登山で「子どもを先に歩かせる」が絶対NGである理由 『子ども版 これで死ぬ』が教える山の原則

羽根田治(監修),藤原 尚雄(監修),松本 貴行(監修),山中 龍宏(監修),大武 美緒子(文)
2024.10.17 11:00 2024.10.18 11:50

登山道

※写真はイメージです

初心者向きの山であっても、命を落とす事故は起こります。山道で子どもを先に行かせるのが絶対NGな理由とは? 登山の前に学んでおきたい「子どもの命を守るための知識」を、書籍『子ども版 これで死ぬ 』よりご紹介します。(記事内の写真はイメージです)

※本稿は書籍『子ども版 これで死ぬ』(羽根田治 監修,藤原尚雄 監修,松本貴行 監修,山中龍宏 監修,大武美緒子 文/山と渓谷社刊)より一部抜粋・編集したものです。本記事の内容は同書より基本的な情報の一部を掲載しています。より詳しい情報は同書や、専門の解説書や講習会などをご参照ください。

ひとりで先に行って落ちる

宮崎、鹿児島県境の韓国岳(1700m)で、10月下旬、家族と登山に来ていた11歳の男の子が、2合目付近で「先に行く」とひとり山頂に向かったまま行方不明になりました。2日後、8合目付近、登山道をはずれた約3~6m下の枯れた沢で見つかり死亡が確認されました。死因は低体温症でした。斜面を転落しケガをして動けなくなった可能性があります。入山した日は晴れでしたが、翌日は強い雨風で登山口付近の最低気温は7℃でした。

死なないためには

子どもを先に行かせない

登山をする父と子ども

※写真はイメージです

初心者向きの山でも、子どもをひとりにする、大人より先に歩かせるのはNGです。また子どもにも、事前に一緒に登山用地図を見ながら、歩く予定のコース、注意する箇所、大人から離れないようにすることをしっかり伝えましょう。万が一はぐれてしまったら、できるだけ人の目につきやすい場所で動かずにいることを約束しておきましょう。

谷側を歩かせない

低山や初心者向きの山でも、登山道の谷側が崖になっている箇所があります。とくに小学校低学年ぐらいまでの子どもと歩く場合、大人が谷側を歩いてフォローし、子どもは山側を歩かせます。

下山時のリスクを考えた計画に

転滑落や転倒は、疲労で注意力が散漫になったときに起こりやすく、下山時に事故が多いのも特徴です。とくに子どもは、登りでオーバーペースになりやすい傾向があります。下山時に急斜面や危険な箇所を避けるコースにするのがポイント。下山時にロープウェイなどの乗り物を利用するのもおすすめです。

夏でも低体温症対策を

アクシデントで明るいうちに下山できなくても落ち着いて行動できるよう、日帰りでもヘッドランプはひとりに一つ持ちます。

標高の高い山に行く場合、夏でも防寒具を持っていきましょう。標高が100m上がるごとに、気温は0.6℃下がります。たとえば1000m地点で25℃だったとしても、2000mでは19℃、3000mでは13℃。風が吹くと体感温度はさらに低くなります。夏でも低体温症による死亡事故は、過去に何度も起きています。熱を生み出す筋肉量が少ない子どもは、大人に比べて低体温症になりやすい傾向があります。汗で濡れると、冷えて体力が奪われます。吸汗速乾性素材の登山用ウェアがあれば、安心で快適です。

【レイヤリングの基本】

●ベースレイヤー:
肌に直接触れるため、肌をドライに保つ吸汗速乾性のものを。素材がカナメ

●ミッドレイヤー:
おもに保温、汗、湿気を発散させる役割がある。季節によって長袖シャツやフリースなどをチョイス

●アウター:
雨や風から体温を奪わないように身を守る。登山用のレインウェアを携行しよう

山では体温調節をこまめにできる重ね着(レイヤリング)が基本。それぞれの役割にあったアイテムを選ぼう

晴れていてもレインウェアを持っていく

麓の街では晴れでも、山では雨ということも。晴れていてもレインウェアを持参します。観光地に売っているようなビニール素材の雨がっぱは蒸れるうえに、風にあおられてめくり上がってウェアが濡れてしまうため登山には向きません。上下セパレートタイプ、完全防水、透湿性素材の登山用のレインウェアは、外からの雨を防ぎ、内側の蒸れを外に出す仕組みになっています。防風、防寒も兼ねることができるため、子どもの普段の通園・通学、さらに防災用にも活躍します。

【著者・監修者紹介(順不同)】

大武美緒子

フリーライター・編集者。山と溪谷社で登山専門誌、ガイドブック編集に携わったのちフリーに。二児の子育て中、親子でアウトドアを楽しむ。

山中龍宏

1974年東京大学医学部卒業。1987年同大学医学部小児科講師。1989年焼津市立総合病院小児科科長。1995年こどもの城小児保健部長を経て、1999年緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。1985年、プールの排水口に吸い込まれた中学2年生女児を看取ったことから事故予防に取り組み始めた。現在、NPO法人Safe Kids Japan理事長。

松本貴行

横浜国立大学大学院教育学研究科修了。成城学園中学校高等学校保健体育科専任教諭。公益財団法人日本ライフセービング協会副理事長、教育本部長。溺水事故はレスキューよりも、いかに事故を未然に防ぐか?が最重要であると、日本で初めて水辺の安全を誰もが学べるICT教材「e-Lifesaving」を開発。内閣府消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。

羽根田治

フリーライター、長野県山岳遭難防止アドバイザー、日本山岳会会員。山岳遭難や登山技術の記事を、山岳雑誌や書籍で発表する一方、沖縄、自然、人物などをテーマに執筆活動を続けている。

藤原尚雄

1958年大阪府出身。大雪山系の麓で、大自然に囲まれた生活を謳歌している。雑誌『Outdoor』(山と溪谷社)の編集、専門誌『カヌーライフ』の創刊編集長を務めたのち、フリーランスとしてアウトドア関連および防災関連の雑誌、書籍のライターとして活動する傍ら、消防士、海上保安官、警察機動隊員などに急流救助やロープレスキュー技術を教授するインストラクターとしても活躍中。

子ども版 これで死ぬ

『子ども版 これで死ぬ 』羽根田治(監修),藤原 尚雄(監修),松本 貴行(監修),山中 龍宏(監修),大武 美緒子(文)/山と渓谷社

ベストセラー『これで死ぬ』シリーズの第2弾!

毎年、川や海など外遊びでの子どもの事故はあとを絶ちません。
しかし、外遊び中に出会う危険は、知っていれば避けられるものが多くあります。

本書では、「お菓子を拾おうとしておぼれる」「高波にさらわれる」「ランドセルが遊具に引っかかる」 など川・海・山・身近な公園で実際に起きた子どもの事故事例28を紹介。
それぞれの場所で事故防止策・安全啓発を発信しているプロの監修のもと、どうしたら事故を防ぎ、安全に楽しむことができるかを徹底的に解説しました。

また、各章の最後には、最も重要な安全の話がつまっている漫画解説付き。 子どもと一緒に、外で安全に遊ぶ方法について学ぶことができます。