遅刻=ルーズとは限らない? 遅刻しやすい子が直面している「乗り越えられない壁」
子どもが遅刻を繰り返し、「正直毎日しんどい」と悩む親御さん。しかし、遅刻しやすい子には、その子なりの深い事情が隠れていることもあるようです。
ポットキャストの人気番組『子育てのラジオ「Teacher Teacher」』のMC、福田遼さん、秋山仁志さんが解説する「遅刻の防ぎ方」を、お二人の著書より抜粋してご紹介します。
※本記事は福田遼,秋山仁志『先生、どうする!?子どものお悩み110番』(PHP研究所)より一部抜粋・編集したものです
Q 娘の遅刻癖が直りません
長女は遅刻に対してあまり悪い印象がないみたいです。幼稚園の年少の頃から登園時間に間に合わないことがたまにあり、小学校に入った今も同様です。起こしてほしいと言われているので、起きるまで何回も起こすのですが、起きません。何度も起こしていると、大泣きしてすごく不機嫌になります。学校からも「育児が大変そうだけど大丈夫?」と心配されていて、正直毎日しんどいです。朝の起こし方や遅刻に対しての向き合い方で、何か良い方法はありますか?
A トークンシステムで行動を整えよう
遅刻する人=ルーズな人とは限らない
ひとし:お子さんの遅刻癖についてのお悩みですね。これは学年にかかわらず結構お悩みの方も多そうだね、中高生とか。
はるか:うんうん。お悩みの冒頭で「遅刻に対してあまり悪い印象がないみたい」っておっしゃっているよね。でも僕は、遅刻が悪いことも、遅刻しないほうがいいこともお子さんはわかってると思うんです。だけど、起きられない。つまり、そこに「乗り越えられない壁」があるんじゃないかな、だから乗り越えるお手伝いをしてあげたい、と思いました。
ひとし:なるほど、はるか先生はそう考えるんだ。
はるか:ひとつ遅刻に関するおもしろい話を聞いたことがあって。遅刻しがちな人1万人を集めて性格を調査してみたら、なんと、ルーズな性格の人はたった19%で、残りの81%はルーズな性格ではない、という結果だったそうなんです。
ひとし:えっ、意外! 遅刻する人=ルーズな人って印象あるのに。
はるか:そうだよね。どうしても、遅刻する人を見たら「だらしない!」「甘えだ!」とかって原因を単純化して、個人を責めるだけになることが多いと思うんだけど、それじゃあ解決策は見えてこない。だから、もっときっかけや原因を見つめ直して、どうすれば改善できるのかを考えるのが重要だと思うんですよね。
ひとし:なるほど、抽象的な言葉で片付けない。
遅刻しやすい人が「乗り越えられない壁」とは
はるか:そうそう。それで、実際に遅刻する人が直面している「乗り越えられない壁」はなんだろう、といろいろ調べてみたんです。そこで、「こども発達支援研究会(※1)」という団体の資料を見つけて。主にADHD(※2)の人の特性に言及したものなんだけど、そうでない人にも参考になる部分があると思ったので、ちょっと紹介させてください。
遅刻しやすい原因の一つめは、不注意による忘れ物。モノを捜したり、整理したりするのに時間を取られて、気がつくと遅刻しちゃうってパターンですね。
そして二つめが、ドーパミンの調整が困難だということ。多くの人は、興味関心がなくても「今日は学校がある日だ」とか、ある程度の動機があれば、ドーパミンが出て、体が動くようになっているそうなんです。でも、そのドーパミンの調整が難しい人もいて、本当に興味関心の高いことにしかドーパミンが分泌されない。だから、そもそも体が動きにくいんです。
ひとし:なるほど、遅刻がどうってより、もう体が動かないんだ。
はるか:そうそう。三つめが、脳の報酬系に困難があって、目の前の報酬(やりたいこと)をどうしても我慢できないパターン。たとえば、虫を見つけたらのめり込んじゃうとか、テレビを観ちゃったら離れられないとか。
これを知ると、遅刻や寝坊を単純に「気合いが足りん」とか「甘えだ」と考えるのはちょっと違うかもって思えませんか? 本人の頭の中では、こんな葛藤があって、毎朝サバイバルな状態で準備しているのかもしれない。お悩みの娘さんは、こんな状態に近いんじゃないかな、と思いました。
ひとし:娘さんは遅刻がダメだと思ってないんじゃなくて、もしかしたらダメだとわかってて葛藤してるのかもってことか。
※1 こども発達支援研究会:一般社団法人。専門家や研究者によって明らかになった発達支援の知見を、現場で活用できるよう、ノウハウを蓄積していくことを目的に、特別支援教育士や公認心理師などのメンバーで運営されている。
※2 ADHD:注意欠如・多動症。不注意や多動性、衝動性を特徴とする神経発達症。学校教育では、通級による指導の対象とされる。
朝に「喜び」をつくることなどがおすすめ
はるか:そうそう。そこでまず、明日からできる方法として、小児科専門医の成田奈緒子先生(※3)が紹介されていた、朝に喜びをつくる方法を紹介したいと思います。さっきの二つめの原因を逆手に取ると、興味関心の高いことではドーパミンが分泌されやすかったりするんだよね。だから、その特性を利用して、たとえば子どもの好きな音楽や動画、おもちゃと共に起こすとか、そういう楽しみを用意して朝を迎えるんです。
ひとし:なんかクリスマスのプレゼントがあるから早起きしちゃうのと似てるかも(笑)。
はるか:たしかに! 毎朝プレゼントを用意するみたいな感じかも。
実際、最近個別相談を受けてる中学3年生の子をもつ親御さんに、この方法を紹介したんですよ。中3だとおもちゃとかはもう使えないので、お子さんご自身に「何がいい?」と聞いてみたら「朝ごはんがテンション上がるものだったらいいかも」と。それで「明日は一緒に朝ごはんを買いに行こう」と決めたら、次の日は起きられて、朝ごはんを一緒に食べたんだそうです。それ以来、このやり方がすごくうまくいってるみたいで、「週5日も起きられました!」と喜びのメッセージをもらいました。
ひとし:すごいね、本当に効果あるんだ!
はるか:そうなんよ! もう俺もめちゃくちゃうれしくて!
でも、もちろん中には、これだけじゃ改善が難しい子もいると思います。最初はいいけどなかなか続かなかったり。
ひとし:そういう人はどうしたらいいの?
はるか:「トークンシステム(※4)」という方法がおすすめです。トークンっていうのは、ポイントのようなもの。たまったら何かと交換できますよ、という仕組みです。学校ではよくシールを使っていました。
ひとし:なんかラジオ体操のスタンプみたいだね。
はるか:まさにそう! たとえばこの娘さんだったら、まず「朝遅刻せずに登校しよう」という目標を立てる。それが達成できたら、一つシールをもらえる。そしてシールが10個たまったら、大きなシールがもらえるようにする。大きなシールが三つたまったら、何か好きなことをしようね、とかって楽しみをつくるんです。
ひとし:なるほどね、その楽しみも一緒に決めるのがいいの?
はるか:そうそう。「〇〇にお出かけしよう」とか「カードを一緒にやろう」とか、その子にとっての楽しみをつくるのが大事です。
子どもは、シールをもらえるってだけでもモチベーションが上がるし、「大きいシールをもらう」「〇〇に行く」と目標が明確に可視化されると、よりやる気を出してくれます。親御さんにとっても「今日、目標クリアできたね」という励ましにプラスして、「こんなにシールたまったね!」とか、毎日お子さんの成長を認める時間を持てたり、コンプリメント(褒め言葉)を増やして継続できるって良さがあるんだよね。
ひとし:たしかに楽しく続けられそうかも。でも、これってちょっと報酬で動いてる感じがしない? 子どもの心は変わってないっていうか……。
はるか:そうそう、最初はね。でも、今回のように「まずは行動を整える」ことが大事になる場面もたくさんあると思うんです。「できた」という成功体験が積み重なることで、自信もつくし、生活リズムも整っていく。そうして「時間を守ったらこんな良いことがある」と実感していくことで、子どもも時間を守ることの大切さを本当の意味で理解していけるはずです。
ひとし:なるほど、行動を変えることを通して、心を変えていこうってことか。たしかに、俺も部活で半ば無理やり挨拶がんばるようになったら、先生から「君いいね!?」って褒められるようになって、挨拶大事なんだなって学んだ気がする。
はるか:そうそう! 子どもの心に働きかけるのはすごく大事だけど、行動をコントロールできるようにサポートしてあげることも大事。心へのアプローチと行動へのアプローチは、子育てや教育における両輪なので、どちらも大切にしていきたいよね。
※3 成田奈緒子:小児科専門医。臨床医、研究者として活動しながら、さまざまな知見を融合した新しい子育て理論を展開している。2014年より子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表。参考文献『「発達障害」と間違われる子どもたち』(成田奈緒子著、青春出版社)
※4 トークンシステム:トークンと呼ばれる報酬を活用して、子どもたちの望ましい行動を強化する行動療法。療育の現場や、通常の学級運営などで広く取り入れられている。
はるか先生のワンポイント
遅刻せずに済むように、「楽しみ」をつくってあげよう!
ポイントと報酬の「トークンシステム」で、モチベーションを高めてあげるのも一つ。
『先生、どうする!?子どものお悩み110番』(福田遼,秋山仁志/PHP研究所)
「JAPAN PTODCAST AWARDS」大賞・教養部門、2冠!
大人気ポッドキャスト「子育てのラジオ『Teacher Teacher』」、初の書籍化!
子どもにガミガミ怒ってばっかりの自分に、ドンヨリ。 うちの子の将来、このままでだいじょうぶかな、と不安になる……。そんなモヤモヤとした気持ちを抱えるすべての親御さんに届けたいーー。
元小学校教師のはるか氏と、友人でラジオ番組プロデューサーのひとし氏の二人が、子育てに悩める親御さんの気持ちに寄り添い、「明日やってみよう」と思える、22の「神回答」をお届けします。