イギリスは本を読む子が多い? ブルーナの絵本翻訳者に聞いた「海外の読書事情」

中野百合子
2024.03.25 10:47 2024.04.12 11:50

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石井桃子さん、松岡享子さんに続き、ディック・ブルーナさんの絵本翻訳を担当された中野百合子さん。 実は現在、イギリスの図書館に勤務をされています。

日本、そしてイギリスにて子どもの本にかかわるお仕事をされてきた中野さんに、ご自身が好きな児童書、イギリスの子ども達の読書事情など、幅広くお話をうかがいました。

好きな本をじっくり読むのが好き

――幼少の頃から本を読むことがお好きでしたか?

母も本が好きだったので、幸せなことに、家には沢山の本がありました。また家の近くの公園にくる移動図書館に連れて行ってもらって本を借りたり、本がいつも身近にある中で育ち、自然に本が好きになりました。

中学生の頃などあまり読まなかった時期もあったと思いますが、高校生になってからはまた、家にあった日本文学全集や海外の古典文学などを読むようになり、読書の幅が広がりました。

とはいえ、乱読するタイプではなく、自分が好きな本をじっくり読むのが好きです。

――ご自身の人生の中で特に印象深い児童書がありましたら教えて下さい。

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小さい頃、姉と一緒に楽しんだ「とこちゃんはどこ」(松岡 享子作/加古里子絵 福音館書店)、「せんたくかあちゃん」(さとう わきこ作・絵 福音館書店)などは何回読んでも面白くて、ワクワクした気持ちを今でも覚えています。

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大人になってから何度も読み返している大好きな児童書は『やぎと少年』(I.B.シンガー作/工藤幸雄訳/モーリス・センダック絵 岩波書店)です。毎年冬がくると読み返し、読む度にいい話だなあと思います。

また、『たのしい川べ』(ケネス・グレーアム著/石井桃子訳/E.H.シェパード絵 岩波書店)も好きです。イギリスに来たばかりの頃、オックスフォードの近くでテムズ川沿いを散歩していた時、目の前に広がる景色を見てふと、ここはネズミとモグラがボートに乗っていた場所に違いないと確信しました。そうしたら、少し行ったところに本当に、著者のケネス・グレーアムが住んでいたという家を見つけてびっくりしたということがありました。

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最近読んだものでは、『ベルリン三部作』(クラウス・コルドン作/酒寄進一訳 岩波書店)がとても印象に残っています。『イシ:二つの世界に生きたインディアンの物語』(シオドーラ・クローバー作/中野好夫訳/中村妙子訳/ルース・ロビンズ絵 岩波書店)も忘れられません。

子どもと本をつなぐ仕事を、一生の仕事としたい

図書館

――小学校図書館にご勤務経験があり、現在国際児童文庫協会の運営委員をされているとのことでしたが、子どもの本にかかわる仕事への関心はいつ頃からありましたか?

小さい頃から本が好きだったので、大人の本にも子どもの本にも常に興味はありましたが、仕事として意識したのは、大学卒業後、嘱託職員として調布市立図書館で働き始めてからです。働くうちに、図書館は利用する市民によって支えられているのだということ、また日常的に読書をし、図書館を支える大人を育てるためには、子どもへのサービスがとても大切なのだと気がつきました。

そこで子どもの読書に関する本や、児童室にある子どもの本を読んだりしていた時、幸運にも東京子ども図書館の第二期の研修生となることができました。東京子ども図書館には、長年にわたり専門的な目で選ばれ築かれた確かな蔵書があり、それらの本を、図書館にくる子どもたちや、図書館の先輩や仲間たちと一緒に読んでいく中で、沢山の素晴らしい児童書に出会いました。この頃から子どもと本をつなぐ仕事を、一生の仕事としたいと思うようになりました。

図書館の閉鎖が続くイギリスで思うこと

ロンドンの街角ホルボーン

――イギリスには児童書の名作が多い印象があります。イギリスの子ども達は日本の子どもよりも本をよく読みますか?

日本の子どもたちと比べてどうかというのは分かりませんが、基本的にイギリス人はよく本を読む人たちだと思います。

現在、イギリスの公共図書館に勤務しているのですが、児童室では、様々な読書推進活動を行っています。小さい人に向けては、週に3回わらべうたの会があり、常に親子で賑わっています。

また、小学生を対象に、ボランティアの大人が一対一で読み聞かせをすることで、読書が苦手な子どもたちのサポートをするというサービスもあります。

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夏には、リーディング・エージェンシーという読書推進機関が企画する「サマー・リーディング・チャレンジ」もあります。イギリス中の公共図書館がパッケージとして購入し、夏休み中の子どもたちは近くの図書館を通してチャレンジに参加することができます。子どもたちは、一冊読むごとに図書館のスタッフと読んだ本に関する話をして、シールや鉛筆をもらいます。チャレンジを終了すると、修了式に参加して賞状とメダルを受け取れるので、毎年沢山の子どもたちが参加して楽しんでいます。

けれども、イギリスでは緊縮財政で予算が十分に得られない図書館の閉鎖が続き、また、コロナ禍等による生活費高騰により、家に本が一冊もないという家庭が増えているという調査もあり、現在、こういった環境による子どもの読書力低下が問題になっています。

よい本と、習慣的に本に親しめる環境が身近にあれば、日本でもイギリスでも同じように、ほとんどの子どもはお話を聞いたり本を読んだりすることが好きだと思います。子どもたちの読書を、社会全体で支えていくことが大切だと思います。

中野百合子

玉川大学文学部外国語学科ドイツ語専攻卒業。英国シェフィールド大学大学院にて図書館学修士課程修了。2003年度の(公財)東京子ども図書館・第二期研修生を経て、都内の小学校図書館、公共図書館に勤務。2011年よりイギリス在住。ロンドン市内の公共図書館に勤務。

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