なぜ従順で真面目な子が不登校に?子どもを追い詰める「放課後も塾通い」のストレス

原田直樹,森山誉恵
2024.03.07 09:50 2024.03.07 11:30

落ち込む女子中学生

不登校の児童数は年々増加し続けています。文部科学省の発表では、令和4年度の小中学校における不登校児童生徒数は過去最多の29万9000人に達しました。不登校はもはやだれにとっても他人事ではない問題です。

今回は、2月21日に開催された認定NPO法人3keys(スリーキーズ)主催の第25回 Child Issue Seminar「不登校追跡調査から見えたもの~その時に子どもたちは何を思ったのか」において、社会福祉士・研究者として不登校支援に携わる福岡県立大学の原田直樹さん、そして3keys代表理事の森山誉恵さんがお話された「10代向け支援サービス検索・相談サイト「Mex(ミークス)」に寄せられた子どもたちの悩み」についてご紹介します。

従順で真面目な子が不登校になるキッカケ

落ち込む男子高生

【Mex(ミークス)に寄せられた悩み1】
いろいろ考えて夜に眠れなくなり、朝も起きれないという悪循環が続いています。そのせいで、ネットで動画を見たりゲームをしたりと、現実逃避してしまう時間が増えました。

【Mex(ミークス)に寄せられた悩み2】
あまり自分の人生に興味がなく、何かの事故で死なないかなとか、病気にならないかなと考えてしまいます。親には自分の進路を勝手に決められ、塾に行かされます。

【森山】こちらの悩みには色々な思いが凝縮されていると思います。子どもの権利条約では、遊ぶ権利、表現の自由、集会の自由も定められていますが、日本の子どもたちは放課後や学校外では基本的に塾に行っていて、自分を表現したり集まることはなかなか保証されていないんじゃないかと思います。放課後の在り方がどのように不登校に関係しているのか、という切り口で取り上げさせていただきたいです。

【原田】学校に行けたり、行けなかったりしてる子たちや、勉強についていけない子どもには、45分間の授業を息を止めて水の中で過ごしているようだと言った子がいます。そんな子たちにとっての放課後は、つかの間のほっとできる時間であったりします。あるいは学校に行けない子どもにとっても「もう今は学校はやってないんだ」と思うと安心できる時間だったりもする。

そんな時間に元気よく過ごしていると、「そんなに元気だったら学校行けばいいんじゃないか」と言われてしまうことがあります。でも、こんなしんどい言葉はないですよね。元気だから遊んでるというより、”やっと元気になれる時間”になったから遊んでるんです。

ただ、いまの子どもたちは放課後も非常に忙しいです。親の期待に沿うように、勉強も習い事も頑張って、でもある日そこに限界を感じてしまったり、「私はもうこの道は無理だな」と思ったときに心がぽきっと折れて、学校にも行けなくなってしまう。真面目な子どもが不登校になってしまうケースも、実は少なくありません。

【森山】放課後も土日も勉強して、大人でいうと残業に休日出勤で過労死ラインで働いているような状況で、いつ遊んだり休んだり、子どもらしい時間を過ごすのか。こういった状況が子どもたちの「学校に行きたくない」という思いに繋がっているのかなと思いました。

ゲームは超A級の依存物質

スマホをいじる男性

【森山】「ゲームや睡眠不足」と「不登校」はよく関連付けられている印象があります。不登校の子どもがゲームをすることはそのままにしていいのでしょうか?

【原田】本当にすることがなくて暇だから、ゲームするしかないっていう不登校の子どもさんは結構いるんです。ですが、オンラインゲームでは、ゲーム内のメンバーには、「僕が助けてあげるよ!」とすごく雄弁に語ったりするんですよ。そういった体験の場になっていたり、ネットで繋がっている人とコミュニケーションが取れたりというプラスの側面もあるにはあるんです。

ただ、依存症の専門の医師によれば、「ゲームは子どもにとって超A級の依存物質」と言われます。また、「毎日1時間以上ゲームをしていると、いくら勉強しても成績は下がる」という研究データもあります。

やはり大事になってくるのは、使い方。特に時間という軸を一つ大事にした使い方が重要ではないかと思います。「おとなしくなるから、一日中ゲームしといていい」というのは、ある種、虐待と同じです。なので、きちんと子どもが管理ができるように、親と一緒に調整をしていくべきだと思います。

不登校の子どもたちにとって「朝」はつらい時間

悩みを抱える女の子

【原田】また、睡眠に関しては、特に不登校の子どもは朝起きれない子が多いですね。夜遅くまで動画を見ていて、夜ふかしをして、だから朝起きれないっていう事がよくあります。

ですが、朝の時間は不登校の子どもたちにとってはものすごくしんどい時間。寝不足というだけではなく、学校に行く・行かないを毎日突きつけられる非常にしんどい時間なんです。その時に「僕は夜ふかししたから眠たいんだよ」と理由を付けられると、少し気持ちが楽になりますよね。

ですから「そんなに夜ふかしするんだったら、1日徹夜で起きて!」なんていう乱暴な話を聞くことがありますが、そんな問題では決してないと私は思います。ネットやゲームをしていたから夜ふかしして、朝起きれないという単純な問題ではないんです。ただ、少なからず、起立性調節障害で本当に朝起きられないということも増えてはいます。

【森山】子どもにとって、ゲームや動画が唯一の休む時間になっているのに、それも奪ってしまうと子どもたちをさらに追い詰めてしまう。一方で親や教員が管理するのもしんどい、というのが今の日本の現状なのかなと思っていますし、もっと教員と親任せにせずにやっていけるといいなと感じます。


原田直樹

原田直樹

福岡県生まれ。福岡県立大学看護学部准教授。社会福祉士・精神保健福祉士として、障がい児者支援や不登校支援の現場を経て現職。同大学社会貢献・ボランティア支援センター長、不登校・ひきこもりサポートセンター教員スタッフを務める。専門は、学校保健福祉、不登校、子育て支援など。

森山誉恵

森山誉恵

全国子どもの貧困・教育支援団体協議会理事。慶應義塾大学法学部卒。在学中、大学生を中心とした学生団体3keysを設立。2011年5月にNPO法人化し、代表理事に就任。現在は現場の支援に加え、現場から見える格差や貧困の現状の発信にも力を入れている。

X:@3keys_takae