心理学者が教える「思春期の子どもと仲が良い家庭」の築き方

出口保行,小川晶子
2023.11.06 14:52 2023.11.20 11:50

外をながめる女子中学生

10万部突破のベストセラー『犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救う言葉』、新刊『犯罪心理学者は見た危ない子育て』著者、出口保行氏は双子の娘を持つお父さんでもある。自身を「過保護型」という出口氏だが、家族の仲の良さは周りからうらやましがられるほど。

二人の息子を子育て中で、『超こども言いかえ図鑑』著者の一人である小川晶子氏が、思春期以降も家族が仲良くいられるコミュニケーションの秘訣について聞いた。

出口保行
犯罪心理学者。東京未来大学こども心理学部部長。1985年東京学芸大学大学院教育学研究科発達心理学講座を修了。同年国家公務員上級心理職として法務省に入省。以後全国の少年鑑別所、刑務所、拘置所で犯罪者を心理分析する資質鑑別に従事。心理分析した犯罪者は1万人超。内閣府、法務省、警視庁、各都道府県庁、各都道府県警察本部等の主催する講演会実績多数。独自の防犯理論「攻める防犯」を展開。フジテレビ「全力! 脱力タイムズ」にレギュラー出演。前作『犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救う言葉』(SB新書)は累計9万部突破の話題作となった。

小川晶子
ブックライター、絵本講師。
児童書や教育関連の書籍を中心に本づくりに携わっている。

誰でも多かれ少なかれ偏りのある子育て

息子を見つめる母親

小川:『犯罪心理学者は見た危ない子育て』では、親の養育態度を「過保護型」「高圧型」「甘やかし型」「無関心型」の4つに分けて、それぞれ極端に偏ったときの危険性について詳しく解説されています。誰しも多かれ少なかれ偏りがあり、行き過ぎないようにときどき自己点検することが大事だということですね。

私はだいたい「過保護型」で、時と場合によってその他の3つもありえるなぁと思いました。長男には「高圧型」で次男には「甘やかし型」になったりします。

出口:そうそう、それが普通ですよね。同じ人がそのときによって「過保護型」になったり「高圧型」になったりするものです。まったく偏りのない人なんていませんし、それで何も問題はありません。

夫婦のどちらかが「高圧型」でどちらかが「甘やかし型」など、うまく役割分担できていることもあります。全体としてバランスが取れていればいいんです。

問題が起きるのは、極端に偏ってそのまま突っ走った場合です。本に出てくる非行少年たちの事例は、どれも極端に偏った養育態度が修正できないまま進んでしまった例です。

小川:出口先生ご自身は「過保護型」だとおっしゃっていましたね。

出口:完全にそうです。法務省の心理職として全国の少年鑑別所、刑務所、拘置所に勤務していましたから、転勤が多く、双子の娘は小学校を4つも変わっているんです。普通ならしなくていい苦労を娘たちにさせることは目に見えていました。

何としても守らなければという気持ちが強く、過保護型になりました。もうすっかり大人になって二人とも家を出ていますが、いまだに過保護なところがあります。何かというと私に相談してきますからね。

子どもが思春期以降も、親子仲良しの秘訣

出口保行 小川晶子

小川:出口先生のご家族の仲の良さは本当にすごいと思います。家族LINEのやりとりが毎日のようにあって、しかも楽しそう。娘さんはいま外国にいらっしゃるとのことで、距離は離れていますが、心理的距離がとても近いのですね。

どうしても子どもと一緒にいる時間が短くなってしまうお父さんは、とくに思春期以降、親子関係が難しくなることがあると思うのですが、出口先生はどうされていたんですか?

出口:思春期の娘に父親が嫌われるのは仕方ないですよね。私のところも、敵対はしなかったものの、あまり喋らなかった時期があります。それはもう、そういうものだから。それに、仕事で毎日帰りが遅く、起きている子どもたちに会えなかった時も多かったので、ケンカになりようがないのもあったでしょう。

確かに家族はずっと仲がいいですけど、別にヒントになるものもないと思いますよ。

小川:そうおっしゃらずに、教えてください。

出口:一つ挙げるなら、娘たちには親として「ああしろ、こうしろ」と言ったことがありません。徹底的に話を聞くスタンスです。

小川:それはすごい。

出口:子どもたちと常に一緒にいた妻は、「こうしなさい」と言っていましたよ。言うべきことだってありますから。役割分担ができていただけです。

ただ、親が一方的に決めることはせず、家族で話し合うことを大事にしました。「家族会議が当たり前」という家庭内の文化を作っていたんです。家族会議のおかげで、私の過保護も突っ走らなくてすんだと思います。

模造紙広げて家族会議

出口保行

小川:『犯罪心理学者が教える子どもを呪う言葉・救う言葉』の終章に、模造紙を広げて家族会議をされていた話がありましたね。娘さんの話を聞きながら、テーブルの上に広げた模造紙に整理していくと。

出口:「こうしたらいいんじゃない」とアドバイスをするのではなく、ひたすら話を聞いて、キーワードを書き出していく役です。「これとこれがつながっているね」「これが大事なんだね」と整理していくんです。すると、子どもは自分で判断できます。

とくに思春期以降はさまざまな課題が出てきますよね。娘たちに悩みがあるときは、この家族会議を飽きるまで毎晩続けました。

「模造紙広げて家族会議」は、ぜひやってみてください。単に話を聞いて大きな紙に書いていくだけです。点を線でつないでにしていくことを、子ども自身にやらせるのです。「ああ、そうか。こういうことだな」と納得しながら自分で解決していきます。面白いですよ。

子どもは自分で判断・決定できるので自己決定力が上がりますし、自信になります。

どんな家族を目指したいか

高校生の男子

出口:親子で情報共有しない家庭はけっこう多いですね。たとえば、子どもの就職が決まったことは知っていても、具体的にどこに行くのか知らなかったりするんです。

小川:えっ、そうなんですか。……自立しているという見方もできるんですかね。

出口:自立していることと、情報共有しないことは別の話です。自立しながらも、重要な情報は家族に共有することはできますよね。伝え方がわからなかったり、そもそも情報共有する文化がなくて、お互い気になるけれどそのままにしてしまうということもあるのでしょう。

もちろん家族のかたちはいろいろです。それぞれの家族で目指す姿があればいいと思います。私の家族は、いつも話し合える家族を目指したんです。

小川:私も出口先生のご家族のように、話し合える家族がいいなと思っています。

出口先生と対談させていただき、あらためて家庭でのコミュニケーションの重要性を感じました。子どもが「ヤバい」「ウザい」といった言葉ばかり言っていたとしたら、「それってこういうこと?」と丁寧に聞いていくことから始めないと、どんどんコミュニケーションが薄くなってしまう気がします。

出口:根気が要りますが、大事なことです。……って私もえらそうなことは言えないですよ、過保護ですから(笑)。

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