足の速さは本当に生まれつき? 盗塁王・聖澤諒さんが勧める「走れる子に育つ」遊び

聖澤諒

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プロで活躍するアスリートは、生まれながらにして身体能力に恵まれ、幼い頃からエリート教育を施されているイメージはあるかもしれません。しかし全員が全員そうではありません。 

東北楽天ゴールデンイーグルスでプロ野球選手として活躍し、現在は楽天イーグルスアカデミーのコーチとして子どもたちを指導している聖澤諒さん。中学・高校での経歴はその後プロ野球選手になるものとも思えず、また両親や兄弟も特段スポーツに秀でていたということもなかったと言います。聖澤さんはなぜプロ野球選手になれたのでしょうか?

そんな聖澤さんの著書より、子どものゴールデンエイジ期のスポーツの関わり方と走力を伸ばした遊びについて、自らの経験を振り返った一説を紹介します。(写真撮影:黒澤崇/提供:辰巳出版)

※本記事は聖澤諒著『弱小チーム出身の僕がプロ野球で活躍できた理由』(辰巳出版刊)より一部抜粋・編集したものです。

伸びる子はゴールデンエイジ期にどう過ごす?

ロサンゼルス・ドジャースで活躍する大谷翔平選手は、小さい頃は野球だけでなくバドミントンや水泳もやっていたことは有名ですよね。小学生の間にいろいろな競技を経験しておくことはとても大切だと思います。

いまでいう「マルチスポーツ」ですね。いわゆるゴールデンエイジ期(神経系の発達がほぼ完成し、動きの巧みさなどを身につけるのに最も適している時期。一般的に9歳から12歳頃とされる)にいろんな体の使い方、動かし方を脳と体に経験させることが、より高いステージに進んだときに役立つからです。

僕も4年生になってからは野球以外に剣道、高学年になってからは陸上もやっていました。

剣道の練習は毎週金曜日の夕方から1時間半。正直、あまりやりたくなかったのですが、父が僕に礼儀やマナーなどを学ばせたいという思いがあったようで、習いに行かされました。

そんな経緯で始めた剣道でしたが、市の大会で優勝するまでになり、全国大会を狙える強豪中学からスカウトされるほどに上達しました。小学校時代は野球よりも剣道の方が実力を評価されているくらいだったのです。

小学校で辞めてしまった剣道でしたが、決して無駄ではなく、その後の野球人生において大いに役立ちました。

剣道の試合では、お互いに構えた状態から「面で来るか、胴で来るのか」といった読み合いをします。そこから相手のわずかな動きや気配を察知して反応したり、逆に一瞬のタイミングを見逃さずにこちらから打って出たり。そういった一瞬の駆け引き、集中力、判断、反応といったものは、野球に通じる部分も多いのです。例えば野球の盗塁の場面を思い浮かべてください。

牽制が来るか、来ないか。スタートを切るか、切らないか。そこは相手投手との読み合いです。ピッチャーの一瞬の動きに集中し、見るだけではなく「次は牽制が来るな」「次は来ないぞ」といったことを感じ取る力が必要なのです。僕は剣道によってこの「感性」が磨かれたように思います。

多くのスポーツに取り組んだことが後に野球に生きた

高学年になって始めた陸上は、陸上クラブに入っていたわけではなく、市の選抜メンバーに選ばれて大会や記録会などに参加していました。大会では100メートル走はもちろん、走り幅跳び、800メートル、1500メートル、リレーなど、エントリーできる種目は全部出ていました。

家にいるのが嫌で外で体を動かすのが大好きな子どもでしたから、いろんな種目に出られることがとにかく楽しかったのです。ちなみにエントリーしたほとんどの種目でメダルを取っていました。陸上が野球に役立ったことは言うまでもありません。

たくさん走ることで足腰が鍛えられます。走力はもちろん、体力、心肺機能も高まりますし、幅跳びでは跳躍力もつく。体幹ももちろん鍛えられます。

冬場にはハンドボールもやっていました。更埴市は長野でも北部に位置していて雪が降る冬の間はグラウンドが使えません。朝6時は真っ暗でおまけに寒い。なので冬は体育館で野球の練習をやりつつ、ハンドボールの練習も行っていました。

遊びでやっていたのではなく、ハンドボールの大会もあるので一生懸命に練習していました。ハンドボールは肩、肘は使わずに胸郭や下半身を連動させて投げる必要があるので、正しいフォームの習得や故障防止につながるとも言われています(もちろん当時はそんなことは全く意識していませんでしたが)。

ちなみにロサンゼルス・ドジャースの山本由伸投手もトレーニングの一環でハンドボールを投げているそうです。

剣道、陸上、ハンドボール。ゴールデンエイジ期に野球だけではなくたくさんの運動、スポーツをしていたことが、後に僕の野球人生の大きな財産になったと言えるかもしれません。

両親も兄弟も足は速くないのに…次男の身体能力を育てた「鬼ごっこ」

足の速さは遺伝などの先天的な要素も大きいと思います。ですが、私の両親は特別運動神経が良かったわけでも、足が速かったわけでもありません。

兄と弟も目立って足が速いわけではありませんでした。ではなぜ僕だけ足が速かったのでしょうか? はっきりとした理由は分かりませんが、小さい頃からとにかく外で遊び、走り回っていたこと。そういったことが少なからず後天的要素として足の速さにつながっているのではないかと思っています。

いまの子ども達にも、もっと外で遊ぶことを勧めたいと思っています。特に勧めたいのが「鬼ごっこ」です。

楽天イーグルスアカデミーで子ども達に野球を教えるようになってから、鬼ごっこは子どもの運動神経の発育の面で大変理にかなった素晴らしい遊びだと感じています。僕も子どもの頃は鬼ごっこが大好きでよくやっていましたが、鬼から逃げる子は短い距離を繰り返しダッシュすることで結果的にたくさんの距離を走ることになります。

ただ逃げるだけではなく、ときには複雑なフェイントを入れながら逃げるので、単純に何本も直線ダッシュをやらされるよりも楽しく走ることができます。いろいろな体の動きもできますし、子どもにとっては一番良い遊び、運動だと思います。

鬼ごっこ以外にも、学校の休み時間にドッジボールをやったり、鉄棒をやったり、野球ではあまり使わないような筋肉を動かすことができる運動はたくさんあります。そういったことが少しずつ、少しずつ積み重なっていくことで、走力や運動神経に良い影響を与えていくのではないでしょうか。

野球が上手くなるには、野球以外の運動を経験することが大切

野球のレベルが高校、大学と上がっていくにつれて、より高度な動きや反応、身体操作性が求められるようになります。ゴールデンエイジ期にいろいろな体の動かし方を経験している選手とそうでない選手とではここで大きな差が出てくると思います。

中学、高校に上がってからでは、ゴールデンエイジ期のように脳も体も習得してくれません。小学生時代に野球だけを突き詰めていって上手くなっても、いつかどこかで頭打ちになってしまうように思います。

だからこそアカデミーや少年野球の練習では、野球以外のいろいろな身体の動きを意識して積極的に取り入れる必要があると思っています。

野球が上手くなりたければ野球以外の運動もたくさんやることが大切です。それはいますぐ結果につながらないかもしれませんが、将来必ず役に立つ日がやってきます。急がば回れです。

 

 

弱小チーム出身の僕がプロ野球で活躍できた理由(聖澤諒)

弱小チーム出身の僕がプロ野球で活躍できた理由(聖澤諒、辰巳出版刊)

中学校時代の同学年のチームメイトは5名で公式戦では1 回戦コールド負け、公立高校でも同学年は2名で練習試合はほとんど勝てず…。
元東北楽天ゴールデンイーグルスの聖澤諒氏はプロ野球選手とは思えない経歴にもかかわらず、盗塁王や外野手無失策記録、WBC代表候補、そして球団初の日本一では中心選手として活躍した。本書籍はそんな聖澤氏の激レア野球人生を振り返るとともに、そこに至るまでの「考え方」に迫った一冊です。