繊細で傷つきやすい「HSC」の自己肯定感の守り方

斎藤暁子

ケース2:外だと親にべったりで離れない

×「いつまでもママにべったりで恥ずかしいよ」と否定する
○「ちゃんと守るからね。大丈夫だよ」と安心感を届ける

子どもがべったりくっついて離れないと、親としては気になってしまうもの。こういうときに、「恥ずかしいよ」などと否定的な言葉や反応を示したくなるのは、「早く自立させないといけない」「周りの目が気になる」といった思い込みやプレッシャーなどが影響してはいないでしょうか。
子どもは、大人が想像するのが難しいくらい、あらゆるものを強く深く感じ取っています。それは、高感度のセンサーを持つHSCだったらなおさらです。特に自分を守る力や言葉が足りない幼少期は、家の外では常に危険にさらされているような感覚を味わっている子もいる、と言っても過言ではありません。
恐怖や強いストレスは脳を興奮させ、その子らしさが発揮されなくなりますが、反対に安心感は脳の興奮を鎮めるため、落ち着いたコミュニケーションが取れるようになります。
まずは「ちゃんと守るからね。大丈夫だよ」と伝え、安心感で包み込んであげましょう

ケース3:人が集まるところや騒がしいところが苦手

×「せっかくきたのに……」と残念そうにする
○「静かなところで休もうか」と早めに休憩する

子どもを喜ばせようと出かけたときに、子どもから思うような反応を得られないと複雑な気持ちになるもの。
そんなとき、「せっかくきたのに……」と否定的な態度や言葉が出てしまうと、子どもは、自然に湧く自分の感覚を肯定できなくなってしまいます。
HSCには、目に見える・見えないにかかわらず、あらゆるものが刺激となります。刺激の多い場所では、ストレスを強く感じる、ぐったり疲れて無気力になる、といった特徴を“想定内”にして、“心の準備”と“覚悟”ができていると、子どもの気質に合った適切な対応ができます。
具体的には、「落ち着ける静かな場所を事前に確認しておき、早めに、こまめに休憩を取る」「騒がしい場所では、保護者との意思の疎通がうまくいかないことも不安材料になるので、常に子どもの声と気持ちを受け止められるようにしておく」「無理しないで早めに切り上げるという選択肢をもつ」といった対応です。

ケース4:親の顔色を気にして機嫌を取ってくる

×子どものことを無視したり、拒絶したりする
○あなた自身の状況を言葉にして伝える

イライラ・モヤモヤしていて機嫌が良くないときに、子どもに顔色を気にされたり、しつこく近づかれたりすると、余計にイライラしてしまいます。
感受性が強く、繊細で傷つきやすい気質をもった子は、「ほっといて!」といった言葉だけでなく、表情や態度、場の空気、雰囲気でも、親の拒絶や負の感情を受け取ってしまい、「自分が悪いんだ……」と責任を背負ってしまうところがあります。
親が不機嫌なとき、子どもは親の心が見えなくなるから不安なのです。自分のせいなのかどうか、それがわからないから怖い。だから、あなたの状況を言葉にして伝えると、子どもは余計な責任や傷を負わずに済みます。あなたも自分の問題だと確認できて、子どもを責めずに済みます。
「ママ、イライラしてて怖いよね、ごめんね。でも、あなたのせいじゃないからね。ちゃんと気持ちを整理して、いつものママに戻るから、ちょっと待っててね」などと伝えるようにしましょう。

ケース5:病院や歯医者さん、健診が苦手

×治療を嫌がっても「迷惑がかかるから」と我慢させる
○子どもに合った病院や先生、方法を選ぶ

医療機関や医療行為に対して強い恐怖や不安を抱くケースが多いHSCですが、それは決して、すべての医療機関や医療行為に対して抱くわけではないようです。
年齢的なもの、不安を感じやすい時期といった要因のほかにも、「院内の空気がピリピリしている」「先生の雰囲気が怖い」など、嫌がるのにはきっと理由があります。それらをわかってもらえないまま無理強いされると恐怖心が強くなり、その後の受診に支障が出てしまいかねません。
自分にとって安全か、安心かを感じ取るセンサーの感度が高いのがHSC。たとえ前の医療機関ではいっこうに治療を受け入れられなかったとしても、気質に合ったところが見つかって、恐怖が湧かなくなったというケースはたくさんあります。
たとえば、「子どもの苦手なことやニーズについて伝えやすい」「子どもの様子を見ながら、状況に応じた対応・説明・処置をしてくれる」といった病院は、安全・安心を感じられるでしょう。

ケース6:ささいなことですぐ泣いてしまう

×「そんなことくらいで泣かないで」と注意する
○「びっくりしたね」「嫌だったね」と受け止める

子どもが泣くと「早く泣き止やませなきゃ」と焦ったり、受け止めるゆとりがなかったりして、つい「そんなことくらいで泣かないで」などと言いたくなります。
でも、自分の気持ちやニーズを言葉で表現する力がまだ身についていない幼児期は、“びっくりした、嫌だった、怖かった”という感情を、泣くことででも、しっかり解放させたほうがいいのです。
それらの感情が解放されずに閉じ込められたままだと、心の中にはそのときの感情や感覚などが、トラウマ記憶として残ってしまうことがあります。
少し落ち着いたときにでも、「びっくりしたね、嫌だったね、怖かったね」などと、子どもの気持ちをやさしく受け止めてあげることが大事です。
子どもが人前で泣くことにあなたが動揺してしまうのであれば、「今度泣いたときは、ママがちゃんとよしよしするから、人のいないところに一緒に行って泣こうね」と声かけしておくと、心の準備ができますよ。

ケース7:疲れやすく、イライラしたり、無気力になる

×「いいかげんにして!」「わがまま言わないで!」と叱る
○「頑張って疲れたんだね」と頑張りを認め、話に耳を傾ける

HSCは、ストレスに対する反応が出やすく、イライラしたり、無気力になったりすることがあります。でもそれは、気質に合わないことによる反応であったり、本当は無理して疲れているのに頑張ったことで表われた反応であって、決して「わがまま」なのではないのです。
「わがまま言わないで!」などと叱られたり拒絶されたりすると、わかってもらえない悲しみや悔しさといった気持ちや感情が、「不眠」「発熱」「頭痛」「吐き気」「便秘」「腹痛」「下痢」などの症状となって表われることもあります。 
子どもにストレス反応が見られたら、「頑張って疲れたんだね」と頑張りを認め、子どもが必要とする遊びやスキンシップで心と体を満たしたり、しばらくの間休ませたりしましょう。
子どもの話にしっかりと耳を傾けて、気持ちを受け止めることも大事です。どんなことでも話せてわかってもらえる安心感を得られると、親子の信頼関係が深まり、自分の心や体を大事にできるように育つはずです。

”普通”に縛られず、愛着を重視する子育てを

幼児期の子どもはまだ、気持ちをうまく言葉にすることができません。「嫌なことが嫌」なのは、自分でもどうしてなのかがわからないし、わがままなのでもありません。それは、ごまかしのきかない、自分の中に湧いて満ちている、自然な感情なのですね。

「嫌なことを嫌」と感じるのは健康なこと。それを表現できず抑えなければならなかったり、信じてもらえなかったりすると、心の成長や人格形成に歪みが生まれてしまいます。親が、自分自身や子どもの気持ちがわからなくなったときは、世間の”普通”に縛られていないか確認してみましょう。

「嫌なことは嫌、無理なことは無理」と感じるわが子の、独自の個性や気質をよく理解し、子どもの気持ちをそのまま感じ取って、丁寧に対応して安心で満たしていると、子どもの将来にわたって土台となり続ける「安定した愛着※」が育っていきます。

HSCは特に、親が”普通”に縛られ、社会性や自立心を子どもに養わせなければと焦るよりも、親子間の愛着関係をしっかり構築することが大切です。それこそが「わが子の将来」に希望がもてる、大切な方法なのです。

※「 愛着(アタッチメント)」は、子どもと特定の存在(親、養育者)との間に形成される情緒的な関係=絆のこと。愛着の対象となった人からの十分なスキンシップや、共感的で反応豊かな関わりによって、子どもに「安定した愛着」が形成されていく。

【著者紹介】斎藤暁子(さいとう・あきこ)

心理カウンセラー。「さいとうカウンセリングルーム」代表。生きづらさ、母娘関係、対人関係、子育てなどのカウンセリングを行う傍ら、「HSC子育てラボ」を立ち上げる。現在は、HSC子育て、不登校に関するカウンセリングも行っている。