子どもを賢く育てるなら「5歳までは夜8時就寝」がマストな理由

成田奈緒子
2024.01.23 11:20 2024.03.01 11:50

子どもを賢く育てるなら「5歳までは夜8時就寝」がマストな理由の画像1

子どもを賢い脳に育てるために必要なこと、それは「夜8時に寝る」生活を徹底することだそう。その理由と、早寝早起きを実践するためのポイントを、医師の成田奈緒子さんが解説します。

※本稿は、成田奈緒子著『子育てを変えれば脳が変わる 』(PHP研究所)から、一部抜粋・編集したものです。

からだの脳とは、生きるための脳

寝ている女の子

からだの脳は、生命を維持するための脳です。

「命を保つ」という、生物として不可欠な力をつけさせて強める。これが子育てにおける、最初にして最重要のミッションです。

ではその方法はというと、「生活リズムをつくる」こと。この一点に尽きます。

人間は、昼行性の生物です。ですから太陽が昇れば目覚めの準備、太陽が沈めば眠りの準備ができるようなサイクルをつくらなくてはなりません。しかし乳幼児期は脳が未発達で、そのサイクルができていません。だからこそ親が「脳育て」をしなくてはならないのです。

「早起きをする、規則正しく食べる、早く寝る」を、ひたすら毎日繰り返し、リズムを身体に沁し み込ませ、からだの脳を育てましょう。

しかし、このようなことを聞いて、少々「物足りない」思いを抱く方もいるかもしれません。

「健康的で何よりだが、それで賢く育つだろうか?」

「優秀さや思慮深さを育てるために、何かしなくていいんだろうか?」

そう思った方は、ここでしっかり覚えておいてください。

親御さんがわが子に望むようなこと――聡明さも、コミュニケーション能力も、思慮深さも、やさしさも、発想力も、前向きさも、すべてはからだの脳である「一階」を頑丈に建てることなしには備わりません。

からだの脳が頑丈なら、自動的に「二階」も頑丈になります。からだの脳がしっかりしている子ほど、「おりこうさんの脳」と「こころの脳」がよく育つのです。

そのためにも、最初の5年間は「夜8時に寝る」生活を徹底することを私は提唱しています。

夜8時になったら、眠くなる状態をつくる。夜になったら自然と脳を休ませる生活習慣を身に付ける。乳幼児期の子育てに、それ以外の努力は何一つ要りません。

「たったそれだけ?」と、なお物足りなげな方は、考えてみてください。

「それだけ」のことが、きちんとできているでしょうか。

子供が睡眠を存分にとれていると、自信を持って言えるでしょうか。

5歳までは、11時間以上の睡眠が必要

そもそも子供は、大人よりも多くの睡眠を必要とします。読者の皆さんの想像以上に、多くの時間が必要です。

次の図は、小児科医が利用する教科書『ネルソン小児科学』に掲載されている、年齢別の必要睡眠時間です。

子育てを変えれば脳が変わる

この記事の画像(2枚)

中~高校生でも8時間以上は必要で、小学校高学年でも10時間近く必要であることがわかりますね。

では、乳幼児期はどうでしょう。おどろくべきことに、生まれたばかりの子供は16時間以上、1~3歳ごろは12時間が昼寝を含めて必要です。5歳ごろになると昼寝がなくなるので、11時間の夜間連続睡眠が求められているのです。

実際にこれだけの睡眠が取れている子供は、日本では非常に少数です。

そもそも日本人は、諸外国に比べると睡眠不足気味です。厚生労働省の調査によると、日本人の成人の1日平均睡眠時間は6~7時間がもっとも多く、次に多いのが5~6時間です。それに比べ、欧米人の平均睡眠時間は約8時間と、大きな開きがあります。なので、この教科書通りは無理としても、せめて教科書マイナス1時間の睡眠時間は確保しましょう。

5歳なら夜8時に寝て朝6時に起きる、これで10時間です。小学生なら夜9時に寝て朝6時に起きる、そして中高生なら夜10時に寝て朝6時に起きる。このようにつくっていけば「からだの脳」は万全に育ちます。これが、私が乳幼児期は「夜は8時に寝かせることだけを目標にしよう!」という根拠です。

早く寝かせるためには、早く起こす

『子育てを変えれば脳が変わる』②の画像1

「夜8時に寝かせるなんて無理です。うちの子は寝つきが悪くて」

こんなことをいう親御さんがよくいらっしゃいますが、それは十中八九、「そもそも起きるのが遅い」ことが原因です。

朝が遅ければ、夜遅くまで眠くならないのは当然で、そこを無理に寝かしつけようとしても効果はありません。

早く寝かせるには、「早く起こす」ことから始めるのが正しい方法です。「朝6時台」を目標に、今の起床時間を徐々に早めていきましょう。

しかし遅く起きるクセがついた子ほど、なかなか起きてくれないと思います。

そんなときは、本人の「好きなこと」で興味を引き、楽しい気持ちを起こさせるのがコツです。

たとえば、お気に入りのおもちゃを見せる、録画しておいた好きな番組の音を流す、などなど。

でも、こうして早く起床できても、日中に寝てしまうと努力も水の泡です。

昼寝は1時間程度に抑え、夕方もうっかり寝かせてしまわないように頑張りましょう。そうすれば、自然に夜7時頃から眠くなってきます。7時を過ぎたら、「夜の睡眠」になりますので、そのままで朝まで寝かせましょう。

幼児期ならば、これを一週間続けるだけで、リズムがかなり整います。

寝かしつけをするパパ

さらに夜、寝付きを良くするためのコツもあります。

就寝時刻が近づいたら、光の刺激を減らしてしまうのです。

徐々に照明器具の光を暗くし、テレビ、タブレット、スマホなどはオフに。興奮する遊びも控えましょう。

そのためには、お風呂は、就寝1時間以上前に済ませましょう。お風呂でいったん上がった体温が低くなっていくとき、副交感神経(休息時に働く自律神経)のスイッチが入り、スムーズに入眠できます。

そしてこれらの流れを、毎日同じタイミングで行うことが大事です。なぜなら脳は、「繰り返しの刺激」によってつくられていくものだからです。

夕食、お風呂、テレビを消す、寝室に行く……といったひとつひとつの行動を、同じ時間に行うことが大事です。「今日はちょっと遅くなってもいいか」といった例外をつくらず、淡々と毎日、繰り返しましょう。

成田奈緒子

成田奈緒子

小児科医・医学博士・公認心理師。子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表。文教大学教育学部教授。1987年に神戸大学医学部を卒業後、米国ワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春新書インテリジェンス)、『高学歴親という病』(講談社+α新書)などがある。

関連書籍

子育てを変えれば脳が変わる(PHP研究所)

子どもの脳の発達を長年研究してきた著者は、今「健康な発達を阻害する子育て」が増えていると警告する。

幼い頃からたくさん習い事をさせる、親が帰宅する深夜まで寝かせない……。 しかし、子どもを健康に育てるために必要なことはただ一つ、「脳が育つ順番に沿った子育て」だと語る。

本書ではそんな「脳育て」の方法を丁寧に解説。読めばたちまち、子育てがラクになる!