子どもの脳の発達に影響をあたえる「幼少期の3つの体験」

瀧靖之
2024.02.13 16:51 2024.03.07 11:50

真剣な表情の女の子

子どもにとって本当に必要な「考える力」とは、どんな力でしょうか。それは、ただ単にテストで高い点をとる力ではなく、「勉強しなさい!」などと言われなくても、自分から進んで学んでいく力ではないでしょうか。脳科学者の瀧靖之さんが解説します。

※本稿は『PHPのびのび子育て』2020年12月号から一部抜粋・編集したものです。

「考える力」を育てるカギは、好奇心

砂遊びする子ども

「考える力」と聞いて、具体的にはどんな力を想像しますか?

いずれ小学校に上がったとき、「テストの問題を解く力」も必要になってくるとは思います。しかし、それ以前に、「ものごとを自分で判断し、自分で学んでいく力」を身につけるほうが先決であり、それこそが、幼児期の子どもにとって最も大事な「考える力」なのではないでしょうか。

自分で考えて学べる子は、かしこくて発想も豊かです。素直で努力家で、親が「勉強しなさい!」などと口うるさく言わずとも、どんどん自分から進んで学んでいく力が備わっています。

そして、そういった力を生み出すのは、もちろん「脳」であり、脳医学から導き出した、子どもの「考える力」を育てるためのカギは、ずばり「好奇心」です。

「知ることが楽しくてしょうがない!」という状態になった子は、勉強を勉強とすら思わず、知識をどんどん吸収していきます。

ほとんどの子どもは、生まれながらにして好奇心をもっていますが、残念ながら、子どもの好奇心を生かしきれていない家庭も少なくないようです。

そこで今回、好奇心たっぷりの脳を育てるために提案したいのは、「図鑑を与える」「体験させる」「楽器に触れさせる」という3つのアプローチです。

「考える力」を育てるアプローチ

本を読む男の子

【その1】図鑑を与える
幼児期のプレゼントは図鑑で決まりです。図鑑は脳の言語野だけでなく、図形や空間を認識できる領域を同時に活性化します。脳のしくみを考えると、できれば3〜4歳ぐらいまでに図鑑を用意してあげたいところです。

子どもが好き嫌いを判断する前から、そっと身近に置いておくのがポイントです。図鑑が身近にあるだけで、自然と「文字」への興味が生まれますし、子どもが「なぜ?」と聞いてきたときに親子で調べるようにすることで、コミュニケーション・ツールにもなります。

幼児期から、ことあるごとに図鑑を開くようにしておくと、小学校へ進学したときに勉強をすらすらと理解できるので、「勉強が得意」「学校が好き」という気持ちを育むことにもつながります。

子どもが図鑑に興味を示さない場合は、親が楽しそうに読んでいる姿を見せましょう。子どもは親のことをよく見ていますから、親が楽しんで読んでいると、必ず横からのぞいて読み始めます。

子どもがまだ読めなかったり難しかったりするところは、親がかみ砕いて説明しましょう。

畑の中の親子
【その2】体験させる
図鑑でアゲハチョウを見つけたら、虫取り網を持って公園に探しに行く。公園でモンシロチョウを見つけたら、図鑑でモンシロチョウを探す。電車が好きな子なら、カメラを持って電車を撮りに行く。お花が好きなら、虫メガネを持って観察に行く……など、必要な道具を与えて、親子で実物に触れましょう。

最初はお母さんやお父さんに、「これは何?」「どうして?」と聞いてくるかもしれませんが、根気よく一緒に図鑑を開きましょう。やがて自分で調べるようになり、自ら学びを深めていきます。そのとき、本人は「努力して勉強している」とは思わないでしょう。

昆虫やお花などに限らず、たとえばクルマ好きのお父さんならモーターショーに連れていってもいいですし、家族旅行をする前に、行き先の歴史や文化について、子どもに説明できるようにしてから出かけるのもいいですね。

バーチャルの知識(図鑑など)とリアルな体験が結びつくと、子どものワクワクは大きくなり、「知ること」に喜びや楽しさを感じます。それが刺激となって、脳に大きな成長をもたらすのです。

鍵盤を弾く子ども
【その3】楽器に触れさせる
脳の発達からすると、年齢ごとに適した習い事がありますが、3〜4歳前後で最初の習い事をするとしたら、ピアノをはじめとする楽器がおすすめです。音をつかさどる脳の領域と、言語をつかさどる領域は、ほぼ重なっています。

言葉が特によく発達する3〜4歳前後に楽器を演奏することで、言葉の領域にもよい刺激がいくと考えられます。

男の子の場合、女の子に比べて言葉に興味が湧くのが遅いことが多いですが、楽器を習わせておくことで、脳に言葉を受け入れる準備ができるのです。

音楽は、将来的に外国語を習得したいときにも役に立つと、私は考えています。外国語特有の音を聞きとる「耳の力」は幼い頃の音楽教育によって、その基礎が身につくと考えられるからです。

音楽のいいところは、好奇心が長続きしやすいところです。楽器そのものへの興味のみならず、歴史、文化……と、音楽を通じてあらゆる方向へ知的好奇心が広がるので、飽きることがないのです。

音楽は、好奇心と人生を、生涯を通じて豊かに広げてくれます。その第一歩は、幼い頃に始めたピアノかもしれません。

この世界はゲームよりも楽しい!

新幹線に乗る子ども

脳の中の海馬と呼ばれる領域の細胞は、体を動かすことで増えることがわかっていますが、近年は家でゲームばかりしている子が増えているようです。一生で一番脳が発達する幼児期に、ゲームにばかり時間を費やすのは、本当にもったいないことです。

もちろんゲームが楽しいのもわかりますが、そこには大きな問題があります。それは、「楽しすぎる」ということです。

ゲームにハマってしまった子どもをゲームから引き離す方法はただ1つ。「世の中にはゲームよりも面白いことがたくさんあるという実感」を、子どもにもたせてあげるしかありません。

親としては、どんなに嫌がられても、めげずに旅行やスポーツ、近くの野山などに連れ出したり、一緒に楽器を演奏したり、音楽を聞いたりしましょう。

私自身も、暇さえあれば息子を野山に連れ出しています。当時3歳だった息子が野に咲く花を指さして、「ヒメジョオンだ!」と言ったときは感動したものです。まさに「自然は最大の教師なり」ですね。

子どもの好奇心を育てるためには、親にはある程度の努力が求められますが、必ず、かけた手間と労力以上の「子どもの成長」となって返ってきます。まずは、できることから始めてみましょう。

瀧靖之

瀧靖之

東北大学大学院医学系研究科博士課程修了。東北大学加齢医学研究所臨床加齢医学研究分野教授。東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターセンター長。脳のMRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達、加齢のメカニズムを明らかにする研究者として活躍中。1児の父。著書に、『「賢い子」は図鑑で育てる』(講談社)などがある。