なぜ人はいじめをするのか? 研究で判明した「加害者の理不尽な心理」
いじめは、古くから続く社会問題です。長年、問題視されていながらも現代でもいじめは存在し続けています。近年ではSNSの普及により、「オンラインいじめ」まで発生しているのです。
なぜいじめは無くならないのでしょうか?そして被害者になってしまったら、どのように対処すべきなのでしょうか?明治大学法学部教授・堀田秀吾さんによる書籍『12歳から始める心が折れない技術』からご紹介します。
※本稿は、堀田秀吾著『12歳から始める心が折れない技術』(秀和システム)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
いじめは「いじめる側が悪い」に決まっている
いじめ。時代をこえて、形を変えて、ずっと続くこの悪行。
だれもが、いじめは悪いことだと知っています。でも、なくなりません。それどころか、子どもの世界だけでなく、大人の世界でも、会社やご近所づき合い、その他いろいろな場所で、つねにいじめは存在しています。
いじめは、じつは人間界だけでなく、虫や動物の世界にも存在します。生きものが生き残るための戦略としてとる手段だからです。
だからといって、いじめはいいものだ、仕方がないものだ、と言っているわけではありません。人間には、いいことと悪いことを判断し、悪いことをできるだけしないようにする「理性」というものがあります。ですから少なくとも、いじめをへらしていくことができる可能性は残されているのです。
いじめについては「いじめられる側が悪い」などという、おどろくような意見が出てくることがあります。
しかし、日本をふくむ多くの先進国の社会では、理由を問わず、他人に危害を加えることは悪いことと法律で決められています。
いじめている側でも、いじめられている側(が仕返しする場合)でも、基本的に危害を加えたら、加えたほうが、やはり悪いのです。人間社会の重要なルールなので、当然これは守らなくてはなりません。
いじめる側がいじめをする理由としては「自分を強く見せたい」「優越感を味わいたい」「ストレスを発散したい」「まわりに合わせたい」などいろいろなものがあります。
アメリカのトップ大学の一つであるシカゴ大学の研究者たちが、いじめを目撃したときの脳の活動状態を見る実験をおこないました。その結果、人はいじめを目撃すると、喜びに関係する脳の部位と、苦痛に関係する脳の部位が活動するそうです。
そして、いじめっ子の脳では、苦痛に関係する部位が活動しておらず、逆に喜びに関係する脳の部位が、より活発に反応していることが明らかになりました。つまり、いじめっ子は、いじめに喜びを感じているというのです。
こういう人たちは、自分の喜びのためにいじめているわけですから、相手側に悪いところがあろうがなかろうが関係ないのです。
たとえば、Aさんは、がんばって成績が学年トップになったとします。どう考えてもすばらしいことです。しかし、それをねたんだBさんが中心になって、Aさんにいやがらせをするようになる……などということが起こるわけです。
いじめは、いじめられる側にとって「理不尽」というべき理由で起こってしまうことが少なくありません。
理不尽というのは、常識や理屈から考えたらおかしい理由、納得がいかない理由にもとづくことです。先ほどの例もそうです。いじめられる側が何も悪いことをしていなくても、いじめられるということが起こってしまいます。
いじめの対象となってしまった人には、「自分が悪い」と自分をせめてしまう人も少なからずいます。しかし、どんな理由があろうと、他人に危害を加える行動をしたいじめる側が悪いのです。
ですから、たとえいじめの対象となっても、自分をせめないでください。親や先生、まわりの友だちにも相談して早めに解決しましょう。今は学校以外でも、相談に乗ってくれるところがたくさんあります。身近に相談できる人がいなくても、インターネットなどでそういうところをさがしてみるのも手です。
「オンラインいじめ」には専門家の手を借りよう
文部科学省の調査によると、じつはいじめが実際に報告された件数は少なくなってきています。
しかし、オンラインによるいじめの件数は、逆にふえていることがわかりました。理由としては、SNS交流サイトの匿名アカウントなどを使ったネット上のいじめは、親や先生の目がとどきにくいからです。
また、時間や場所を選ばずに、指先一本でできてしまうという簡単さや気軽さもあります。そのため「オンラインいじめ」がふえてしまっているようです。匿名の廃止、つまりだれがやったかがわかるようになるだけでも、少しはオンラインいじめの発生をへらすことができるかもしれません。
しかし、だれが投稿をしたかを特定させるのは、じつはとてもむずかしいことです。警察も、専門の部署を作って対処しようとしていますが、それでも完全にはできていません。
法律の専門家も、裁判などで発信者の特定をしなければいけないことが多々ありますが、彼らが情報分析のプロを使っても、なかなかうまくいかなかったりします。
こういった捜査・調査の専門家たちでさえもむずかしいのですから、素人である教育現場の先生方やご両親、みなさんがそれをやろうとしても、現実的にはかなりむずかしいでしょう。
また、だれかに何かの行動をやらせる、あるいはやめさせるということも、想像以上にむずかしいものです。とくに、人数がふえてくると余計むずかしくなります。
いじめの指導というのは、ふつうクラス全体、学校全体など大人数に対しておこなわれます。人が多くなればなるほど、人間は「自分がやらなくてもほかの人がやるからいいや」「自分には関係ないや」という心理が働きます。
これを「傍観者効果」とよびますが、たとえば目の前にこまっている人がいたとき、自分一人しかいないときは助けても、たくさん人がいるときはだれも助けないということが起こります。こういった心理的な原因が重なって、いじめが起こってしまうことがあります。
たとえば「自分はいじめているわけではない」と、都合よく「自分には当てはまらない」と考えてしまう「正常性バイアス」という心理も働きます。あるいは「楽観性バイアス」といって「自分だけはバレない、大丈夫」と、ゆがんだものの見方をしてしまう傾向もあります。
さらにネットの場合、先生や親の目がとどきにくいところでできるので、つい行動に出てしまうということもあるでしょう。このように、もともと人間が持っている心理的な働きによっていじめが起こるわけですから、残念ながら多少の指導や注意でどうにかできるものではないのです。
もちろん、だからと言って、いじめを放置しておいていいことにはなりません。素人でも、専門家の力を借りながらできることはあります。
各種SNSでは、自分の投稿を見ることができる人やコメントできる人、友だち申請ができる人を制限したり、いじめの報告をしたりすることで対処する仕組みを用意しています。
それらを利用したり、親や先生の手を借りて法律やネットの専門家に相談したりして、対処法を実践していくようにしましょう。
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