ASDとADHDはどう違う? 発達障害は病気ではない? 専門医が親と周囲の大人に伝えたいこと
いまだに誤解されることが多い発達障害。そもそも発達障害とは?治せるもの?どんな困りごとを抱えやすい?といった基礎知識とともに、発達障害の子の感覚をアンテナに例えた解説を、発達専門小児科医の西村佑美先生の著書『発達特性に悩んだらはじめに読む本』より抜粋、編集してご紹介します。
※本記事は、西村佑美著『発達特性に悩んだらはじめに読む本』(Gakken)より、一部を抜粋編集したものです。
発達障害は病気ではない?
発達障害(神経発達症)は病気ではなく、脳の発達の個体差により生活で何らかの困りごとを抱えている状態のこと
この世界に自分と全く同じ顔、考え方の人はいませんよね。100人いれば100通りの脳の神経回路パターンがあって、それが多様性をもたらし、人類の進化につながるのだと考えられます。人それぞれ違いがあっても理解しようとコミュニケーションを取り、得意・不得意を補い合って社会はバランスを保っているのではないでしょうか(家族や友人、仕事の人間関係もそうですね)。
そもそも「発達障害(神経発達症)」は病気ではなく、脳機能の発達に関わる生まれつきの特性(特徴、個体差)。社会生活の中で何らかの困りごとを抱えている状態です。
いわゆる発達障害と呼ばれている子、その可能性が多少でもある子たちは、課題を見つけて練習・学ぶことでできることが確実に増え、大人の想像を超えて伸びてくれます。だから、私は「発達の障害ではなく、特性のある子どもたち」と呼びます。
このような子どもの多くは、0歳の頃は目立たないのですが、一般的に言語発達が進む1歳半~3歳、園で集団生活をする幼児期に発達の「特性」が見えてきます(場合によっては学童期、思春期、大人になってから気づくことも)。
しかし、発達特性は遺伝だけで決まるのではなく、生まれてからの育った環境(家庭、園・学校など)、経験・学習によっても脳の神経回路のパターンは変化。いろいろな要因が絡まり合って特性が表れてきます。
発達特性のある子を育てていると、「なぜ感覚過敏になるの?」「何で多動なの?」「普通じゃない!?」とさまざまな疑問が出てきますよね。わが子であっても親と子どもは別の脳の思考回路をもつ人間。ASDタイプとADHDタイプの発達特性を理解するための考え方のひとつとして、脳の発達の過程で起こる「シナプスの刈り込み」をアンテナに例えてご説明します。
発達特性のある子をアンテナに例えて理解!
人間の脳は、膨大な数の脳細胞同士が細い電線(神経)でつながって複雑なネットワークをつくり、全身に指示を伝達したり、全身から情報を回収したりします。送受信が可能なアンテナの集合体のようなものです。
ここでいう「アンテナ」本体は、脳細胞の例え。脳内のアンテナの先端から全身のすみずみに存在するセンサーにまでコードが伸びているイメージです。
全身のセンサーからの情報を受信して処理したり、指令を出したりするためには、脳内のたくさんのアンテナ同士をつなぎ、複雑で有用な構造に成長させる必要があります。アンテナ同士の接続部位がシナプス(脳細胞同士の接続部位の名称)。発達特性が関係するもののひとつに、脳の発達過程で起こる「シナプスの刈り込み」が関わっていると考えられています。
赤ちゃん
生まれたばかりの赤ちゃんは小さなアンテナだらけで、接続の仕方もシナプスの数もバラバラ! 生き抜くために周りの小さな刺激の全てに敏感! モロー反射、把握反射など無意識に起こる体の反応もあり、いろいろな言語を吸収する能力も。これらは未熟なうちは生存に不可欠ですが、成長とともにジャマで不要になるものも。
成長した多数派の子は…
成長とともに生活に必要のないアンテナは小さくなるか接続が消失(シナプスの刈り込み)。必要なアンテナは標準サイズ規格に成長するイメージです。だから、必要以上に情報をキャッチせず、アンテナの切り替えもスムーズ。ただし、バランスがとれているぶん、強みや個性が目立ちにくくなる面も。
成長した少数派の子は…
【ASDタイプ(傾向含む)例】
成長とともに生活に不要なアンテナは消えつつも、一部は残るか規格外に成長! 情報のキャッチ力、細かいことに気づく力があり、好きなことはとことん探究する学者さんタイプに。けれど、感覚アンテナが過敏になったり、対人アンテナが小さいままだったりしてコミュニケーションに課題を抱えることも。
【ADHDタイプ(傾向含む)例】
成長とともに消えるはずの好奇心アンテナがたくさん残るのがADHDタイプ。いろいろ気になって思い立ったら即行動する多動力、アンテナ数からくる好奇心や発想力は、これからの時代に不可欠な能力ともいえます。しかし、幼少期はじっとしていられないために怒られることが多くなり反抗的になることも。
「障害だから治そう」から、弱みと強みをセットで捉えて「特性を活かそう」という時代に
発達障害(神経発達症)は“治そう“という考え方から、その子の発達特性を理解して「弱み」と「強み」をセットで捉え、“活かそう“という前向きな考え方に変わってきています。
近年、世界のビジネス・教育の分野で注目されている「ニューロダイバーシティ」(脳・神経の多様性)という概念を知っていますか? これは、「脳や神経、それに由来する個人レベルでのさまざまな特性の違いを多様性と捉えて相互に尊重し、それらの違いを社会の中で活かしていこう」という考え方です。
一般的な発達をする、いわゆる定型発達の人たちは「多数派」、発達特性のある人は「少数派」とされています。
この少数派の中に、AIに負けない革新的で創造的なアイデアを生み出し活躍できるような子が隠れています(発達特性がある=天才ではないですが、何らかの能力を発揮できる可能性が十分あると思っています)。
特性のある子の子育ては手がかかって大変ですが、私たちはキラリと光る感性の芽を出す種を育てているかもしれないのです! なんだかワクワクしてきませんか?
また、経済産業省でも企業の成長戦略としてニューロダイバーシティを推進。「未来人材ビジョン」では若い世代に求める能力として、
・「変化を恐れず、新しい挑戦を続ける力」
・「創造力と探求する心」
などが挙げられていて、読み・書き・計算など勉強ができればいい…という昭和時代からの”いい子像”から大きく変わってきたことがわかります。
例えば、お絵描きや工作を楽しんでいたら、画材や廃材などを用意して創作しやすい遊びの環境に整えたり、美術館に出かけたり。歌やダンスが好きならミュージカルに行ったり、習い事をはじめてみたり。宇宙に興味をもちはじめたらプラネタリウムに行く、宇宙に関する図鑑や絵本を読み聞かせるなど、子どもの好き・興味を伸ばすために親ができることはどんどんしていきたいですね。
『発達特性に悩んだらはじめに読む本』(西村佑美著/Gakken)
一般の小児科での診察や発達専門外来で、のべ1万組以上の親子を診た臨床経験、特性のある子の子育ての実体験をもとにした、医師&ママ目線でのアドバイス、指導を強みとした、西村佑美医師初の著書!