発達障害を早期に把握するために…医師がチェックする「未就学児・小学生の特徴的な行動」
昨今、大人の発達障害だけでなく、子どもの発達障害についても関心が高まっています。我が子や日常的に接する子どもたちに対して、「周囲の子とは少し言動が違うかもしれない」「誰かに相談したほうがいいのだろうか?」などと感じている方も多いかもしれません。
今回は、昭和大学医学部教授の岩波明医師による新著『発達障害の子どもたちは世界をどう見ているのか』より、「幼児期・児童期に、どんな言動が見られるのか?」についてご紹介します。
みなさんそれぞれの「なぜ?」「どうして?」「イライラ」などを少しでも解消できるヒントが得られるはずです。
※本稿は岩波明著『発達障害の子どもたちは世界をどう見ているのか』(SB新書)から一部抜粋・編集したものです
幼児期のADHDの子どもたちに見られる特徴的な行動とは?
発達障害の中でも、ADHD(注意欠如多動性障害)の特性のある子どもたちの行動特徴について見ていきましょう。
典型的な特徴は、「いつも動き回っている」。
座っているのが苦手だったり、部屋の中を走り回るのが好きだったりするのです。
あるいは「全然寝ようとしない」。
「夜遅くに私たちが寝させようとしても必死に抵抗して、疲れ果ててやっと寝る毎日なんです」という親御さんの声をよく聞きます。
このような「いつも動き回っている」「全然寝ようとしない」といった例からもわかるとおり、活動性が高くエネルギーにあふれている状態が長時間続くのが、ADHDの子どもの傾向と言えます。
また、ADHDの幼児の場合、一方的な行動が特徴的です。
これは興味のあるものに強くひかれ、その衝動をコントロールできないことによると考えられます。親と外出して歩いているときに、何か気になるものが目につくと、自分で勝手にその方向に走って行ってしまう行為などが見られます。
発達障害の子は、1人でいるのが居心地が良い?
発達障害においては「子ども同士の関わりが薄い」「いつも1人で遊んでいる」「集団の輪に入れない」「他の人と一緒の行動がとれない」といった行動も見られることがあります。
「他の人と一緒の行動がとれない」というのは、保育園のお昼寝の時間に1人寝ずに園庭をお散歩する、みんながイスに座って話を聞いているときに1人寝そべって聞いている……といった言動を指しています。
このような行動には、二通りの解釈が可能です。
一つには、他者への関心が薄く、他者と関わりを持とうしないASD的な特性の表れである可能性があります。
一方で、自分の関心のあることだけに熱中してしまうADHD的な行動の表れとも考えられます。
さらにASDにおいては、感覚障害、特に感覚過敏を示すこともあります。
これはすべての感覚で起こる可能性があり、周囲の音に過敏、抱っこされることを嫌がる、極端な偏食などとして表れます。加えて、運動のぎこちなさ、些細なことがきっかけでパニックになったり、かんしゃくを起こしやすいことが指摘されています。
しかしながら幼児期においては、複数の発達障害の特徴を示すことが珍しくはなく、明確に診断をつけられないこともまれではありません。また軽症の場合は、問題を認知されないこともしばしば見られます。
さまざまな特性が見つかりやすくなるのは児童期(小学校時代)
小学校に入学すると、座学中心の授業が始まるため、その時点でさまざまな特性が見つかりやすくなります。
特に顕著なのは、ADHDの多動傾向による「立ち歩く」「おしゃべりが止まらない」といった行動です。この場合、先生方は教室のいちばん前の席に座らせるなどの方法で、その子の注意を授業に向けさせるような工夫をされているようです。
ただし注意が必要なのは、多動と言えば必ずしも「立ち歩き」を意味しているわけではない点です。実際、授業中に立ち歩くほどの多動は頻度が低いこと、年齢的にも小学校2年生くらいで見られなくなる点は認識しておく必要があります。
これに対して、貧乏ゆすり、椅子をガタガタさせる、いつも体をくねらせたり動かしたりする、といった軽症の多動は児童期から思春期、時には成人期まで持続することが見られます。
「授業の内容についていけない」事実を周囲がきちんと受け止める
児童期は、学校の中でも「授業の内容についていけない」といった知的レベルの障害が明らかになってくる時期です。
小学校で児童の発達障害が疑われる場合、スクールカウンセラーが対応可能であれば、直接その子にヒアリングをしたり、様子を観察したりします。
そして、状況によっては知能テストを受けることをすすめる……という流れで、お子さんの状態を先生方と親御さんで理解・共有していくことが重要です。
担任の先生から地域の療育センターなどへの相談や病院での受診をすすめられることもあるため、その助言に対応する必要があります。
一定数の親御さんは、こういった相談や受診を不名誉なこととして、否定的に捉えがちです。しかしながら、早期にお子さんの特性を把握し対応することは、子どもの発育にとって重要であることは言うまでもありません。
ASDの児童期には、対人関係の問題が次第に顕著になります。
多くの子どもが小学校などの集団生活において、「常識的」な人間関係とはどういうものかを身につけていきますが、ASDの子どもはこのプロセスがあまり得意ではありません。
彼らは、学校行事などの決められた予定に合わせることが苦手で、生活習慣にこだわりが強く、人の目を見て話すことや相手の感情を推しはかることが不得手です。
思っていることを相手の気持ちを考えずに述べてしまうきらいもあり、集団に仲間入りできず、しばしば攻撃、いじめの対象になりがちです。
関連書籍
発達障害の子どもたちは世界をどう見ているのか(SB新書)
発達障害の専門医であり、現場での臨床経験も豊富な岩波明医師による、当事者目線での丁寧な解説をお読みいただけます。代表的な発達障害として、ASD・LD・ADHDを章ごとに取り上げています。また、各章の末には実際の患者さんの事例を匿名でご紹介。「こんなケースがあるんだ!」「周囲はこうやってサポートすべきなのか」「逆にこういう接し方はあまりよくないのかもしれない...」などと、たくさんの気づきが得られるでしょう。