モンテッソーリ教育で「ダメ」「違う」がNGな理由は? 子どもの脳とやる気を育てる叱り方

島村華子
2024.10.01 10:14 2024.08.20 11:50

ソファーに突っ伏す女の子

子どもを叱らなければいけない場面で、怒鳴ったり、高圧的にならないように気をつけているけど、なかなか子どもは言うことを聞いてくれません。子どもの叱り方は本当に難しいです。

モンテッソーリ&レッジョ・エミリア教育研究者である島村華子さんは「子どもを叱ることは、社会適応に必要な知識やスキルを教えるために必要なこと」と語ります。では具体的にどう叱ればよいのでしょうか?

プログレッシブ教育の代表格「モンテッソーリ」と近年最注目の「レッジョ・エミリア」の視点から考える「具体的な叱り方」について、島村華子さんの著書『自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方』より紹介します。

※本記事は島村華子著『自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)より一部抜粋・編集したものです

「ダメ!」「違う!」をできるだけ使わない

見上げる女の子

子どもに対して、つい「それダメ!」「これダメ!」「違う!」「やめて!」と否定的な言葉を使って叱ることが口ぐせになっていませんか。もちろん、道路に飛び出しそうになるなどの危険な状況では「ダメ!」と言うこともやむを得ません。

ただ、そのような緊急事態でない限り、子どもに否定的な言葉を浴びせないようにすることが大切です。

「そうだったんだね」「わかるよ」から始める

泣く子とママ

子どもは、「ダメ」「やめて」「違う」といった言葉を聞き続けると、脳が脅威を感じて戦闘モードに入り[*20]、フラストレーションが爆発しやすい状態になります[*21]。

反対に、子どもの気もちや意思を受け入れたうえで声をかけた場合は、脳が戦闘モードに入るのを防ぐことができ、反発せずに自分や他人の気もちに寄り添う柔軟性が生まれます[*20]。

肯定の言葉(「そうだったのね」「わかるよ」など)から始めるというのは、叱らずに野放しにする、子どものわがままを丸呑みするという意味ではありません。まず「ダメ!」と口走る前に、子どもが何をしたかったのか、何を言いたかったのかを理解し、ありのままの子どもを受け入れたうえで手を差し伸べるということです。

たとえば、幼児がタンスの洋服を片っ端から引っ張りだして遊んでいるとします。「ダメダメ! 何しているの!」と否定から始める代わりに、「そっか! 洋服を引っ張りだしたかったのね!」とまず気もちを肯定し、「このお洋服はこの引きだしにしまうから、終わったら一緒に片付けようね」と声かけをしてみましょう。

*20 Siegel, D. J., & Bryson, T. P. (2019). The yes brain: How to cultivate courage,curiosity, and resilience in your child. Bantam.
*21 Newberg, A., & Waldman, M. R. (2013). Words can change your brain: 12 conversation strategies to build trust, resolve conflict, and increase intimacy.

結果ではなく努力やプロセスに目を向ける

勉強をする子ども

ほめるときの声かけと同様、叱るときも「人中心」の批判を避けて、過程(プロセス)を中心に声をかけることが重要です。人中心の批判とは、子どもの性格、能力、あるいは外見の欠点や短所を責める叱り方のことです。

一方で、過程や手法中心の声かけとは、結果に至るまでの努力(あるいは努力の足りなさ)ややり方(あるいはやり方の未熟さ)に対してネガティブな評価なしに具体的にフィードバックを与えることです。

子どもは能力ややり方を否定されると、自分には力が足りないからどうせできないという無力感(helplessnessresponse)を覚えるようになり、次は成功しようという意欲をなくしてしまいがちです[*22]。

たとえば子どもがテストで40点をとってきたとします。「40点しかとれないなんて、ひどいわね。頭が悪い!」と批難する代わりに、「40点だったのね。自分の目標には届かなかったみたいだね。次はどういうやり方をしたらもっと学べるようになるかな?」というような声かけをしてあげましょう。

*22 Kamins, M. L., & Dweck, C. S. (1999). Person versus process praise and criticism:Implications for contingent self-worth and coping. Developmental psychology, 35(3), 835-847.

好ましくない行動の理由を説明する

見つめあう親子

理由を説明するというのは、ほめるときに具体的に説明するのによく似ています。子どもに、自分がとった行動が、子ども自身あるいは他者にいかに影響を与えるかというモラル(道徳)に焦点を置きながら、具体的に説明することで、子どもの理解を得ようとする方法です[*23]。 

罰を与える(叩くなど)、あるいは一方的な叱り方をした場合、子どもの意識はいかに罰を逃れるかということに向くため、自分の誤った行動を振り返る機会がありません。

一方で具体的な理由で説明された場合、自分の行動と結果の因果関係(例:お友達を叩いたら、お友達が泣いた)を初めて理解するようになるほか、他者への影響を指摘することで(例:叩かれたお友達は悲しかった)、相手を思いやる気もちが生まれるのです[*24]。

たとえば、子どもがスーパーで走りだしたとします。つい「危ない! ダメだよ!」と口走りそうですが、代わりに「走るとぶつかったりして、あなただけじゃなく、ほかの人もけがするかもしれないから、ここは一緒に歩こうね」というような声かけをしてあげましょう。

*23 Hoffman, M. L. (2001). Empathy and moral development: Implications for caring and justice. Cambridge University Press.

*24 Choe, D. E., Olson, S. L., & Sameroff, A. J. (2013). The interplay of externalizing problems and physical and inductive discipline during childhood. Developmental psychology, 49(11), 2029.

島村華子

島村華子

オックスフォード大学修士・博士課程修了(児童発達学)。モンテッソーリ&レッジョ・エミリア教育研究者。上智大学卒業後、カナダのバンクーバーに渡りモンテッソーリ国際協会(AMI)の教員資格免許を取得。カナダのモンテッソーリ幼稚園での教員生活を経て、 オックスフォード大学にて児童発達学の修士、博士課程修了。現在はカナダの大学にて幼児教育の教員養成に関わる。 専門分野は動機理論、実行機能、社会性と情動の学習、幼児教育の質評価、モンテッソーリ教育、レッジョ・エミリア教育法。

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自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方
自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
プログレッシブ教育(進歩教育、オルタナティブ教育)の代表格である「モンテッソーリ」と近年最注目の「レッジョ・エミリア」を知り尽くしたオックスフォード児童発達学博士による、エビデンスに基づく最先端の教育メソッドをほめ方・叱り方という「声かけ」に落とし込んだ画期的な最新子育てバイブルです。(※本書は、おもに3〜12歳の子どもを対象としています。)