外出はできる・学校は行けない…不登校児の心を理解するのに役立つ「認知行動療法」

松丸未来
2024.05.01 10:28 2024.05.13 11:50

落ち込む女子中学生

不登校児の数が過去最多と言われています。学校へ行けない子の心の中では、一体何が起こっているのでしょうか。
心の不調の正体を知るのに役立つ「認知行動療法」について解説します。


※本稿は、 松丸未来監修 『思春期の心理を知ろう!』(PHP研究所)から一部抜粋・編集したものです。

知らないうちに積み重なる「心の不調」

起きられない中学生

のどが痛くて、熱っぽいと感じたらどうしますか?

身体の不調を感じたら、熱を測ったりうがいをしたりして、その日はゆっくりと過ごすでしょう。

しかし、私たちは、不安や落ち込み、怒りといった「心の不調」には、うまく対処できません。令和4年度の小中学校の不登校児童生徒数は29万9048人で過去最多を記録しました(前年度は24万4940人)。小学校では約59人に1人、中学校では約17人に1人の割合です。不登校の一番の理由は「不安・無気力」で、全体の51.8%をしめています。

私たちは、知らず知らずのうちに心の不調を積み重ねて、身体が言うことを聞かなくなるまで、がまんすることがあります。自分のやりたいこと、すべきことをするには、身体の健康と同じくらい心の健康も大事です。そのためには、心のはたらきを理解することが必要です。

不登校児の心の中で起こっている事

思春期のイメージ

Aさんは、教室に入るのが苦手です。お店や街中は平気で歩けるのに「知っている人がいる教室」にはこわくて入れないと言います。その理由は「自分はみんなとちがうから。変だと思われているから」。「知っている人」がいる教室と「知らない人」だらけのお店や街中で、Aさんの考えは変わります。

このようなAさんの心を理解するには、「認知行動療法」のやり方が役に立ちます。認知行動療法では、ある出来事に対して、認知(考え)、感情(気持ち)、身体、行動がどのように反応するかを客観的に見ます。認知行動療法の視点でAさんを見ると、「知っている人」がいる教室に入る前は「自分は変だと思われている」という考えをもち、教室に入ると「恐怖」や「不安」の気持ちから「力が入った」身体になり、教室に入ることを「避ける」という行動を起こします。その結果、教室に入らなかったAさんはホッとして、心の安定を保つことができます。

心の不調は早めの対処が大切

学校の教室

Aさんのこの行動は、1つの対処法としては有効です。ただし、Aさんがこれを毎日、何年も続けると、やがてやりたいこと、すべきことができなくなり、自分を否定したり、強い不安感や大きな落ち込みを感じたりするようになります。身体の不調と同じく、心の不調も、それに気づいたら、早めに対処することが大事なのです。

Aさんの「自分が変だと思われている」という考えは、思い込みにすぎないかもしれません。実際は、Aさんにやさしく接し、Aさんを気にかける友達がいて、Aさんをほめる先生がいるかもしれません。このように、視野を広げて物事を見ると、気持ちがおだやかになったり、満たされたりします。そして、やりがいや楽しい側面に目が向くようになり、できなかったことができるようになります。

悩むことは、自分の視野を広げるよいチャンスです。心の不調に早めに気づき、考えを柔軟にし、視野を広げ、勇気を出して行動に移してください。

松丸未来

1975年、東京都生まれ。臨床心理士、公認心理師。スクールカウンセラー。20年以上にわたり子どもの心のケアに力を注ぐ、子どもの認知行動療法の専門家。1998年、英国レディング大学心理学部卒業。2001年、上智大学大学院文学研究科心理学専攻修了。産業分野でのメンタルヘルスケア、東京大学大学院教育学研究科附属心理相談室臨床相談員を経て、小学校・中学校・日本人学校のスクールカウンセラー、東京認知行動療法センター心理士を兼務。ウクライナ避難者の心理支援活動も行う。著書・監修書・完訳書に『よくわかる 学校で役立つ子どもの認知行動療法』(遠見書房)、『子ども認知行動療法 怒り・イライラを自分でコントロールする!』『子ども認知行動療法 不安・心配にさよならしよう!』『子どもの自己肯定感を育てる100のレッスン』(以上、ナツメ社)、『子どものための認知行動療法ワークブック』『若者のための認知行動療法ワークブック』(以上、金剛出版)などがある。

思春期の心理を知ろう! 心の不調の原因と自分でできる対処法

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自意識や同調圧力が高まる思春期では、考え方(認知)のくせから不安、落ちこみ、イライラ、怒りなどの心の不調が生じ、つらい気持ちになることがよくあります。本書では、認知と行動が感情につながっていると考え、認知や行動を変えることで心の不調を治す認知行動療法の考え方と、自分でできる実践法を紹介します。