やみくもな早期教育は意味なし? 子どもの脳が育つ正しい順番

成田奈緒子
2024.01.23 11:20 2024.02.27 11:50

本を読む女の子

我が子の能力を最大限に引き出してあげたい、と願うのが親心。しかし、脳の「育つ順番」を無視した早期教育は、もしかしたら効果がないかもしれません。

子どもの脳が育っていく正しい順番を、医師の成田奈緒子さんが解説します。


※本稿は、成田奈緒子著『子育てを変えれば脳が変わる 』(PHP研究所)から、一部抜粋・編集したものです。

脳には3つの種類がある

子育てを変えれば脳が変わる

この記事の画像(2枚)

「脳が育つ順番」とは何でしょうか。そもそも脳は、どのようなしくみを持ち、どう育っていくのでしょうか。まずは、そこからお話ししましょう。

まず、脳には3つの種類があります。

それが「からだの脳」「おりこうさんの脳」「こころの脳」の3つです。

からだの脳

手づかみでごはんを食べる赤ちゃん

1つ目の「からだの脳」は、姿勢の維持・睡眠・食欲・呼吸・情動・性欲などを司る脳です。自律神経の働きをコントロールするのもからだの脳です。脳の部位でいえば、大脳辺縁系、間脳(視床、視床下部)と脳幹(中脳、橋、延髄)から構成されます。

具体的には、寝たり起きたり、立ったり座ったり、食べたり呼吸したりといった生きる上で必要不可欠な身体機能を担っているのが、からだの脳です。

おりこうさんの脳

立体工作をする子

2つ目の「おりこうさんの脳」は、知能・言語・知覚・情感・微細運動(手先の器用さなどの細やかな動き)などを司る脳です。脳の部位でいえば、大脳新 質から構成されています。

おりこうさんの脳が育つことで、お勉強ができたり、スポーツが上手だったり、手先が器用だったり、言葉が達者だったりといった成長が見られるようになります。

こころの脳

電車に乗る子ども

3つ目の「こころの脳」は、論理的思考や問題解決能力、想像力や判断力といった、「人らしい能力」を司っています。こころの脳は、「おりこうさんの脳」の一部である前頭葉と「からだの脳」をつなぐ神経回路から構成されています。

そもそも、人間の心の働きには、2つの種類があります。それは「情動」と「情感」の2つです。

「情動」とは、怒り、不安、恐怖、衝動性など、外界の出来事に対して起こる、原始的な心の働き、いわゆる喜怒哀楽です。これらは「命を守る」ために働きます。危険にさらされたときに恐怖を感じて「逃げよう!」と判断する、脅やかしてくる相手に怒りを覚えて攻撃する、などが典型例です。

一方、「情感」とは、自分の置かれた状況や、周りの人の心情などを考慮して、とるべき言動を判断する力で、安心、喜び、好意、自制心などの心の働きを指します。

やみくもな早期教育は意味なし? 子どもの脳が育つ正しい順番の画像1

動物は基本的に、「情動」だけで動きますが、人間はそうはいきません。高度な社会生活を営む生物である以上、怒りや衝動だけで行動すると信用を失いますし、悪くすると犯罪者になってしまいます。

そこで「情感」の出番です。情感は、反射的に生じた怒りや衝動を、冷静な判断によって「安心」や「喜び」に変えることができます。「どうすべきか」を思考して、より合理的な行動に結びつけることもできます。

この「情動」を「情感」によってコントロールする機能の拠点になっているのが、「こころの脳」である前頭葉なのです。

こころの脳が育つことで、感情や衝動を抑え、じっくり考えることができるようになります。また、自分の気持ちにブレーキをかけられるようになることで、思いやりやコミュニケーション能力なども育ちます。

脳が育つ正しい順番とは?

赤ちゃん

では、3つの脳はどのような順番で育つのでしょうか。

まず何より育てなければいけないのは、「からだの脳」です。

からだの脳が司る機能はすべて、生命の維持に欠かせないものばかりだからです。

睡眠、食欲、呼吸は言うに及ばず、情動は命を守ろうとする働きですし、性欲も生命を先につなごうとする原動力です。姿勢の維持も、「重力に逆らって立つ」「椅子の上にきちんと座る」といった、もっとも基本的な身体コントロール力です。そして自律神経は、血液の運搬や体温調整、心臓や内臓の働きなどの体内活動を司ります。

本を読む男の子


その次に、より高度な機能を司る「おりこうさんの脳」を育てます。

計算したり読解したりする知能、相手に意志を伝える言語、五感をつかって外界を認知する知覚、細やかな心の動き、指先の動き。

これらはいずれも大切な能力に思われるかもしれませんが、「からだの脳」が司る機能とは異なり、なければ死ぬわけではありません。脳というと「知能」や「言語」のイメージばかりが独り歩きしがちですが、これらはあくまで「あれば便利」な機能なのです。

親御さんからすれば、子供に対して、これらの能力を早く伸ばしてあげたいと思われるかもしれません。しかし、実は研究で、人間の基本的な動きを支える「からだの脳」が育っていなければ、おりこうさんの脳もうまく育たないことがわかっています。

ここを勘違いせず、まずは「からだの脳」をしっかり育てることが肝要です。それが、子供にとって何より大事な「生きる力」を形づくります。

朝食を食べる親子


そして、最後に育てるのが「こころの脳」です。実は、こころの脳は、おりこうさんの脳に知識や情報などの記憶がある程度蓄積されてから、それらを前頭葉が統合する形で発達していきます。

具体的には、おりこうさんの脳に蓄積された知識や情報の中から、必要な情報とそうでない情報を取捨選択し、前者を速く処理できるように神経回路を太く発達させていきます。したがって、おりこうさんの脳が発達しなければ、こころの脳は発達しません。

つまり、脳は「からだの脳」→「おりこうさんの脳」→「こころの脳」の順番に育てること。これ以外に、正しい順番はありません。

成田奈緒子

成田奈緒子

小児科医・医学博士・公認心理師。子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表。文教大学教育学部教授。1987年に神戸大学医学部を卒業後、米国ワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春新書インテリジェンス)、『高学歴親という病』(講談社+α新書)などがある。

関連書籍

子育てを変えれば脳が変わる(PHP研究所)

子どもの脳の発達を長年研究してきた著者は、今「健康な発達を阻害する子育て」が増えていると警告する。

幼い頃からたくさん習い事をさせる、親が帰宅する深夜まで寝かせない……。 しかし、子どもを健康に育てるために必要なことはただ一つ、「脳が育つ順番に沿った子育て」だと語る。

本書ではそんな「脳育て」の方法を丁寧に解説。読めばたちまち、子育てがラクになる!