“石川県の英語の先生”が全米ベストセラー作家に!デビュー作に込めた「日本で学んだ教訓」

nobico編集部
2024.10.09 09:08 2024.07.29 17:00

ローズアン・A・ブラウンさん 授業の様子

この記事の画像(4枚)

ガーナ出身のアメリカ人作家ローズアン・A・ブラウンさんのファンタジー小説「ズィーラーン国伝」は、シリーズ全4巻。Ⅰ巻「神霊の血族」・Ⅱ巻「王の心臓」が、評論社から同時発売されました。

この作品は、アフリカの神話を下敷きにした壮大なファンタジーで、全米で発売早々にベストセラーとなり、ニューヨーク・タイムズ紙「ヤングアダルトハードカバー部門」で10位にランクインするなど、大きな注目を集めました。

石川県能美市でALTとして活動

ローズアン・A・ブラウンさん 授業の様子

著者のブラウンさんは、かつて石川県能美市でALT(外国語指導助手)として活動していました。ALTの仕事のかたわら小説を書き続け、今回出版された「ズィーラーン国伝」シリーズはブラウンさんのデビュー作です。

アフリカの神話を下敷きにしたまったく新しいハイファンタジーで、難民の少年・マリクと、王女・カリーナ、身分違いのふたりが出会ったことから物語が展開していきます。

ローズアン・A・ブラウンさん 授業の様子

日本語版の出版をひかえた7月、ブラウンさんは石川県川北町立川北中学校を訪問し、人権について学ぶ英語の授業に参加しました。

授業の中では、公民権運動を支えたキング牧師や、バスボイコット運動のきっかけとなったローザ・パークスなど、黒人差別撤廃のために尽力した活動家たちを紹介。黒人が歴史的に受けてきた差別と、彼らがどのように立ち向かってきたのかについて、子どもたちに分かりやすく伝えました。

さらに、ブラウンさんは「読書をすることで、自分とは異なる世界や人、文化と出会い、理解を深めることができる」と訴え、著書「ズィーラーン国伝」シリーズを紹介しながら、生徒たちに差別のない社会づくりについて考えるきっかけを作りました。

ローズアン・A・ブラウンさん 授業の様子

「ほんとうの人の強さ」を描いた物語

「ズィーラーン国伝」シリーズの担当編集者・北智津子さんにお話しをうかがいました。

――この作品の魅力は何ですか?

【北】まずは作りこまれた世界観。異世界で展開するハイファンタジーといえば、西欧の竜と剣と魔法の物語をイメージしますが、それとはまったく趣が異なる、西アフリカの神話を下敷きにした世界。

砂漠の土煙のなか、人外の存在が跋扈し、主人公たちは敵なのか味方なのか、善なるものか悪なるものかもわからない神霊や亡霊、トリックスターに運命を翻弄されます。

そして、登場する人物たちが「生きている」ことです。主人公たちが家族との関わり、自分の存在価値、恋など、さまざまに悩む感情表現が繊細に重ねられ、異世界だということを越えて強い共感をおぼえます。

脇役もまた魅力的に物語を生きています。(私のお気に入りは、トゥーンデとアミナタとハミードゥ司令官です!)。登場人物たちが立体的に描かれていることが、世界観に説得力も与えています。

ズィーラーン国伝

――その他、ブラウンさんのエピソードについて教えてください。

【北】ブラウンさんは、本書のほとんどを能美市で外国語指導助手をされている間に執筆されました。仕事が終わった後、夜、ファミレスでこつこつ書き溜めたのだそうです。日本生まれのこの物語の日本語版が今回発売されるのをとてもよろこんでくださいました。

本書には王女・カリーナ、難民の少年・マリクと主人公がふたりいて、章ごとにふたり視線から交互に語られます。ブラウンさんにふいに「北さんはカリーナとマリクのどちらが好きですか」ときかれ、予想していなかった問いにも関わらず、自分でも驚くほどすぐに「カリーナです。カリーナの強さが好きです」と答えました。

カリーナは、民の崇拝を集める偉大な女王(スルタナ)を母にもち、その後継者として理想的で魅力的な姉をもち、劣等感ではちきれそうな思春期の女の子ですが、奥深くにゆるぎのない強さをもっていて、それがたまらなくまぶしい魅力的な人物です。

私の答えに、ブラウンさんからいつものやさしいニコニコ笑顔がすーっと消えて「作家の顔」になり「それは、本当の強さだからです。ほんとうの人の強さ」とおっしゃいました。

この物語には、ブラウンさんがこれまで出会ってきた人たちの「ほんとう」がつまっているんだと思います。

作者から、日本の読者へのメッセージ

7月に来日した作者のローズアン・A・ブラウンさんは、日本の読者に向けて次のようなメッセージを寄せています。

—————————————————————————————-

こんにちは。私の名前は、ローズアン・A・ブラウンです。「ズィーラーン国伝」シリーズの作家です。今、アメリカに住んでいますが、石川県の能美市に2年間住んでいました。その時にこの本を書きました。日本は私にとっても特別な場所です。5年ぶりに能美に行ったときは、家族に再会したような気がしました。

能登の地震で被害を受けた街をみたときは、ふるさとのように心が痛みました。この本には、私が日本で学んだ教訓や、出会った人々がいっぱいつまっています。楽しんでいただければ幸いです。またいつか日本にもどってくるのがまちきれません。本当にありがとうございます。

—————————————————————————————-

ローズアン・A・ブラウン

ローズアン・A・ブラウン

アメリカの作家。ワシントン郊外在住。ガーナで生まれ、3歳の時にアメリカに移住。メリーランド大学でジャーナリズムを学ぶ。また、同校で、短編小説、詩、脚本の創作を学ぶ、ヒメネス=ポーター・ライターズ・ハウス・プログラムを修了。デビューとなる本作がニューヨーク・タイムズでベストセラーとなる。石川県能美市で、外国語指導助手を務めていたこともある。

Instagram:@rosiesrambles

関連書籍

ズィーラーン国伝I 神霊の血族

ズィーラーン国伝I 神霊の血族(評論社)
砂漠の土埃のなかを、神霊や亡霊が跋扈する。ガーナ出身の著者が、西アフリカの神話を下敷きに描く、まったく新しいハイファンタジー。シリーズ第1弾!

砂漠に囲まれた豊かな都市国家・ズィーラーンに、新しい生活を求めて逃れてきた難民の少年・マリク。心に傷を抱え、後継者でありながら、自国を逃れ、遠くで暮らしたいと願う王女・カリーナ。50年に一度の祝祭の最中、女王が暗殺される。カリーは「よみがえりの儀式」を行うことを決意するが――。

出会うはずのないふたりが神霊の謀略によって出会うとき、運命が動きはじめる――。

ズィーラーン国伝II 王の心臓
ズィーラーン国伝II 王の心臓(評論社)
必要なのは、その命。「よみがえりの儀式」のためには、“王”を殺さねばならない。
王女はだれを“王”に選ぶのか。命を選ぶことはできるのか――。

心が近づくほどに、相手の命を奪うことへの葛藤が深まるマリクとカリーナ。カリーナの願いもむなしく、マリクはソルスタシアの試練に勝ち進んでいく。それは、決断のときが近づいていることを意味していた。惹かれ合うほど、運命は非情さを増していく――。