思春期になっても親子の関係を壊さない叱り方 池江璃花子さんの母が教えるルール

池江美由紀

2大会ぶりに個人種目でのパリ五輪出場を決め、その驚異の復活劇に注目が集まる競泳の池江璃花子選手。あきらめない精神は称賛を集め、また多くの人へと勇気を与えています。

そんな池江選手と2人の子どもの親であり幼児教室を運営する池江美由紀さんは、育児において「叱る」ことの大切さを説いています。多くの親が悩む子どもの叱り方について、池江美由紀さんの著書『子どもの心と才能が育つ【池江式】魔法の言葉』より紹介します。

※本記事は池江美由紀著『子どもの心と才能が育つ【池江式】魔法の言葉』(PHP研究所刊)より一部抜粋・編集したものです

人格ではなく、行為を叱る

認めてほめて育てるのが、子どもの人間性を育てるときの基本です。

でも、ほめるだけでは不十分です。子どもが間違った行為をしたときには、それを正すために𠮟る必要があります。

最近の若いお父さん、お母さんは𠮟ることが苦手という方が多いようですが、𠮟るべきときにしっかり𠮟らないと、子どもが誤った方向のまま成長していきます。

「子育てには厳しさが必要」と、先ほども述べました。親自身が、自分の「𠮟りたくない」「𠮟るのは面倒」「子どもに嫌われたくない」という気持ちに打ち克って、子どもの将来のために𠮟る、ということを実践してほしいと思います。𠮟り方のポイントを三つ、お伝えします。

(1)人格ではなく、行為を𠮟る

𠮟るときに大切なことは、行為と人格を分けることです。そして、行為について𠮟ることです。人格を𠮟るのではありません。人格を𠮟るとは、たとえば、

「あなたは悪い子ね」「ダメな子ね」「あなたはいつもそうするんだから」

などと、子ども自身のことを悪く言ったり、貶めたり、子どもにマイナスのレッテルを貼ったりすることです。

人格を𠮟られた子どもは、自分を否定されたと感じます。これでは、「がんばって自分を伸ばそう」とか、「悪かった点は直して、今度はいい面で認められるようにしよう」という気持ちにはなれません。𠮟っても、親が本来望んでいたこととは逆効果になってしまいます。

𠮟るときは、行為を𠮟ります。たとえば、

「痛いから人を叩いたらいけないのよ」「危ないからこれに触っちゃいけないのよ」「道路に飛び出しちゃいけないのよ。車が来たら危ないからね」など。

(2)短く𠮟る

𠮟るときは、端的に、短く、しっかりと𠮟ります。時間にしてみれば1分以内です。だらだらと長く𠮟ったところで、𠮟られるほうは次第に嫌な気持ちや、恐れる気持ちがふくらんでいくだけです。

「何をしてはいけないのか」「自分の行為をどう改めたらいいのか」という肝心な点が飛んでしまい、ただひたすら早くこの嫌な時間が過ぎ去ってほしいと願うだけになります。これでは𠮟っている意味がありません。

私の場合、メリハリを大切にしました。「普段はやさしいあのお母さんが、こんなに怒るの?」と子どもたちがびっくりするほど、時には泣き出してしまうほど、強い口調で𠮟ります。

それによって、子どもたちは自分のしたことの重大さに気がつくからです。中途半端な𠮟り方では注意程度に受け取られ、同じことを何度も繰り返さないといけませんし、繰り返したところであまり効果はありません。

私の場合は、烈火のごとく𠮟る。でも、それは1分間だけです。𠮟り終えたら、瞬時にもとの姿に戻ります。そしてもう、そのことには触れません。いつまでもネチネチと蒸し返したり、あとあとまでズルズルと引きずったりすることはありません。

目の前で起こった出来事に対して、短い時間でしっかりと𠮟りましょう。過去のことを持ち出して𠮟るのも禁物です。

(3)𠮟ったあとのフォローを忘れない

𠮟ったら、𠮟りっぱなしではいけません。あとで必ずフォローをするようにしてください。

人格ではなく、行為を𠮟られたのだとしても、子どもにとって𠮟られることは、やはりショックです。行為を𠮟られているにもかかわらず、「自分が𠮟られた」というほうに意識が向かい、「自分を否定された」と受け取ってしまう場合もあります。

ですから、𠮟ったらそのすぐあとに(泣くなど感情が高ぶっていたら、泣きやんで落ち着いてから)、

「お母さんはあなたのことが大好きよ」「あなたはとても素晴らしい子なのよ」「𠮟ったのは、あなたが悪い子だからじゃないよ。あなたが今やったことがいけなかったからだよ。あなたにそういうことをしてほしくないから、𠮟ったんだよ」

というメッセージを伝えることが大切です。

そして、肩を抱いたり、抱きしめたりといったスキンシップを取ってください。そのあと、子どもがいけない行為、してほしくない行為をやめたら、ほめてください。

「あ、やめたんだね。あなたならわかってくれると思っていたわ」「お母さんの言うこと、わかってくれたんだ。ありがとう。やっぱりあなたは素敵な子だね」

子どもはお母さんにほめられることが、一番うれしいのです。

こういうことが繰り返されていけば、子どもは、「親に𠮟られても、自分の人格まで否定されているわけではない」と、身体で理解するようになるでしょう。

やがて思春期になって、価値観の違いなどで親子がぶつかり合うことがあっても、根底のところでの信頼関係があれば、大きく道を外れていくようなことは避けられるのではないでしょうか。

【ポイント】親は、子どもに嫌われたくないなどという気持ちに打ち克ち、子どもの将来のために叱る。

子どもの心と才能が育つ【池江式】魔法の言葉

子どもの心と才能が育つ【池江式】魔法の言葉』(池江美由紀)

競泳の池江璃花子選手を育て、子どもの能力開発教室で指導してきた池江美由紀さん。幼児教室で、また3人の子育てを通して実践してきたこと、学んだことを、【池江式】子育て法としてまとめたものです。
強くやさしい心を育み、才能を引き出す【池江式】子育てメソッドを、イラストや写真を交えて解説しています。