由

勉強をする男女

【ナギサ】私立だと、何がちがうんですか?

【ロダン】私立の小学校では、いわゆるつめこみ教育はほとんどしません。学校はみんな仲良く、楽しく学ぶところなので、基本的な学力は家庭でつけてください、という学校が多いんです。

そのかわり、いじめなどが起きないように、生徒1人ひとりをしっかりケアしてくれるので、集団における立ち位置やコミュニケーション能力は身につきます。学校は生活習慣を教える場なので、とくに受験のための勉強は、各家庭でおこなってください、というのが、いわゆる「お受験」で入るような難関私立小学校の実態です。

【ミナト】難関小学校というくらいだから、学力をつけてくれるんだと思ってた。

【ロダン】親もそこをかんちがいしている人が少なくないんです。だから、入学してから子どもが勉強についていけなくなったりすると、真っ青になって個人指導の塾に入れたり、家庭教師をやとったりするんです。

中学受験をするなら、有名進学塾に通うのはほぼマストです。学校の授業料だけでも高額なのに、そのうえ塾代も別にかかる。とにかくめちゃめちゃお金がかかる仕組みになっているわけです。

【ナギサ】せっかく私立に入った幼稚園時代の友だちが塾にもせっせと通っているのを見て、「たいへんそうだなあ」ってお母さんが言ってたけど、そういうことだったんですね。

【ロダン】学力向上が最大の目的じゃなくて、むしろ遊ぶことやコミュ力を高めることを重視する学校が多いわけだから、生徒は喜んで学校に行きますよね。まわりに変な人があまりいなくて、いじめもそこまで多くないから、子どもにとってはいい環境です。

【ミナト】たしかにそれは楽しそう!

電車に乗る子ども

【ロダン】私立の小学校は、学力テストなどでははかれない社会で生きていくための力、いわゆる非認知能力に力を入れているところが売りなんです。認知能力、つまり学力は学校の外でつけてください、と。

ただ非認知能力が高い人は、コミュ力もあるし、「自分はやればできる」という自信もあるから、塾に行けば、わりとすんなり吸収できます。つまり、子どもにとっていい環境は、自己肯定感を高め、学力も高めるといういい循環を生みやすいわけです。

【ナギサ】私立の子がうらやましい!

【ロダン】そうした環境を手に入れるために何が必要かというと、やっぱりお金なんです。私立の小学校に行けば、塾代もあわせて、最低でも年間200万円は必要ですよ。大学生よりお金がかかるんです。

【ナギサ】おそろしい……。

【ロダン】私立小学校に通う子どもたちは、それがめぐまれた環境だと気づかないまま、大学まで行ってしまう。そうすると、社会に出てはじめて、世の中にはいろんな人がいるということを知って、がく然としたりするわけです。

一方、公立の小中学校に行けば、まわりに自分とはちがうタイプの人がたくさんいるのが当たり前の環境で育つので、そういう人たちとつきあう方法も自然と身につきます。どちらにも、いい面もあれば、悪い面もあるということです。

佐藤優

佐藤優

1960年、東京都生まれ。作家、元外務省主任分析官。現在は執筆や講演、寄稿などを通して積極的な言論活動を展開している。

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