タンパク質とビタミンだけじゃない! 医師が伝えたい「成長期の子に欠かせない5大栄養素」
子どもの成長のために、本当に必要な栄養とはどんなものなのでしょうか? 栄養素が必要とされる正確な理由や、子どもに必要な栄養素が変わります。
本記事では、栄養が子どものからだにどうはたらきかけているのか、成長に欠かせない栄養素とは何か、食事の摂り方や気をつけるべきことについて、梶の木内科医院院長の梶尚志先生の著書『え、うちの子って、栄養失調だったの?』より紹介します
※本記事は梶尚志著『え、うちの子って、栄養失調だったの?』(みらいパブリッシング刊)より一部抜粋・編集したものです
人間のからだは栄養素でできている
あなたのからだは、何からできているかご存知ですか? 私たちのからだは約37兆個の細胞でできています。細胞は、タンパク質や脂質などを材料に造られており、そのタンパク質と脂質は、私たちが食事から摂り入れた栄養素で造られます。
つまり、私たちのからだは栄養素からできているので、栄養素が大事というよりむしろ、栄養素は私たちのからだの材料そのものです。
成長途上の子どもこそ、栄養素が必要!
子どものからだは成長途上にて維持していくだけでなく、ぐんぐん成長しようとしています。よって、大人よりも多くのエネルギーや栄養素が必要です。栄養素が十分でなければ、からだは少ない栄養素でなんとかやりくりしなくてはなりません。
すると、からだのあちこちでエネルギー不足が起き、いろいろなからだの不調となって現れてくるのです。
身体以外にも栄養を必要としている組織あります。それは「脳」です。脳は他の組織よりもたくさんの栄養素を必要としており、からだ全体の約25%の栄養素を消費するといわれています。脳が司るのは学力だけではありません。
子どもの心や感情、やる気といった、生きるうえで大事な力も、脳のはたらきが大きく影響しています。子どもが本来の知能を発揮して、健康なからだで毎日を過ごしていくためには、しっかりと栄養素を摂ることが本当に大切です。
【成長期】と言われる9歳〜14歳の時期は、特に栄養不足に注意!
小学校後半から中学校の時期(9歳〜14歳)は、【成長期】と言われ、からだを形成する上で重要な時期です。特に小学生から中学生に進級する時期は心とからだの急激な成長による変化に伴い多くの栄養素が不足しがちになります。
では、具体的にどんな変化で、どんな栄養素が不足しているのか説明して行きましょう。
成長による体の変化と不足しがちな栄養素【女児の場合】
一般的に9歳〜14歳頃が成長期と言われています。個人差はありますが11歳ごろ身長の伸びのピークを迎え、早い子で10歳頃から、通常だと12歳から14歳頃を目安に初潮を迎えます。女性ホルモンの影響でからだ全体が丸みを帯び女性らしい体型になるのが特徴です。
9歳から12歳ごろは身長が伸びるために必要な骨や筋肉、そして脳を作るための材料、タンパク質、ビタミンB群、ビタミンD、鉄をしっかり摂取して欲しいです。さらに、初潮を迎える12歳後半頃からは鉄の喪失が著しいため、鉄の補充が最も重要となります。
また、主食や間食による糖質過多に注意してください。糖質過多になると正常な脳の発達に重要なメンタルホルモンの調整役であるビタミンBを大量に消費し不足させます。すると、メンタルホルモンがバランスを崩し精神的な不調を引き起こす要因となります。甘いお菓子やジュースの取りすぎに注意しましょう。
成長による体の変化と不足しがちな栄養素【男児の場合】
女児よりもやや遅めの10歳から14歳の間に成長期を迎えます。変化が始まる時期や変化のスピードには個人差が見られ、一般的には12歳ごろから急激に身長が伸び始め、筋肉量の増加が顕著で、たくましく男性らしい体格に変化するのが特徴です。
9歳から成長期の間はずっと、脳の正常な発達にビタミンDの摂取は欠かせません。ビタミンD不足により頭痛や起立性調節障害、朝起きられないなどの症状が出ることがあります。(※1)(※2)
さらに、12歳〜14歳では急速に身長が伸びること、筋力量が増え体格が大きくなることから、骨や筋肉を作る材料のタンパク質、鉄、ビタミンBが不足しがちです。十分補充して欲しい栄養素です。特に鉄不足が、男児の慢性の頭痛の原因となっていることが多いです。
(※1)Vitamin D Supplementation Improves Autonomic Response To Head Up Tilt In Adolescents Suffering From Orthostatic Intolerance
Hypertension. 2020;76:AP198
(※2)The Vitamin D Role in Preventing Primary Headache in Adult and Pediatric Population
J. Clin. Med. 2021, 10(24), 5983
また、男児、女児ともに成長期は脳の発達が目覚ましい時期でもあります。脳の発達に重要な栄養素、タンパク質、脂質、鉄、DHA、ミネラルの補充も意識的に行うと良いでしょう。
食事による栄養の摂取方法と気をつけるべき食習慣
朝食は主食に偏らないようタンパク質と鉄分摂取を気に掛けたメニューを。ポイントは、タンパク質を少なくとも2品摂取しましょう。特に動物性タンパク質の摂取を心がけてみてください。洋食の場合、卵料理+トーストにチーズをのせるだけでもOK。
糖質過多によるビタミンB群の消費を抑えるため甘い飲物は避けて、お菓子を控える。
糖質オフのお菓子を活用するのも良いでしょう。
お腹が弱いお子さんは腸内細菌叢を整えるため、乳製品を控えてみるのも手です。
乳製品の中にガゼインというタンパク質が多く含まれています。このガゼインは消化されにくく、腸管粘膜を傷つけ炎症を起こします。炎症を起こした腸の粘膜から有害な科学物質や毒素が体内に侵入することでアレルギーや体調の不調を招くことがあるため豆乳などの植物性の食品に代替えするとよいでしょう。
メンタルの興奮を抑えるためカフェインを含む飲料を控えましょう。
押さえたい5つのキホン栄養素【1】 からだそのものを造る栄養素「タンパク質」
内臓や 血液、骨や筋肉といった、人間を形づくるあらゆる組織がタンパク質から造られています。また、からだを動かすエネルギーになる栄養素の一つです。不足すれば造り出せるエネルギーは減少、体力がなくなり、疲れやすく、やる気が出ないという状態を招くこともあります。
その他、からだの各所に、「もっとはたらいて!」とか、「今は休んでいいよ」などの指令を出し、からだの様々なはたらきを調整するホルモンの材料となります。どのホルモンも大切な役割を担っていますが、メンタルホルモンのメラトニンは、眠りと目覚めの状態を切り替え睡眠のリズムを調節する働きがあります。メラトニンが少なくなると睡眠のリズムが乱れ、質の良い睡眠が取れず日中の集中力が低下したり、朝起きられない要因となります。
押さえたい5つのキホン栄養素【2】 強力な助っ人「ビタミンB群」
ビタミンB群の中で注目して欲しい栄養素にビタミンB6とナイアシン(ビタミンB3)があります。B6とナイアシン(ビタミンB3)はタッグを組んでメンタルホルモン造りをサポートします。
メンタルホルモンには、睡眠ホルモンのメラトニン、元気ホルモンのドーパミン、安定ホルモンのGABA、幸せホルモンのセロトニンがあります。これらは神経を興奮させるもの、抑えるもの、調整するものと、それぞれ役割があり、バランスを保ちはたらいています。
ビタミンB6とナイアシン(ビタミンB3)が不足しバランスを崩せば、元気ホルモン過多による落ち着きがない多動傾向や抑制のホルモン優位による、やる気がでない、うつのような状態を招く危険性もあるため十分な摂取が必要です。
その他、タンパク質、糖質、脂質をからだを動かすエネルギーへ造り変る時、スムーズに変換できるようサポートする役割も担っており、強力な助っ人栄養素だと言えます。
押さえたい5つのキホン栄養素【3】 成長を支える骨や脳に働きかける「ビタミンD」
ビタミンDには様々なはたらきがありますが、最も重要なのは骨を丈夫にすることです。腸の中でカルシウムが吸収されるのを助け、骨を造るサポートをしています。
その他、メンタルのバランスを保つのに大切な幸せホルモン(セロトニン・オキシトシン)造りをサポートすることと、腸管粘膜を強くし免疫力を高めるはたらきがあります。
アトピー性皮膚炎や花粉症は傷ついた腸管粘膜から原因となる物質が体内に入り込み抗体を造ることで症状を引き起こします。ビタミンDには腸粘膜を強くするはたらきがあるので原因物質の侵入を防ぐことができるわけです。
そもそも、ビタミンDは赤ちゃんがお腹の中にいる時や母乳を通してお母さんからもらい受ける栄養素です。また、日光浴などで紫外線を浴びることで、人間が自ら造り出すことができるビタミンでもあります。
しかし、紫外線によるダメージを気遣い日焼け止めを常用する習慣でお母さんが本来持っているビタミンDも昔よりも減っており、受け継ぐ量も減っていると考えられます。さらに、戸外で遊ぶ機会が減り日光を浴びる時間も減少傾向、自ら造り出すことも難しい状況です。食事から摂取しにくい栄養素のため天然由来型のサプリメントを活用して上手に補ってあげてください。
押さえたい5つのキホン栄養素【4】「鉄」が不足すると体が酸欠になる
鉄は、からだの隅々まで血中の酸素を運搬するヘモグロビンの材料です。鉄が不足するとヘモグロビンが十分に造られず運べる酸素の量が減るため、からだや脳で酸素不足が起こります。
小児頭痛の要因に脳内の酸欠があります。脳に十分酸素が運ばれずに酸欠状態になると、酸欠を防ごうと脳内の血管を広げて大量の酸素を送ろうとします。この血管を広げるときに起きる痛みこそが頭痛です。また、貧血の立ちくらみやめまい、息切れといった症状も、からだが酸欠状態になることで起きると考えられています。その他、骨や筋肉、脳、皮膚のコラーゲンも、鉄を材料にして造られています。
生命活動に欠かせない、からだ中に酸素を届けるはたらきのあるヘモグロビンを造ることが優先されるため皮膚造りはあと回しになってしまいます。ですから丈夫な皮膚造りのためにも、しっかり鉄を摂ることが大事です。
押さえたい5つのキホン栄養素【5】 嫌わないで!本当は大切な栄養素「糖質」
近年、「糖質制限」「糖質オフ」といった言葉が浸透し、糖質は摂ってはいけないものと考える方が少なくないかと思います。しかし、エネルギー源として、人間のからだには欠かせないものです。問題なのは、糖質そのものではなく、糖質を過剰に摂取することです。
糖質は脳内で麻薬のようにはたらき一時的に幸福感を感じさせる依存性があります。糖質の過剰摂取はジェットコースターのような血糖値の乱高下を起こし情緒不安定、キレやすい、頭がぼんやりする、頭痛やめまいの原因になります。
お菓子やジュースといった甘いものやフルーツはもちろん、パンやめん類、お米などの炭水化物も糖質です。食べ方に注意が必要です。
うちの子はどんな栄養素が足りてない? チェックシート
栄養素とからだが密接に関わっていることがお分かりいただけたかと思います。でも、お子さんごとに不足している栄養素異なります。自分のお子さんの不足栄養素をお知りになりたい方は、ぜひチェックシートを使い確認してみてください。
朝ごはんの欠食は絶対にダメ!
活動量も多く、成長期の子どもたちには朝ごはんは、とても大切です。栄養バランスを考えて、からだ造りの材料・燃料となるタンパク質は必ず食べること、糖質ばかりにならないことを意識してください。
難しく考えなくても大丈夫。例えば、お味噌汁に卵を落とす、トーストにチーズを足すといった、ちょっとした工夫いいのです。また、朝はお腹がすかないお子さんには、夜ご飯でなく朝ごはんにこそ、大好きなメニューを取り入れ、見た目の可愛らしい朝食を作るなど食べたくなる工夫をしてあげるのも一つの手です。
夏に向け、朝ごはんの欠食は熱中症を招く原因にもなります。朝からしっかり栄養補給をしたお子さんは、メンタルも安定し元気満タン。頭も体も絶好調で1日をスタートできることでしょう!
梶尚志著『え、うちの子って、栄養失調だったの? その不調は食事で改善します!』(みらいパブリッシング)
全国から相談が殺到するクリニックの院長が、実際の症例を紹介しながら、子どもに必要な栄養素、からだのしくみ、効果的な食事メソッドを紹介。漫画やイラストを多数掲載、親子で楽しく読めるやさしい栄養本です。栄養療法に詳しい管理栄養士、幼児食アドバイザー、老舗蔵元によるレシピ付き。