「友だちを泣かせた3歳の子」を叱ってはいけない理由とは? 親が知っておきたい「心の発達の段階」
体の発達と違って、目に見えない「子どもの心の発達」を親はどうサポートしてあげればよいのでしょうか? 公認心理師として多くの親に子育てをアドバイスする山下エミリさんは、スクールカウンセラー時代に中学受験をせっかく勝ち抜いたにもかかわらず不登校となる生徒をに多く触れ、心の発達の大切さを痛感したそうです。
山下エミリさんの著書『子どもの一生を決める「心」の育て方』より子どもの心の発達の大切さと発達の段階を解説した一説を紹介します。
※本記事は山下エミリ著『子どもの一生を決める「心」の育て方』(青春出版社)より一部抜粋・編集したものです。
相手の気持ちを考えられるようになるのは何歳から?
こんな光景、見たことありませんか。
3歳の子どもがおもちゃの取り合いをして、お友だちが泣いてしまったとき。
「なんで譲ってあげないの!」
「お友だちが泣いているでしょ」
「お友だちの気持ちを考えなさい!」
お母さんはわが子を叱っています。きちんとしつけようという考えもあるかもしれません。
でも実はこれ、子どもを叱る場面ではないのです。
なぜなら、3歳以下の子どもは心理学的に相手の気持ちになることはできないから。相手の気持ちを考える「他者の視点」を持てるようになるのは、4歳くらいからです。
たとえば、生後2カ月の赤ちゃんを無理やり立たせたり、早く歩かせようとはしませんよね?体の発達段階ではまだ自分で歩くところまで成長していないから無理だとわかっているからです。
それなのに3歳の子どもには「相手の気持ちになれ」と言ってしまう。
体の発達は目に見えますが、心の発達は目に見えません。もし生後2カ月の子を無理やり立たせたら、一生立てなくなってしまうほどのケガをするかもしれません。でも、それと同じことを、心の発達を知らないためにやってしまいます。
小さなケガであっても、それが積み重なったり、治らないうちにケガを繰り返していたら、取り返しがつかないほどの大ケガを心に負わせてしまう可能性があるのです。
心の発達は、目に見えないからこそ、体の発達以上に知っておかなければなりません。心の発達を知らなかったために、私たち親は、子どもに間違った対応をしてしまうことがあるからです。その結果、小さい頃には問題がなかった子が思春期になって不登校になったり、ひきこもったり、非行や暴力をふるうなど問題行動を起こすようになります。
今、日本の不登校の児童生徒数は24万人を超えています。年々増加しています。どうしてこんなことになっているのでしょうか。それも、心の発達を知ることで未然に防ぐことができ、問題が起きたときからでも正しい関わりをすることで解決することができます。
子どもにイライラしてしまう親が増えている?
私は個別のカウンセリングをしていたときに、子育てに困難を感じて悩んでいるというあるお母さんから、「どうしてみんな、普通に子育てできるんですか?」という悲痛な訴えをされたことがあります。改めて聞かれると、たしかにそうだよね、と思いました。
お母さんって、子どもを産んですぐ、何も知らない状態でスタートして、子育てが始まってしまえば訳もわからず待ったなしで走り続けなくてはなりません。本当に大変な仕事ですよね。そして、みんな普通に子育てしているように見えますね?
習ってもいないのに不思議ですよね? 実は、体が妊娠と同時に子育ての準備を始めているように、脳の中でも妊娠してから子どもの成長に合わせて、自分が育った家庭で育てられた頃の遠い記憶を、しまい込んであった倉庫の奥から引っ張り出して子育てをしているのです。だから、気づかないうちに子育てを学んでいたんですね。
私のメソッドでは生育歴(育っていく過程)で身につけた雛ひながた型(テンプレート)という言い方をします。それがよい雛型ばかりならいいのですが、不適切な雛型でもそれが正しいと無意識に思い込み、自分の子どもに対しても不適切な対応をしてしまいます。
でも、きちんと正しい子育てを学んでいないのですから、うまくいくほうが不思議です。最近、「つい子どもを怒りすぎてしまう」「イライラが止められない」と言うお母さんが増えていると感じています。
なかには、「子育て=怒るもの、イライラするもの」だと思い込んでいるお母さんもいました。でも、それもお母さんが悪いわけではありません。正しい子育てを学んでいないのですから当たり前です。
「まさかうちの子が」難関中学を退学して転校してくる生徒たち
そして話を聞けば聞くほど、お母さんも手探りで必死で子育てをしていることがわかり、心が痛くなります。お母さんが怒りを抑えられず怒ってしまうというのは、お母さん自身の心の成長が未発達なために、感情が抑えられないということもあります。
心の成長が未発達って、どんなことでしょう。
たとえば、以前、子どもが転んだときに手を地面につけないで顔から落ちてしまうということが話題になったことがありました。その原因は、ハイハイの時期にしっかりハイハイをさせずに歩かせたことによるものだったということがわかりました。体の成長に未発達な部分があったということですね。
ですから、今、子育てをしているお母さんたちは、「しっかりハイハイをさせましょう」と保健師さんからもアドバイスを受けているはずです。同じように、心にも発達段階があり、きちんと手順を踏まなければいけないのですが、大事な順番を飛び越してしまうと、そこが未発達になり、後から問題が出てくるのです。
冒頭の例のように、子どもの心の発達段階を理解して、お母さん自身の未発達な心の成長を育ててあげると、お母さんは怒らずに済み、子どもの問題行動も解決するケースが大半なのです。
私が通信制高校でスクールカウンセラーをしていたとき、せっかく難関中学に合格したのに不登校になって転校してくる生徒がたくさんいました。お母さんもお子さんが合格したときは、「私の子育ては正しかった」と思ったはずです。
そして、子どもが学校に行けなくなるなんて、まさか、こんなことになるなんて夢にも思わなかったはずです。正しい子育てを知らなかったばかりに、お母さんもお子さんも苦しい思いをしているのです。だからこそ、「心の発達」を知っておくことがますます重要なのだと、今こそお母さんたちに伝えたいとの思いを強くしました。
「心の発達段階」に沿った関わり方をすれば、子育てはうまくいく
この表を見てください。有名な心理学者であるエリクソンの心理社会的発達理論の「8つの発達段階」と呼ばれるものを簡略化したものです。
この理論は、人間の成長において8段階ある各発達段階で「心理社会的危機(発達課題)」を克服していくことで心の成長に大事なことが獲得できる、という理論です。大学で教員免許を取得した方なら必ず習っているはずです。子どもの教育にはとても重要なことがわかりますね。
実は、私の主宰する講座には学校の先生が多く受講されています。心理学を学んでいるからこそ、子どもではなく自分の問題ということに早く気づかれて受講されるのです。そして、エリクソンも学んでいるはずなのに、みなさん口を揃えて「講座を学んで目からウロコだった」とおっしゃるのです。それほど心理学はわかりにくい面もあるということです。
ですから、ここではざっくりと「親が子どもの心の発達段階に沿った関わり方をして各題の危機をクリアしていけば、今、子育てで大事と言われる自己肯定感や非認知能力が高い、賢い子が育つ(獲得できる)」と覚えておいてください。
そして同時に、お母さん自身も発達段階の危機を乗り越えてきたかという確認をしてください。なぜなら、子育てに困っているお母さんは、お母さん自身が危機を乗り越えてこられずに親になり、子どもを育てるときに、自分と同じところでつまずいているからです。
心の発達がわかると、お母さん自身がとても生きやすくなったという声がよく聞かれます。だから、子育てが本当に楽しくラクになりますよ。
体の発達と違って目に見えない「心の発達」がわかれば、子どもが見える。今話題の「自律する子」に変わる。
「子どもにいちいち怒らなくなった」「笑顔で登校(登園)するように!」「本音を話してくれるようになった」…と感謝の声、続々!公認心理師の著者が教える、何歳からでも間に合う!心理学的に正しい子育てメソッド。