目が合いにくい子の子育てに有効な「アイコンタクト+笑顔」 発達外来の専門医がすすめる習慣

西村佑美
2024.10.07 13:00 2024.10.11 11:50

笑顔の女の子

子どもと目が合ったら「ニコッ!」と笑う。それだけで子どもはうれしい気持ちになります。

人の目を見ることが苦手な、発達に特性のある子も、「アイコンタクト+笑顔」の習慣によって人の目を見ることに慣れるそう。

発達専門小児科医の西村佑美先生の著書『発達特性に悩んだらはじめに読む本』より、「アイコンタクト+笑顔」のうれしい効果についてご紹介します。

※本記事は、西村佑美著『発達特性に悩んだらはじめに読む本』(Gakken)より、一部を抜粋編集したものです。

「子どもと目が合ったらニコッ!」は言葉を使わない最高の注目ほめ習慣

目が合ったときに、ママ、パパがニコッと笑ってくれた! ただそれだけで、子どもは「ママ、パパは自分のことが好きなんだ」と喜びを感じます。人は、好きな相手と目が合うことで注目されたと気づきうれしくなるものです。

例えば、学生時代、好きな人と目が合って笑ってくれたとき、ライブで推しのアイドルと目が合い笑顔を向けてくれたとき…ふふ、想像しただけでうれしくなりますよね。

子どもと目が合ったら意識的に口角を上げる「アイコンタクト+笑顔」を習慣にすると、子どもは「ママ、パパの目を見る=うれしい」となり、人の目を見てコミュニケーションをとる習慣の種まきになります。子どもと目を合わせて笑顔でほめ言葉をかけるようにすれば、ごほうびとしてうれしさが倍増。「大好きなママ、パパの言うことを聞いてがんばってみよう」という素直さが育まれていくのです。

『発達特性に悩んだらはじめに読む本』より

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特性のある子は目を見るのが苦手。だけど経験して慣れることができる!

初対面の人に、突然目をじっと見られたら緊張するように、ASDタイプの子は、人の目を見ることが苦手な傾向があります。人の目は動いたり、まばたきをしたり常に変化するので、視覚情報のアンテナが強くて感受性豊かな子は、目を見ると緊張して疲れやすいようです。また、ADHDタイプの子は、人の目を見ることには抵抗がなくても好奇心アンテナの矢印がいろいろな方向に向いているので、気になるものが目に入ると視線がそれやすく、表情に注目できないことがあります。

ASDの特性について「感情が理解できない」「空気が読めない」なんてネガティブな表現をされることもありますが、人の目を見ることが苦手だからこそ、感情の理解、空気を読むことが苦手なのです。でも、「苦手だからできない」とあきらめないでくださいね。ASDの特性の強いお子さんでも、親子のアイコンタクトで「目を合わせる+うれしい」という経験を積めば、人の目をチラッとでも見ることに慣れることができます。

『発達特性に悩んだらはじめに読む本』より

「アイコンタクト+笑顔」の種まきから伸びる力

おしゃべりの力

人の目を見るのが苦手な特性をもつ子、コロナ禍で口元が隠れるマスク生活になってから生まれた子たちの中には、言葉がゆっくり伸びる子がいるようです(わが家の末っ子もそうでした)。言葉は聞くだけではなく、相手の表情、口元の動きもセットで見て理解し、発語につながっていくのです。目を合わせる習慣を強化すれば、相手の表情、口元の動きを見る機会が増え、おしゃべりの力も少しずつ伸びていきます。

感情理解の力

「目は口ほどに物を言う」ということわざがありますが、目を見ると相手が今どんな気持ちなのかが伝わって、感情の理解・共有ができるようになります。「空気を読まない発言」「一方的にしゃべり続けてしまう」のは、相手の目、表情を見ていないから。わが家の長男も好きなことを一方的に話し続ける時期がありましたが、私の目を見るまで待ち「相手の表情を見ながら話そうね」と伝えて、理解力を伸ばしました。

視線を追う力

親子の目が合う習慣がついてくると、お子さんはママのほうを見たときに「大好きなママが何か見て指さしているぞ」と気づき、その視線の先を追えるようになります。このような、いっしょに同じものを見る共同注意・三項関係の成立は、人と情報、感情を共有する楽しさを経験するコミュニケーションの発達の大きな一歩! 相手の目線を追うことで状況を理解する力にもつながっていきます。

『発達特性に悩んだらはじめに読む本』より

模倣(マネ)する力

模倣する力は、相手に注目する(注意を向ける)力から伸びていきます。ママが「バイバイ」と手を振ったら、子どももマネしてバイバイする。「はーい!」と手を挙げたら、子どもも手を挙げる…そんな動きを模倣(マネ)できることも、コミュニケーションが上達しているということ。相手の言葉をそのまま返す「オウム返し」も、言葉の模倣ができるようになったということなのです。

安心する力

人見知り、場所見知りで泣いてしまうのは、周りを見て「いつもと違う」と気づいて不安だから。そんなときに備えて日頃からママ、パパの目を見て安心する経験をたくさん積んでおきましょう。知らない人に会ったり、新しい場所に行ったりして緊張したとき、ふとママ、パパのほうを見ると「大丈夫」と笑っている。信頼している「ママ、パパが笑顔なら、ここはきっと大丈夫」と安心できるようになっていきます。

指示を理解する力

子どもと目を合わせず後ろから「着替えようね」と声をかけたときと、視界に入って目を合わせてから同じように声かけをしたときで反応の違いを確かめてみてください。目を合わせてから指示を出したほうが、反応がいいはず。親子で目を合わせてからやりとりする習慣は、やがて子どもが集団生活(保育園、幼稚園、小学校など)で先生に注目し、一斉指示を理解して動く力にもつながっていきます。

「アイコンタクト+笑顔」の習慣でほめ言葉が伝わりやすくなるだけでなく、こんなにもいいことがたくさんあります!

西村佑美

西村佑美

発達専門小児科医/一般社団法人 日本小児発達子育て支援協会 代表理事。

日本大学医学部卒。小児科専門医。子どものこころ専門医。日本大学医学部附属板橋病院小児科研究医員。三児の母。最重度自閉症のきょうだい児として育ち、障害児家族に寄り添える仕事がしたいとの想いから医師を志す。

2011年から日本大学医学部小児科医局に所属し、小児科医として大学病院に勤務。以降、のべ1万組以上の親子を診てきた。第一子出産後に発達障害についての専門性を深める中、自身の子にも発達特性があることが発覚。当事者家族として本格的な療育や知育、バイリンガル教育を行った経験を活かし、地方病院と大学病院で発達専門外来を新設する。しかし、医師という立場で育児の悩みに寄り添うことに限界を感じ、2020年「ママ友ドクターR」プロジェクトを始動。SNSでの情報発信や、主宰する「子ども発達相談アカデミーVARY」での活動等を通し、子育てに悩むママたちの支援を行ってきた。

2024年、特性に対する新たな価値観と支援の場を社会に生み出すことを目的に、一般社団法人 日本小児発達子育て支援協会を設立。

Instagram:@mamatomo_doctor

発達特性に悩んだらはじめに読む本

発達特性に悩んだらはじめに読む本』(西村佑美著/Gakken)

一般の小児科での診察や発達専門外来で、のべ1万組以上の親子を診た臨床経験、特性のある子の子育ての実体験をもとにした、医師&ママ目線でのアドバイス、指導を強みとした、西村佑美医師初の著書!