性行為の低年齢化はなぜ起こっている? その背後に見える 「親子の問題」

佐々木正美
2024.01.16 17:35 2024.02.02 11:50

落ち込む女子高生

初交年齢の低下に伴う、性病の増加や中絶率の上昇が問題となっています。現代の子どもたちは、なぜ簡単に性行為をしてしまうのでしょうか? 児童精神科医の佐々木正美さんは、その要因に親子関係があると指摘します。本稿では、幼児期の子どもとスキンシップを取る重要性について紹介します。

※本稿は、佐々木正美著『【新装版】抱きしめよう、わが子のぜんぶ: 思春期に向けて、いちばん大切なこと』(大和出版)から、一部抜粋・編集したものです。

子どもが突然変わった、は間違い

落ち込む女の子

私のもとには、思春期のむずかしさに「うちの子のことがわからなくなった」と不安を感じ、子育てに自信をなくしてしまったお父さんお母さんがたびたび相談に来られます。

わが子が小学校、中学校と成長する頃になり、ある日突然、親のいうことを聞かなくなった。口を閉ざし、自分のことを話さない。反抗する。暴力をふるう。学校に行かなくなる……。

そんな変わりように、戸惑い、いったいどうやってわが子と向きあえばよいのだろうと、悩まれているのですね。親から見たら、突然変わったように思えるかもしれません。

でも、思春期の問題行動は突然起こるものではありません。その根っこには、乳幼児期の育ち方が深く関係しているのです。

そのことを示しているひとつの例として、保育園や幼稚園で自分の性器をさわる子どもが増えているという現象があります。男児に限らず、女児もです。多くの保育士さんから、自分のおちんちんをさわってばかりいる子がいて困っている、という相談を受けます。なぜ、性器いじりをするのでしょうか。

私は、お母さんとのスキンシップ不足が原因ではないかと考えています。スキンシップというのは、肌と肌のふれあいだけではありません。どれだけ愛情をかけてあげているかということが重要なのです。

お母さんから十分に愛されていない、抱きしめてもらえない子どもたちがそういう行為をする傾向にあるのではないか。臨床の現場から、そう実感しているのです。

頭を抱える男の子
精神分析の創始者フロイトは、「人間は生まれながらにして性に関する衝動をもっている」といっています。フロイトは、この衝動を「リビドー」と呼びました。リビドーには2つの視点があります。

・生きる原動力となる力
・性ととても強く結びついた衝動


つまり、「性の衝動」とは性欲だけではなく、もっと広い、よりよく生きるため、より力強く生きるための「生の衝動」なのです。

そして、これは何も思春期、青年期になって出てくる衝動ではなく、生まれたときから人間がもっている本質的なものです。

性の衝動は、本来とても健康的で自然なものです。乳幼児期に、たとえばお母さんのゆたかな乳房にふれる、お母さんの乳房に唇でふれる、お母さんの肌に自分の全身でふれる。これらはスキンシップそのものです。そういう肌と肌のふれあいによって、乳幼児期は性の衝動が満たされていくのです。

問題行動を起こす子どもたちが欲しているもの

男の子とブランコ

十分な愛情を与えられず、満たされない性衝動を抱えた子どもは、仕方なく自分で自分を満たそうとします。それが、性器いじりというひとつの行動に出ているのです。愛情不足のあらわれのひとつなのですね。

そして、愛情不足のまま成長した子は、思春期を迎える頃になり、その蓄積された欲求不満がさまざまな問題となってあらわれることがあります。

今、全国の保育園、幼稚園の子どもたちに起こっている問題と、10代の子どもたちに起きている問題とは、本質的には同じです。

つまり、早熟な性行動、いじめや不登校、非行など思春期の問題は、愛されていないことへの反発である場合が多いのです。リビドーは本来、人との関係で満たされていくものです。子どもにとってリビドーを満たすいちばんのものは、ほかでもない、親の愛情です。

幼いころにお母さんお父さんの愛情を求めて、それが満たされなかった子どもほど、思春期になってつまずくケースが多いように感じます。子どもがおかしいなと感じたら、それは「愛されたい」「大切にしてほしい」というサインです。今からでも遅くはありません。だまって抱きしめてあげてください。

あなたのことを大切に思っているという気持ちで、そばにいてあげてください。静かに見守ってあげてください。ただそれだけで十分です。あなたの愛情は、きっと伝わります。そうして、たくさんの愛情で子どもたちを満たしてあげてほしいと思うのです。

【まとめ】非行や不登校など、今、思春期の子どもたちの間で広がっている問題は、「もっと愛されたい」という子どもの叫びです。

性行為の低年齢化は早熟だからではない

学校の廊下

リビドーが満足に満たされない子どもが増えているといいました。子どもが成長するのに最も大切な、「自分は愛されているんだ」「大切に思われているんだ」という自己肯定感、安心感が足りないのです。

小さな子どもは、おんぶや抱っこなどのスキンシップや、ご飯を食べさせてあげたり、お風呂にゆっくり入れてあげたり、添い寝をしたり、あやしてあげたりといったことに、惜しみない時間と愛情を注いであげることで、自己肯定感が育まれます。

「お母さんはこんなにぼくのことを大事にしてくれるんだ」という実感が、自分のことを好きになれるいちばんの栄養なのです。

ところが、こうしたことが十分に満たされないまま大きくなった子のなかには、思春期の早い時期から異性の友人とすぐに性的な関係になってしまう子が少なくありません。

全国幼小中高性教育研究会が2002年、高校生を対象に性の行動に関する調査研究をしました。結果は、地域差と男女差はあまりなく、高校3年生を対象にした調査では、男女ともにおよそ40%の子が性の経験をもっていることがわかりました。

この数字をどう思われますか。「今の子どもは早熟だ」と感じるかもしれません。しかし、私はそうは思いません。むしろその逆、未熟だからこそ、安易で軽はずみな行動に走ってしまうのではないかと思っています。

なぜ簡単に性行為をしてしまうのか

雨の中傘をさす高校生

未熟な理由は、幼児のころに十分にリビドーを満たしてもらえなかったことがいちばんの要因でしょう。

愛情に飢えている子は、そのさみしさを埋めるために、異性の肌のぬくもりを求めてしまいます。まるでゲームのように性行為をしたり、多数の異性とつきあったり別れたりを繰り返す中高生が多いのは、心の底で本当の愛を探しているからなのです。

幼いときから、しっかりと親の愛のもとで育った子どもは、簡単に交際したり、性行為をしたりすることはまずありません。自分が愛情で満たされているから、かりそめの愛など欲することはないのです。

幼児的な性衝動の解決、リビドーの解決のために性行動に走ってしまうのは高校生だけではありません。いまや中学生、小学生までもが性体験をもってしまうような時代です。これは本当に由々しき事態だと思います。親だけでなく、社会全体が向きあい、子どもたちの性の暴走を食い止めなければならないと真剣に思うのです。

性行為の低年齢化は、中絶率にも反映されています。19歳の日本の人工妊娠中絶率は50人に1人です。ピークは20歳前後にあり、この数字を見ても安易な性行為が若者の間で広がっていることがわかります。

リビドーが満たされないまま成長した若者同士がめぐりあうと、すぐに性的な関係になってしまう。未熟な彼らは正しい性知識をもっていませんから、きちんとした避妊をしません。その結果、妊娠してしまったり、性病にかかってしまったりするのです。

今、10代の性病が急速に増えています。これもまた、性を簡単に考えている、未熟な証拠といえましょう。

【まとめ】10代の安易な性行為は、家庭での満たされない愛情を外で満たそうとする行為です。

佐々木正美

佐々木正美

昭和10年前橋市生まれ。昭和42年、新潟大学医学部卒業。東京大学で精神医学を学び、ブリティッシュ・コロンビア大学児童精神科に留学し、児童精神医学の臨床訓練を受ける。帰国後、国立秩父学園(重度知的障害児居住施設)や東京大学精神科助手を経て、神奈川県児童医療福祉財団・小児療育相談センターに所長として20年間勤める。その間、東京大学精神科、東京女子医科大学小児科、お茶の水女子大学児童学科等で非常勤講師、ノースカロライナ大学で非常勤教授を務める。川崎医療福祉大学特任教授、横浜市総合リハビリテーションセンター参与などを歴任。2017年没。著書に『子どもへのまなざし』(福音館書店)など多数。

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