開成の元校長は「苦手を克服」と「好きで得意を伸ばす」はどちらを重視する?
開成中学校・高等学校の元校長で、現在、北鎌倉女子学園中学校高等学校の学園長である柳沢幸雄先生は、「好きなこと」「得意なこと」を認めて伸ばすことが、子どもの成長に重要だと言います。
高校・大学進学、就職といったキャリア形成において、早いうちから自分の強みを知ることは大切です。
では、どのように「好きで得意なこと」=子どもの強みを見つければいいのでしょうか?
柳沢幸雄先生、そして有名学習塾SAPIXの共同代表を務める髙宮敏郎先生に語っていただきました。
※本稿は髙宮敏郎著『「考える力」を育てるためにSAPIXが大切にしていること』(総合法令出版)から一部抜粋・編集したものです。
「苦手」よりも「得意」に目を向けるべき
髙宮:先生が今の日本の教育に対して、「もっとこうしたらいい」と思われるのはどういったところでしょうか?
柳沢:苦手を克服することに力を入れるのではなく、好きで得意なことを伸ばしてあげるべきだと思います。
私は、キャリアについて生徒に話をする際、「好き」「嫌い」を縦軸に、「得意」「不得意」を横軸にして、簡単なマトリクスを作るように指導しています。そうすることで、自分の「好きで得意」「得意だけど嫌い」「好きだけど不得意」「嫌いで不得意」が可視化できるからです。
髙宮:メジャーリーグで大活躍するロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手も、高校生の頃からマンダラチャートを書いて、自分の取るべき行動や目指すべき方向を分析していたと聞きましたが、それに似ていますね。
柳沢:はい。どんな分野においても、誰にも負けない自分の強みを見つけるには、こうした内省的な取り組みが欠かせないと思っています。
このマトリクスに記入した項目のうち、「嫌いで不得意」なことは、この際、諦めても構いません。なぜなら、「嫌いで不得意」なことを職業に選ぶ人はいませんし、仕方なく選ぶことはあっても、長く続けられるものではないからです。とはいえ、「読み書き算盤(そろばん)」ができなければ、生きるうえで不便ですから、最低でも中学卒業レベル、あるいは高校レベルまでは修得しておくのがよいでしょう。
次に「得意だけど嫌い」なことは、いつか好きになるタイミングが訪れるものですから、そのときまでじっと待ってみましょう。「好きだけど不得意」なことは、周りにいる得意な子を見つけて、真似してみることが突破口になります。
そして、言うまでもなく、最も大切にすべきなのは「好きで得意」なことです。やはり「好きなこと」「得意なこと」を伸ばす以外に、その子の持っている良さを引き出す方法はないのです。
髙宮:「好きで得意」なことに磨きをかけ、それをもっと前面に出すことが必要ですが、日本には「出る杭は打たれる」ということわざ、悪習があります。まずは、その価値観から脱却することが大切ですね。
柳沢:最近、私立大学はもちろん、国公立大学においても学校推薦型選抜や総合型選抜を導入する大学が増えてきました。これは、生徒の「好きなこと」「得意なこと」を認めて伸ばすという観点から、非常に良い動きだと受け止めています。自分の力を伸ばしてくれそうな大学を見極め、早くからキャリアビジョンを描くことは、合格への近道であると同時に、結婚・子育てといった近い将来起こり得るライフイベントに備えた、しなやかなキャリア構築のためにも大切です。
自分の適性とマッチした環境で才能を伸ばし、この国から多くの“スペシャリスト”が生まれてくれることを期待しています。
関連書籍
「考える力」を育てるためにSAPIXが大切にしていること(総合法令出版)
これからの時代を担う子どもたちにとって、「考える力」は欠かせないスキルの一つです。
少子化やグローバリゼーション、AIの台頭などが取り沙汰される今、知識をインプットすることはもちろん、自由な発想と柔軟な思考力、それを自分の言葉で表現する記述・論述力(アウトプット)が重要になります。
本書は、「考える力」をテーマに、SAPIX YOZEMI GROUP共同代表・髙宮敏郎氏と、長年教育に従事してきた有識者の先生方が対談。
筑波大学附属駒場・開成・麻布・桜蔭・女子学院など最難関中学校の合格者数第1位を誇るSAPIXが大切にしている教育理念と、これから求められる教育の在り方が分かります。