園の先生が実践している 「見取り」って? 子どものささやかな成長を見逃さないスキル

中山芳一
2024.10.29 15:02 2024.11.11 11:50

肩車をする親子

子どもの成長の瞬間は、何気ない遊びの中に隠れています。しかし、それを見逃さず捉えるのは、意外と難しいもの。

こども園や学童保育所の先生たちが実践する”見取り”を参考に、子どもの遊びを新たな視点で観察する方法を、中山芳一先生の著書『マンガでやさしくわかる非認知能力の伸ばし方』より抜粋して紹介します。

※本稿は、中山芳一著『マンガでやさしくわかる非認知能力の伸ばし方』(日本能率協会マネジメントセンター)から一部抜粋・編集したものです。

非認知能力レンズを使って見取ってみよう!

木登りをする子ども

みなさんは、こども園の先生たちや学童保育所(放課後児童クラブ)の先生たちのお仕事ぶりをご覧になったことはありますか? 
こども園や学童保育所の優れた先生たちは、一見、子どもたちと一緒に遊んでいるだけのように見えて、その中で子どもたちのちょっとした出来事を見逃さずに、そのときどきで対応したり、あったことをお迎えのときの保護者に伝えてくれたりしてくださいます。
じつは、これってとても難しいことなのです。

たとえば、学校で授業をするときには、授業の目標が明確にあって、その目標に対して子どもたちがどのような状況なのかを教師は見ていきます。
わかりにくそうにしていたら、この子はこの授業の目標に到達していないと気づき、わかるようになるための手助けをしますよね。
目標がはっきりしていると、何を見ていけばよいのかもわかりやすいのです。

一方、子どもたちが遊んでいる状況ではどうでしょうか? 
先ほどの授業のように、はっきりとした目標はありません。
つまり、この遊びでどうしても身につけてほしい力などが明確にあるわけではないのです。
そんな目的意識みたいなものを大人側が前面に出せば出すほど、子どもにとっては遊びではなくなってしまうことがおわかりでしょうか。
なぜなら、子どもたちはただ楽しいから、ただやりたいから遊んでいるだけなのです。

遊んだ結果として、体力がついたり、技術が身についたり、なんらかの非認知能力を伸ばせたりするのであって、初めからなんらかの力を身につけることが目的にはなっていません。
そんな遊びの時間、大人たちはいったい子どもたちの何を見ることができればよいのでしょうか?
この問いに対して大いに参考になるのが、先ほど説明したこども園や学童保育所の先生たちがやっている「見取り」です。

私たちの目の前で、子どもたちがそれぞれに好きなことをやっているとします。
その中で、「おやっ! あの子ってこんなことができるようになったんだ!」とか「あの子たち、仲よくなってきたなぁ!」とか「最近、あの子は元気がないなぁ……」とか……いろいろなことに気づけるのが、教育や保育、福祉の従事者のような専門職の方々です。

さらに、その上でどうしてあの子ができるようになってきたのだろうか、あの子の元気のなさは何が原因なのかなどについて探ることもできるだけでなく、今後はどうやって関わっていけばよいのかなどの見とおしを持つこともできてしまいます。
もう少し言うならば、優れた先生であればあるほど、ほかの人には気づかないことにも気づけたり、理由や原因の探り方も、関わりの見とおしについても深みがあったりします。
もちろん、これは優れた学校の先生たちにも同じことが言えるでしょう。

遊具で遊ぶ男の子
なぜ、こうした先生方にはこのような見取りができるのでしょうか? 
じつは、私たちは自分にとって重要だと思った情報を選択して、そこに注意を向けているってご存じでしたか? 
たとえば、普段は道路を走っている車に対して特別な注意を向けていなかったのに、今度、新車の購入を決めたとなると、急にその購入予定の車が町中を走っていて、やたらと気になった経験はありませんか? 

これは、私たちの中に当たり前のように備わっている脳の機能なのです。
この機能を上手に活用して、あらかじめ自分の中で何に注意を向ければよいのかをはっきりさせていくと、ほかの人たちには気づけないことでも、気づけるようになります。
このあらかじめ自分の中で注意を向けるように設定したものを、観点とかレンズと呼んでいます。
このレンズさえあれば、子どもたちが何気なく遊んでいる中であっても、その子のちょっとした素敵なところや成長、逆に気がかりなところに気づけるようになるでしょう。

つまり、みなさんがあらかじめそのレンズを持っておくことが大切になってくるわけですが、ここでおすすめなのが、3つの非認知能力、つまり「自分と向き合う力」「自分を高める力」「他者とつながる力」です。
この3つの非認知能力をレンズにして、お子さんたちの遊びや日常生活の姿を見取ってあげてみてはいかがでしょうか? 

このときに、くれぐれも注意していただきたいのは、お子さんが何かをやったあとの結果ではなく、常にお子さんが何かをやっているときのプロセス(過程)で見取ってあげてください。

得てして、結果は「できた/できなかった」という2択でしかお子さんに返すことができません。
できたときは「できたね、よかったね!」になるでしょうし、できなかったときは「できなかったね、次がんばろうね……」になるでしょう。
しかし、先ほどの見取りは、こうした結果そのものをフィードバックするのではなく、その結果に向かって取り組んでいるお子さんのいろいろな価値を見出すことなのです。

だからこそ、ぜひお子さんの行動のプロセスで、あきらめずに粘り強く取り組んでいる姿(自分と向き合う力レンズ)や積極的で前向きに挑戦しようとしている姿(自分を高める力レンズ)、友達と教えあったり励ましあったりしている姿(他者とつながる力レンズ)を見取ってみてくださいね。

中山芳一

1976 年1月、岡山県岡山市生まれ、All HEROs 合同会社 代表、IPU 環太平洋大学 特命教授、元岡山大学 准教授(教育方法学)



岡山大学教育学部卒業後、1999 年当時は岡山県内でたった一人といわれた男性の学童保育指導員として9年間従事。そこから学童保育の研究の必要性を確信して、教育方法学研究へ方向転換をする。以降は、幼児教育から学校教育まで、さまざまな教育現場で実践研究を進めるとともに、大学ではキャリア教育を中心に実践してきた。こうした経験から、「非認知能力」の大切さと育成のあり方について全国各地で提唱するようになる。2024 年8月には岡山大学を退職。日本の教育や保育を元気にしていくためのAll HEROs 合同会社の代表として、ますます精力的に活動の幅を拡げている。