幼児教育で「読み書き」が重要な理由とは? 小学校入学前からできる勉強のポイント
小学校入学前の子どもには、何から教えれば良いのでしょうか? 和田秀樹さんは、まず「字」に興味を持たせることが重要だと語ります。本稿では幼児期の勉強で大切なポイントをご紹介します。
※本稿は和田秀樹著『勉強できる子が家でしていること』(PHP研究所刊)より一部抜粋・編集したものです
小学校入学前に「字」に対する興味を持たせる
「我が家では子どもが小さいころからこんなことを教えています」という方針があり、しっかり幼児教育をやっている場合には、あえてそれを変える必要はありません。その方針をきちんと実行することが重要です。
ただ、もし現在「何を教えていいのかわからない」と悩んでいるのでしたら、まずは「字」を教えてください。文字というのは、大人の感覚からすると、簡単そうに見え、読めて当たり前のように思えますが、小さな子どもにとっては字を覚えるというのは、とても根気のいる作業です。
数字の場合でしたら、1から10まで覚えるだけですみますし、算数の計算にはゲーム性がありますから、わりと退屈しないでできます。「2足す3は5」という計算も、指を数えていくことで結果は出てきます。
計算が合っていたら、「あ、当たった」とか、「できるようになった。すごいすごい」と褒めてあげれば、子どもは楽しみながらやることができます。一見、難しそうに見えるのですが、わりあい感覚的に覚えていくことが可能なのが数字なのです。
それに対して、「字」の場合は、その数だけでもとてもたくさんあります。字という概念を持っていない幼児にとって、これを覚えていくというのはとても難しいことなのです。それだけに、子どもにとって字が読めるようになるということは、非常に達成感のある経験ともいえます。子どもにとって、ものすごく大きな最初のステップなのです。
精神分析的な発達理論においては、たとえばフロイトは「オマルにウンチができるようになるということが、最初の自律の達成経験だ」ということを言っています。それまでは一方的に与えられるばかりの存在だったのが、トイレットトレーニングによって初めて自律的なことができたということで、そのうれしさを子どもが感じるというのです。
心理学の世界にはいろいろな説がありますので、必ずしもフロイトの説だけが認められているというわけではありませんが、私が見ても、子どもが何かをできるようになったと感じる自律の経験はとても重要だと思います。
その中でも、「自分で字が読めるようになった」ということは、非常に重要な意味を持っていると考えられます。字が読めるようになると、子どもは「ある種の魔法」を手に入れたような感覚を持つようです。
文字を覚えさせるには名前から始めるのがよい
文字を教えるときには、五十音全部の字を見せて、一つずつ読んで聞かせるなどの方法がありますが、最初は、自分の名前から教えてあげるのがよいと思います。たとえば、「わだまゆこ」と声に出しながら、何度も字を見せているうちに、これが「わ」で、これが「だ」だということが少しずつわかってくるようになります。
その次に、「じゃあ、おねえちゃんの名前は?」というように、変化を持たせていくと、「わだみきこ」というのが、こういう字だということを少しずつ理解できるようになってきます。
そのうちに、「わだ」は同じ音だから、「ああそうか、これが”わ” 、これが”だ”だな」ということがわかり、さらに、「まゆこ」の「こ」と「みきこ」の「こ」が同じだということも何となくわかっていくのです。
あとは順番に「ひでき」とか「ゆきこ」というように、父親や母親の名前を覚えさせるというのが一番スムーズにいく方法ではないかと思います。
絵本を読み聞かせる
名前が読めるようになってきたら、絵本を見せながら、読んであげるようにすると、だんだんと字を覚えていくようになります。この段階では、全部ひらがなで書かれている短い物語の絵本をたくさん読んであげるといいでしょう。
実は、子どもというのはものすごく記憶力がよく、短い物語であれば、すぐに覚えてしまいます。字よりも先に、物語自体を覚えてしまうのです。子どもの記憶システムというのは、字が読めるから物語を覚えるのではなく、物語を覚えた後に、字と音を一致させていくようになっていくものです。
最初は親がゆっくりと読みながら聞かせてあげます。何回か聞かせてあげたら、「じゃあ、自分で読んでみようか」と言って、読ませてみます。読めなかったら、また親が読んで聞かせてあげます。そうしていると、不思議なことに子どもたちは物語のほうをどんどん覚えていくのです。そして、さかのぼるようにして、字と音を一致させていくことになります。
小学校入学前の子どもにとって大切なことは、文字の数は、1つでも、2つでもいいですから、「自分で字が読めた」という感覚を持つことです。文字に対する興味さえ持ってくれれば、それで十分。字を読めるようになりたいという欲求は、ほとんどの子どもが持っているはずですから、興味さえわけば、自然と身についていくようになります。
読めるようになってから書けるようにさせる
どのくらいの時期から絵本を読んであげるのがよいかということですが、2歳くらいである程度言葉が話せるようになって、テレビで幼児番組などを見るようになってきたら、テレビと並行して絵本を読んで聞かせてあげるというのがよいのではないかと思います。
絵本の読み聞かせというのは、子どもの教育にとっても、親との関係づくりにとっても非常によいことですから、たくさん絵本を読んであげてください。
自分で読めるようになると、興味を持っていろいろなものを読むことにチャレンジするようになります。少しくらい漢字が交じっていても、「これって、何て読むの?」と聞いてきたりしながら、字を読むことを身につけていきます。
字を書けるようになることも重要なことですが、読めるようになってくると、たいていの子どもはだんだんと書けるようになっていきますので、書くことに関しては、この段階ではそれほど心配しなくてもよいでしょう。むしろ、書くことを早く覚えさせようとあせってしまうほうがよくないと思います。
「読み書き」といわれるように、まずは「読むこと」を先にして、次第に「書くこと」へとチャレンジさせていくのがよいのです。
幼児期の勉強では叱らない
本来、「叱る」ということは、大切なことなのですが、まず先に子どもが「親から愛されている」という実感を十分に持っていないと、叱ることが本当の効果を発揮しません。あまりにも叱られてばかりいますと、「親は自分のことが好きじゃないから叱っているんだ」というように思われてしまうこともあります。
もちろん、人間としてやってはいけないことに対して叱る場合には、愛情が先とはいっていられませんから、すぐに叱ってもかまいませんが、勉強に関するかぎりは、あくまでも叱ることより愛情を優先すべきです。
親というのは、幼児にとっては圧倒的に強い立場にあります。その圧倒的に強い立場の人から、ものすごく怖い怒り方をされるということを、子どもの立場になって想像してみてください。それはもう、叱られているというよりも、ビクッとするほど怖いことをされていると感じるのではないでしょうか。
幼児期の勉強に関していえば、叱ることはできるかぎり我慢するというくらいのほうがちょうどいいのです。本来子どもというのは、叱られるよりも、褒められるほうが伸びるものです。叱ることを極力我慢して、どんどん褒めてあげてください。
『勉強できる子が家でしていること 12歳までの家庭教育マニュアル』(和田秀樹 著、PHP研究所刊)
著者は学生時代、「勉強は素質だ」とあきらめていたところ、勉強法を変えることで成績が伸びて、東京大学に合格した経験があります。「子どもに合わない勉強法で劣等感を持たせるよりも、子どもに合ったやり方を見出して勉強をさせれば必ず伸びる」というのが、著者の強い信念です。それができるのは、家庭の働きかけがあってこそ。
中学受験する子も、しない子も! 子どもにとって“最後の砦”といえる、家庭で心得ておきたい「令和版・和田式勉強法」をお届けします。