安易な「ほめて伸ばす」がかえって子どものやる気を奪ってしまう理由

島村華子
2023.11.28 12:19 2023.11.27 11:50

真剣な表情の女の子

子どもに自信をつけさせたいという思いから、「ほめて伸ばす」子育てを大切にされているご家庭は多いでしょう。しかし、安易なほめ言葉では逆効果となってしまうケースがあるのです。子どもの自己肯定感を高めるには、どのようにほめてあげれば良いのでしょか。モンテッソーリ&レッジョ・エミリア教育研究者の島村華子さんが解説します。

※本稿は、島村華子著『自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

安易な「ほめて伸ばす」には要注意!

頭を抱える女の子

「すごい!」
「よくできたね!」
「えらいね!」
「さすが○○ちゃんだね!」
「才能あるね!」
「なんでもできるね!」

これらは、子どもをほめるときによく使われるフレーズです。

しかし、ポジティブで子どもの自信につながるように聞こえるこれらの言葉は、子どもの成長にとって必ずしもよい影響があるとは限らないのです。

近ごろは、日本人の自己肯定感(自己に対する肯定的な感情)の低さが問題視されているため、”ほめて伸ばす”方法が子育ての主流になってきています。

たしかに、子どもから大人まで、誰もが他人から認められたいという承認欲求をもっています。子どものときにもっと親にほめられたかったと思っている人も少なからずいるでしょう。

しかし、ほめ方によっては、子どもに不安やプレッシャーを与えたり、モチベーションが下がる原因になったりと、さまざまな弊害があるのもたしかです。

ではなぜ、「すごいね!」「お利口さんだね」と子どもをほめることがネガティブな結果につながるのでしょうか。逆に子どもに対してどういった声をかけるべきなのでしょうか。ほめること自体が悪いわけではありません。認めてあげることは大切です。

ただ、ほめ方の種類によってよくも悪くも子どもの成長に影響があるのです。

3種類のほめ方、どれが正解?

身支度する男の子とママ

「ほめる」とは、「他者の成果やパフォーマンス、あるいは特性に対するポジティブな評価のこと」を指します。つまり評価している側の人の主観で相手の善しあしを決めることなのです。

大きく分けて、ほめ方には3種類あります。

①おざなりほめ(perfunctory)
どういうところがどういうふうによかったのか具体性に欠ける、中身のない表面的なほめ方をする
・「すごいね!」「上手!」

②人中心ほめ(person focus)
性格(優しさ・気遣いなど)・能力(頭の良さ・足の速さなど)・外見(顔・体形など)といった、表面上の特徴を中心にほめる
・「優しいね」「頭がいいね」「かわいいね」

③プロセスほめ(process focus)
努力・過程・試行錯誤した手順を中心にほめる
・「がんばって最後までやりきったね」「失敗してもあきらめなかったね」 「いろんな方法を試したね」

たとえば、ごはんをこぼさずに食べた子どもに「すごい、すごい」と言うだけなのがおざなりほめ、「お利口さんだね」と言うのが人中心ほめ、「こぼさないようにスプーンの持ち方を変えてみたのね」と言うのがプロセスほめになります。

「おざなりほめ」と「人中心ほめ」がNGな4つの理由

叱られる女の子

おざなりほめと人中心ほめには、4つの問題があります。

①「ほめられ依存症」になる
② 興味を失う
③ チャレンジ精神が低下する
④ モチベーションが低下する

順に見ていきましょう。

①「ほめられ依存症」になる
ほめられないと自信がもてず、外部からの承認でしか自分の価値を見いだせなくなります。たとえば絵を描いて親に見せたときに、「上手!」「絵の天才だね!」と言ってもらえないと、「自分の絵はダメなんだ」と思うようになります。

また、「つねに認めてもらいたい、ほめてほしい」という承認欲求が強くなるため、ほめられなかった場合に不機嫌になったり、不安になったりするのです。

② 興味を失う
「上手ね」「すごいすごい」と言われ続けると、子どもはほめられること自体に快感を覚え、「どうしたら次もほめられるかな」と考えるようになります。その結果、ほめられるためだけに行動をするようになり、せっかく楽しいと思っていたことにも意義を感じなくなってしまうのです。

たとえば、自分が描いた絵を「上手ね」と言ってもらえなくなったとたん、「ほめられないなら、もう絵は描かなくていいや」と本来は好きだったはずのお絵描きをやめてしまいます。

③ チャレンジ精神が低下する
ほめるというのは他者からの評価が基本です。大人でも、「あなたは仕事ができる人だね」などとまわりにほめられるとプレッシャーを感じすぎてしまうことがあるのではないでしょうか。
子どもも同じです。そして、周囲からの評価が下がることを恐れ、失敗を避けるためにチャレンジすることを躊躇するようになります。

たとえば、「頭がいいね」と言われ続けると、「万が一、失敗をしたら、賢いというイメージが崩れてしまう」とプレッシャーを感じ、言い訳が多くなるなど、周囲の評価から自分を守ろうとします。

④ モチベーションが低下する
努力の有無にかかわらず、いつも「上手!」と言ってもらえたら、自己評価をする必要がなくなります。その結果、子どもはがんばらなくてもよいと思うようになり、努力をして何かを成し遂げることの必要性を感じなくなるのです。

たとえば、心を込めずに描いた絵に対しておおげさに「すごいすごい」と言われることで、この程度でよいのだと思い、上を目指すことをしなくなります。

島村華子

オックスフォード大学修士・博士課程修了(児童発達学)。モンテッソーリ&レッジョ・エミリア教育研究者。上智大学卒業後、カナダのバンクーバーに渡りモンテッソーリ国際協会(AMI)の教員資格免許を取得。カナダのモンテッソーリ幼稚園での教員生活を経て、 オックスフォード大学にて児童発達学の修士、博士課程修了。現在はカナダの大学にて幼児教育の教員養成に関わる。 専門分野は動機理論、実行機能、社会性と情動の学習、幼児教育の質評価、モンテッソーリ教育、レッジョ・エミリア教育法。

X:@hana_shimamura