無理に勉強させても脳は育たない…「自ら学ぶ子」にするために親ができること

成田奈緒子
2024.02.07 16:42 2024.03.04 11:50

頭を抱える女の子

大人が無理やり勉強をさせても、子どもの脳は育ちません。
自ら好奇心を持って勉強する子に育てるために、親が心掛けるべきこととは? 医師の成田奈緒子さんが解説します。


※本稿は、成田奈緒子著『子育てを変えれば脳が変わる 』(PHP研究所)から、一部抜粋・編集したものです。

おりこうさんの脳は、勉強させても育たない

おやつを食べる子ども

「おりこうさんの脳」は、私たちが「脳」と言われて最初にイメージする、しわしわの部分。部位で言えば大脳新皮質にあたります。

おりこうさんの脳が司るのは、言語能力や計算力、記憶力、スポーツの巧みさや手先の器用さなど。加えて、知識や情報を蓄積し、それらを必要なときに思い出しながら考えをまとめる力も、おりこうさんの脳の領域です。社会のルールや常識も、この脳に蓄えられます。

おりこうさんの脳は、からだの脳より少し遅れて1歳ごろから育ち始め、18歳ごろまで成長し続けます。成長の中核期となるのは、6~14歳ごろの小中学生時代です。

従って、おりこうさんの脳育ては1歳から始めるにしても、本格化させるのは小学校に入ってから。乳幼児期は「からだの脳」が最優先、と心得ましょう。

勉強する男の子

そしてもう一つ、覚えておいていただきたいことがあります。「おりこうさんの脳」を育てることは、学校の宿題をさせたり塾に行かせたりすることではありません。親が無理やり勉強させても、おりこうさんの脳は育ちません。

「おりこうさんの脳を育てる」とは、本人が「勝手に勉強しだす」ような脳をつくること。物事に興味関心を抱き、好奇心の赴むくまま自発的に知識を求め、思考や探求を深めていこうとするベースをつくることです。

では、そのために親ができることは何でしょうか。

その答えは、経験を積ませることです。子供が、自分をとりまく世界を見る・知る機会を多く与えることです。

その機会のなかで、もっとも重要なのが「家庭生活」です。

家庭は、もっとも小さな単位の「社会」。そこでの生活は、他者との共同生活を学ぶことを意味します。子供が、家庭という社会の一員として自らを位置付けることが、広い世界を知るための、最初の一歩となります。

「家庭で生活するなんて、どの家でもしていることではないか」と思われたでしょうか?

では振り返ってみてください。皆さんは子供を、家という社会に参画させているでしょうか。あれこれ世話を焼いたり、失敗しないように先回りしたりして、「お客様」扱いをしていないでしょうか。

これもまた、愛情のつもりで、脳の成長を阻む育て方です。

それよりはるかに簡単で、それでいて子供の知性を伸ばす育て方を知っていただきたいと思います。

子供の役割をつくり、自己肯定感を上げる

洗濯を畳む男の子とパパ

今どきの子供たちを見ていると、家庭生活がはなはだ不十分だと感じます。親が身の回りの世話をしすぎて、「お客様」どころか「王様」になっている子が大勢います。

朝はお母さんが起こしてくれて、朝食をつくってくれて、お弁当を持たせてくれて、学校から帰れば塾の送り迎えをしてくれて、塾から帰ればお風呂が沸いていて、お風呂から出ればつきっきりで学校や塾の宿題を手伝ってくれて……。

そんな生活では、一人前になれません。必要なものが労せずして提供されてばかりでは、何かを求める心=物事への関心も生まれません。

さらに言うと、自己肯定感も育ちません。すべてが人任せだと「自分は~できる」という実感を得られないからです。

物事への関心と自己肯定感を育てるには、生活の主体になることが不可欠です。つまり、家庭の中でなんらかの「役割」を担わせることが必要なのです。

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どんなことでも構いません。「新聞を取ってくる」でもいいですし、「ゴミ出し」でも、「洗濯物を畳む」でもいいでしょう。

一度決めた役割は、必ず子供にさせること。さぼったときも、親が代わりにしてあげるのは厳禁です。ゴミが溜まろうが洗濯物が溜まろうが、ここは我慢のしどころ。目も当てられない状態になったとき、子供は必ず「自分がやらなければ、家庭が回らない」と認識します。

自分の役割を果たさなくては、家族が困る。疲れていても面倒でも、これだけは自分が責任を持ってやらなければ――と知ることで、子供は自己コントロール力を備えます。

それだけではありません。役割を果たして感謝されることの喜びや、慣れるに従って段取りや作業が上手くなっていく達成感も味わいます。小さな社会の一員として役立っていることへの、誇りも得られます。

その自信と自己肯定感は、子供の「一生モノ」の宝となるでしょう。

成田奈緒子

成田奈緒子

小児科医・医学博士・公認心理師。子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表。文教大学教育学部教授。1987年に神戸大学医学部を卒業後、米国ワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春新書インテリジェンス)、『高学歴親という病』(講談社+α新書)などがある。

関連書籍

子育てを変えれば脳が変わる(PHP研究所)

子どもの脳の発達を長年研究してきた著者は、今「健康な発達を阻害する子育て」が増えていると警告する。

幼い頃からたくさん習い事をさせる、親が帰宅する深夜まで寝かせない……。 しかし、子どもを健康に育てるために必要なことはただ一つ、「脳が育つ順番に沿った子育て」だと語る。

本書ではそんな「脳育て」の方法を丁寧に解説。読めばたちまち、子育てがラクになる!