引っ越し、入園、入学を境に子どもの様子が変? 「SOSサイン」への親の対応法

日下紀子
2023.12.12 15:00 2024.01.05 07:00

小学生の女の子

4月から新しい環境でスタートする家庭は多いでしょう。大人にとっては何でもない変化も、子どもたちにとっては大変化です。そのような中では、子どもたちのどのような点に注意すればいいのでしょうか。

※本稿は、『のびのび子育て』2021年3月号より転載したものです。

日下紀子(ノートルダム清心女子大学准教授)
1990年、奈良女子大学大学院修士課程修了。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程(臨床実践指導学講座)単位取得退学。博士(教育学)。臨床心理士。公認心理師。日本精神分析学会認定心理療法士スーパーバイザー。谷町こどもセンター顧問。

焦らず、ゆっくり見守ることが大切

外をみる男の子

入園、入学は、子どもにとっては、新しい未知の世界への旅立ちです。新しい環境に対して、ドキドキ・ワクワクといった期待や不安に胸躍らせ、時には、小学生になったのだから、進級して1つ成長したのだから、こんなこともあんなこともできるようになりたいなと、気負いやプレッシャーを感じることもあるでしょう。

それと同時に、これまでのお友だち、なじみのある園や先生との別れもあり、寂しさも心細さも感じているかもしれません。

引っ越しも同様です。なじみある家や友だちと別れ、新しい家、新しい園や学校での生活をスタートするときには多かれ少なかれ、これまでの自分の居場所、拠り所を失い、足元が危うい感覚をもたらします。それは非常に不安定で心もとない感覚でしょう。

そうした不安感を抱きながら、新しい環境に慣れ、自分の居場所を見つけ、安全と安心感を確立するためには、時間が必要です。そのことを大人は、自分の経験から知っているはずなのですが、つい忘れがちにもなってしまいます。

当然、親としては、子どもが早く環境に慣れ、毎日を楽しく過ごせるようになってほしいという願いがあるでしょう。親も新しい環境に慣れるために、不安を抱きつつ大変な努力をしています。

子どもにも早く新しい環境になじんでほしいとつい焦ってしまい、他のお友だちと自分の子どもを比べてしまうかもしれません。

幼いときは、特に子どもの発達や成長のペースには個人差があります。ちょっと怖がりの子もいれば、怖いもの知らずの子どももいます。子どもは、自分のペースで新しい世界に一歩ずつ歩み出す姿を見守る親のまなざしを必要としています。

こんな変化に要注意!

女の子の後ろ姿

子どもにとって、新しい環境での生活は、ストレスに溢れています。ストレス反応は、個人差が大きいので一概には言えませんが、次のようなものがあります。

【こころの変化】
ちょっとしたことでイライラしたり、過剰に興奮したりすることがあります

特に、自分の身に何が起こっているのかをきちんと把握し、言葉で表現することは、子どもには、まだ難しく、そのため心や体の変化、生活習慣の変化などが現われてきます。

そうした変化を子どもからのSOSサインかも?と細やかにキャッチし、適切に理解し対応する必要があるでしょう。そのためには、普段から子どもの日常の様子や状態をよく知っておくことが大切です。

心の変化としては、新しい環境になじむための不安や怖さ、そして期待と気負いなどが入り混じった複雑な感情を日々体験し、心のエネルギーをかなり使っています。心も体もくたくたになっているのではないでしょうか。

そんなときは、ちょっとしたことでイライラしやすく、怒りっぽくなって癇癪をすぐに起こしたり、急に落ち込んで、ぼーっとした状態になってしまうことがあるでしょう。

また、不安や恐怖を紛らそうとして、過剰に興奮したりすることもあるかもしれません。

体調が悪い男の子

【からだの変化】
大人と同じように、ストレス状態が体の反応として現れることがあります。

不安や緊張、恐怖に圧倒されてしまうと、体にも変化が現われてきます。新しい環境からの刺激に圧倒された状態では、食欲がなくなり、食が細くなってしまったり、便秘や下痢、微熱が続く、腹痛や頭痛、眼がかすむ、声が出ないなどの訴えがあります。

「頭が痛い」と言うときも、どうしようもない問題に悩んでいる心の状態が比喩的に表現されています。他には、チック症状、摂食障害や偏食、不眠、寝ぼけ、夜尿などあります。

行動の変化としては、言葉で「できるもん!」と強がりを示す、手を何度も洗う、就寝前に決まった儀式をする、融通が利かずにこだわりが強くなるなどがあるでしょう。

これらは、自分の心の中に沸き起こってくる不安をコントロールしようとする試みであるとも考えられます。問題行動の背景には何があるのか? どんな意味があるのか?優しいまなざしを向けてみましょう。