モンテッソーリは受験のためのエリート教育? 専門の園が必須? 専門家が伝えたい「本当のこと」

島村華子
2024.07.23 17:14 2024.08.27 11:50

知育玩具で遊ぶ男の子

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世界的な起業家や日本の著名人も「モンテッソーリ教育で育った」と話が広く伝わったことで近年モンテッソーリの名は知れ渡るところとなりました。一方でイメージや部分的な情報のみで語られることが多く、誤解されている面があるようです。

モンテッソーリ&レッジョ・エミリア教育研究者である島村華子さんに、「モンテッソーリの実際」についてお聞きしました。

「天才を育てる教育」という誤解

おもちゃで遊ぶ男の子

――世間一般にモンテッソーリ教育というとエリート教育というイメージでとらえる向きがあるようですが、実際のところはどうなのでしょうか。

確かにモンテッソーリ教育は、エリート教育や天才教育のように誤解されがちです。しかし、モンテッソーリ教育はもともと精神的な課題を抱えた子どもたちのために始まったものです。

一人一人の子どもの可能性を最大限に伸ばすことを目的としており、決してエリート教育ではありません。モンテッソーリ教育で育った子どもたちの中から、偶然優れた才能を発揮する子どもが出てきたために、天才教育だと思われてしまったのだと思います。

モンテッソーリ教育の目的は、子どもたちが自分で考え、自ら学ぶ意欲を育むことであり、決して受験のためではありません。

――モンテッソーリ教育を専門の園に通わせずに、家庭で取り入れていくことはどの程度可能なのでしょうか。

お家でモンテッソーリをする際に、専門的な園のように特別な教具を揃えたりしなくても大丈夫です。先生と親御さんの役割は全く違うものなので、親御さんが先生になる必要はありません。

おうちでできることはお手伝いを通して、モンテッソーリの理念である自立性、自己管理、他者への配慮をサポートできる環境を作ることです。モンテッソーリ園でよく見られる教具を家に持ってくる必要もなく、日常の家事の中で子どもが自分でできることを任せていくことが大切です。

例えば、子どもが自分で届く場所に食べ物を置いておく、自分で着られる服を用意する、子ども用の包丁を用意するなど、子どもが自分のことを自分でできる環境を作ってあげることが重要です。

家庭でモンテッソーリ教育を行う際の注意点は?

積み木で遊ぶ男の子と父母

――家庭でモンテッソーリ教育を取り入れる際に、親が気をつけるべきことやしない方がいいことはありますか。

親御さんはストレスが多く忙しいと思うので、家事に子どもを招くことは面倒だと感じるかもしれません。時間がかかったり汚れたりすることを考えると、無理だと思うこともあるでしょう。

そんな時は、余裕のある日に子どもを巻き込むくらいの気持ちでいいと思います。大切なのは、汚れるのは当たり前、時間がかかるのも仕方ないと割り切ることです。できるときに、子どもが自分でチャレンジする機会を与えることが大事ですね。

一方で、モンテッソーリの理念では賞罰は避けた方がいいです。例えば、お手伝いができたからご褒美をあげるようなことは避けましょう。最初は内発的動機で手伝いをしていたのに、だんだんご褒美目当てに変わってしまうことがあるからです。

「すごい」の言葉を使わないほうがいい理由

――子どもをほめる際のコツはありますか。褒め言葉を具体的に見つけるのが難しいと感じています。

子どもの行動をよく見て、気づいたことをそのまま言葉にするだけでいいと思います。「上手」とか「すごい」といった抽象的な言葉である必要はありません。

子どもが工夫したことや、いつもと違うことに挑戦したことなどを具体的に伝えるだけで十分です。褒めることが目的ではなく、子どものことをしっかり見ていることを伝えることが大切だと思います。

――子どもをほめる際に気をつけることは何かありますか。

子どもへの褒め方で気をつけたいのは、安易に「すごい」と言い過ぎないことです。「すごい」といういわゆるおざなり褒めは、子どもが何に対してほめられているのかわからず、ただ漠然と褒められることに依存してしまうことがあります。

また、「すごい子」とレッテルを貼られることで、そうでない時に自分に自信が持てなくなってしまう可能性があります。

子どもの特定の性質や性格に焦点を当てて褒めることも、子どもにとって大きなプレッシャーになります。むしろ子どものその時々の行動を具体的に褒めることが大切だと考えています。

モンテッソーリ教育と日本の学校教育の相性は良くない?

――モンテッソーリ教育と日本の学校教育の違いについて教えてください。

日本の学校教育は、集団生活の中で協調性を養うことに長けていると思います。一方で、モンテッソーリ教育では、一人一人の興味関心を大切にする個別性に重点が置かれています。

しかし、モンテッソーリ教育の考え方の中にも、他者への思いやりの心を育てることは含まれています。日本の学校教育の長所を取り入れつつ、モンテッソーリ教育の良さを生かしていくことが大切だと考えています。

カナダのモンテッソーリのコミュニティ内で、日本の子どもたちが当事者となって掃除や給食に積極的に携わる姿は、話題になったこともあります。

特にみんなで配膳して食べる給食だとか、自ら自分の手で行う掃除の文化。なかなか北米等では、専門の人が雇われて行う仕事で、子どもたちが自分たちでするということに対して「なんと素晴らしい」というように。

食べ終わった後にきちんと自分の物を片付けるという、自分ではなくて他者への配慮できる教育がなされてるという意味において、日本での学校教育とモンテッソーリが似てると思う部分もあります。

島村華子

島村華子

オックスフォード大学修士・博士課程修了(児童発達学)。モンテッソーリ&レッジョ・エミリア教育研究者。上智大学卒業後、カナダのバンクーバーに渡りモンテッソーリ国際協会(AMI)の教員資格免許を取得。カナダのモンテッソーリ幼稚園での教員生活を経て、 オックスフォード大学にて児童発達学の修士、博士課程修了。現在はカナダの大学にて幼児教育の教員養成に関わる。 専門分野は動機理論、実行機能、社会性と情動の学習、幼児教育の質評価、モンテッソーリ教育、レッジョ・エミリア教育法。

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