実は学力低下の原因に? 「長時間の自宅学習」の問題点

陰山英男
2024.01.15 13:55 2023.12.27 11:30

勉強する子ども

子どもの学力を上げるには、長時間の勉強や「ゆっくりていねい」な指導が必要だと考えている方は多いでしょう。しかし学力に関するデータを見てみると、実は逆効果であることが判明したのです。陰山英男さんが、長年の経験から考えた「学力を上げる戦略」をご紹介します。

※本稿は、陰山英男著「陰山流 新・おうち学習戦略」(Gakken)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

勉強時間で学習の成果を測らない

勉強する女の子

・苦労して勉強するより、楽しく勉強したほうがよい
日本人には根性理論が根深く残っているようで、どうしても「苦労したらその分、報われる」「歯をくいしばって努力したら、厚い壁も突破できる」と考える人が多くいます。

苦労はしないほうがいいに決まっていると思いませんか。必要のない苦労をせず、楽しく勉強して、まっすぐ素直に育った人のほうが、大人になってからよい人生を歩んでいけるものです。純粋さを持ち続けていれば、人生は何歳になっても驚きの連続、楽しいことが増えていくでしょう。

ここまでは多くの人に共感してもらえるのですが、人は自分の子どものことになるととたんに冷静さを失ってしまいます。長時間勉強を強いたり、基礎もできていないのに難問が解けないとカリカリしたりします。それは親の側に、必ず伸びるという自信がないからかもしれません。

親が「15分くらいかかるかな」と予想した課題を、子どもは10分で済ませてしまった。うれしくて「できたよ」と持ってくると、「速かったね。じゃああまった時間でこのプリントやろう」と課題を追加してしまう。

こんなことをしていたら、子どもは次から10分で済む課題に、ダラダラ30分かけるようになります。努力と根性の落とし穴に落ちないようにしましょう。

勉強する男の子

・ダラダラ学習は学力を下げる
実は、勉強ができる子ほど勉強時間が短いという調査があります。『プレジデントファミリー 小学生からの知育大百科2016 完全保存版』(プレジデント社)というムックの特集では、「東大生はその他の大学の学生より宿題にかける時間が極端に短い」というアンケート調査結果がありました。

東大生は頭がいいからすぐに終わる、というだけではありません。それもありますが、むしろ大切なのは、「宿題を早く終わらせようと集中するから学力が向上した」ということなのです。

ある一定量の作業があるとしたら、短時間で終わらせるほど生産性が高い。集中して短時間で終えるほうがよいのは当然ですが、親に自信がないと、つらくても長時間勉強している子どもの姿に安心してしまうのです。子どものダラダラ学習のきっかけが実は親であることは多いのです。

教えすぎない指導者がスピード学習を実現する

勉強する男の子

・基礎力と集中力があれば吸収率が高まっている
子どもの勉強を見守っていると、親はついつい教えてあげたくなります。しかし、説明を尽くすことはあまり好ましくありません。

子どもが基礎的な学力を身につけていて、集中力を発揮できる状態であれば、新しい単元の追い越し学習でも吸収力が高まっています。子どもが集中しているなら、黙って見守りましょう。

実際、徹底反復の学習が定着してくると、子どもたちの学習は日を追ってスピードアップしていきます。むずかしい問題も解けるようになり、解説することが少なくなっていきます。

私が現場にいた頃は、スピードアップした子どもたちに合わせて、授業もスピードアップしていました。たとえば2~3時間分の授業、ときには1週間分の授業を1時間でやってしまうという荒技です。

5年生では「速さ、時間、道のり」があります。教科書では、速さ、時間、道のりを1時間ずつ勉強するようになっているのですが、本来は3つがからみ合った問題です。

そのため、問題の数値を単純なものにして、1時間で学習するようにしました。当然、時間はあまりますから、あまった時間は演習に使って理解を深めていきます。こうすると、はるかに理解が早く、確実でした。「ゆっくりていねい」は、実は得策ではないのです。

高速授業の具体的な方法

教材

この高速授業という方法を、実は私はあまり公言していませんでした。常識外れとされるのが目に見えていたからです。ところが、ある小学校からその方法を見せてほしいと依頼され、思い切ってやってみせることにしました。

このときは3時間分の授業を1時間で終える授業でした。早口で説明するわけではありません。

まず、単純化した数字を用いて例題を解いてみせながら、最低限の説明をします。その後、いきなり演習問題を与えて子ども自身で解いていきます。もちろん、解くのに苦労したり、わからない子はいますから、「解けない子は前においで」と声をかけると、教卓の周りに数人の子どもが集まります。

そうしたら、自力でやっている子どもたちに聞こえないよう、小さな声でやりとりしながら指導していきます。コツは、同じ説明を何度も繰り返すことです。同じ説明を何度も聞くことで理解できたら、自分の机に戻って演習問題に取り組みます。

百ます計算で十分な基礎力が備わっていることが条件ですが、基礎が固まっていればこの方法をとることができるのです。

その後、この小学校では高速授業を極め、「45分授業のうち、先生が話すのはほんの数分」という神がかった授業にまで進化させていました。子どもの聞いて理解する能力が極限まで高まったからです。

現在、個に応じたていねいな指導が模索されていますが、大人がああだこうだと理屈を説明しすぎるのは子どもの成長を阻害しかねません。飲み込みが早い子も、遅い子も、ていねいな説明にうんざりして聞かなくなってしまう可能性が高いからです。それよりも、子ども自身が演習を積む過程で理解を深めたほうが、確実に力になっていきます。

無駄な言葉は廃して、説明するときにも短く。教材に書いてある説明方法を一緒に音読するくらいにします。説明方法は変えず、聞かれたことに答えるくらいで十分です。教えすぎず、子どもが一人でこなしたら、「こんなに進んだの!」と感激してみせましょう。

私が授業をした子どもたちも、「3日分が1日で終わったよ。がんばったね」と言うと、自信に満ちた表情をしていました。

陰山英男

陰山英男

1958年兵庫県生まれ。岡山大学法学部卒。兵庫県朝来町立(現朝来市立)山口小学校教師時代から、反復学習や規則正しい生活習慣の定着で基礎学力の向上を目指す「隂山メソッド」を確立し、脚光を浴びる。
2003年4月尾道市立土堂小学校校長に全国公募により就任。百ます計算や漢字練習の反復学習を続け基礎学力の向上に取り組む一方、そろばん指導やICT機器の活用など新旧を問わず積極的に導入する教育法によって子どもたちの学力向上を実現している。過去、文部科学省中央教育審議会教育課程部会委員、内閣官房教育再生会議委員、大阪府教育委員会委員長などを歴任。2006年4月から2016年まで、立命館大学教授。現在、陰山ラボ代表。陰山メソッド普及のため教育クリエイターとして活躍し、講演会等を実施するほか、全国各地で教育アドバイザーなどにも就任、子どもたちの学力向上に成果をあげている。

関連書籍

陰山流 新・おうち学習戦略の画像1
陰山流 新・おうち学習戦略(Gakken)
著者は、「これからの学習は『家庭』が担う」「子どもの学力を伸ばせるのは『家庭』の戦略と心掛け次第」と明言。戦略的な学習プランと教科別の進め方ポイントをマニュアル化し、ムダなく理解がすすむ攻略ポイントをこの一冊にまとめました。