自閉症の療育は「質より量」が効果的!専門家がおうち療育を勧める理由

今川ホルン
2024.11.11 14:53 2024.11.13 11:50

笑顔の子

自閉症の診断は3歳まで様子見、いざ療育に通ってもなかなか効果がみえず…そんな療育の実情をふまえて、今川ホルンさんが親御さんに「質より量のおうち療育」を勧める理由とは?

発達科学コミュニケーションマスタートレーナーで、自閉症児の母でもある今川ホルンさんの解説を著書よりご紹介します。

※本記事は、今川ホルン著『脳を育てれば会話力がみるみる伸びる! ことばが遅い自閉症児のおうち療育』(パステル出版)より、一部を抜粋編集したものです。

「3歳まで様子を見ましょう」に現れる日本の実情

子育てに悩む母親

アメリカではことばがゆっくりな自閉症児に対し、1歳から週20時間の早期介入を始める療育プログラム『ESDM(Early Start Denver Model=アーリースタートデンバーモデル)』が展開されています。近年日本でも『ESDM』が紹介され、自閉症児に対して1~3歳のうちに始める早期の専門的な介入が大事であることが知られるようになってきました。

しかし実際にママたちの声を聞くと、1歳半健診でことばが出ていなかったけれど、「しばらく様子を見ましょう」とか「3歳を過ぎないと診断をつけられないので、誕生日がきたらまた受診してください」などと言われてしまうケースが日本ではまだ多いのが現状です。

また、公費で児童発達支援事業所に通い療育を受けることが主流ですので、療育施設に通うための通所受給者証取得に時間がかかり、療育施設の見学や空きを待つのに半年や1年かかってしまうことも珍しくありません。

地方格差もあります。3歳になった私の娘がことばが出ないと悩んでいた当時、市内にある療育施設は市立の児童発達支援センターだけで、「週5で毎日9時から14時に通える子しか受け入れません」と言われてしまいました。

市役所から市外の民間療育を紹介されましたが、とても働きながら通わせられる距離ではないうえに、土曜日は満員で、施設での療育を諦めた経験があります。

「3歳まで様子を見ましょう」と言われてしまうこと、そして3歳を過ぎても思うように療育に通えないことなど、自閉症児の療育に関する日本の課題は山積しています。

「療育に通っていればいい」というわけではありません

男の子

私はこれまでに、子どもの発語に悩む親御さんの相談を400件以上受けてきました。

その大半が「療育施設に通っていても思うように伸びない」というものでした。大きな理由として、次の3つが考えられます。

伸びない理由 1:療育の量が圧倒的に足りない
子どもの未熟な脳を育てる療育は、質より「量」がものをいいます。脳への刺激が少なければ、脳が発達する機会も減るということです。週に1回30分~1時間の療育だけに頼ってしまうと、どんなに通わせても、圧倒的に「量」が足りず、成果が現れにくいのは当然です。

伸びない理由 2:親が焦るあまり叱ってしまう
「先生の前では席に座って課題に取り組めるのに、家では食事のときでさえ座ってくれません」と悩んでいる親御さんは多いです。「園ではできています。家だと甘やかしているのでは?」と言われ、傷ついている方を私もたくさん見てきました。
家では言うことを聞いてくれないわが子に焦り、イライラして怒ってしまうと、さらに子どもが言うことを聞かなくなる……という負のループに陥ってしまいます。こうなると、子どもの脳はなかなか伸びません。

伸びない理由 3:療育に任せきりで安心してしまう
「頑張って療育施設に通わせているのだから成長するだろう」と先生任せでは、うまくいきません。
本来ことばの訓練は、家庭での練習が不可欠です。
ピアノだって、家で練習せずに週1回教室に通っただけでは、なかなか上達しませんよね。療育に通っているから安心とばかりに、家ではスマホを見せっぱなし、叱りっぱなしでは、療育の効果は半減してしまいます。

療育は質より「量」がものをいう

ママの話を聞く子

年間約24時間VS 年間約3000時間―。

この数字が何を指しているか、皆さんはおわかりになりますか?

これは私の娘が年長時に児童発達支援事業所で受けていた療育と、おうち療育に切り替えた後の療育にそれぞれ費やした時間の比較です。その差はなんと年間で100倍以上。これに気づいたとき、私は愕然としました。

娘が年長のときに通っていた療育は、30分間の子どもへの介入に15 分間の親への振り返りの時間が設けられていました。フルタイムで働く私は、なんとか有休を使いながら週1回の療育に連れていくことが精一杯。にもかかわらず、娘の療育は1カ月に2時間、年間わずか24時間でした。

その後、小学校入学とともに児童発達支援事業所での療育は終了。7歳のときに自宅で脳を育てるコミュニケーションメソッド『発達科学コミュニケーション』に出会い、おうち療育をスタートさせます。おうち療育と言っても、教材や道具は一切使いません。特定の時間を設けてみっちり療育をするよりも、日常生活の中で脳が育つ声かけを散りばめることが大事だと、このとき私は学びました。親子で共に過ごす時間に親の声かけを変えるだけで、子どもの脳がぐんと伸びるのです。

ざっくり計算してみると、娘が学校に通っている日は朝1時間と夕方~夜の5時間で計6時間、休日は起きている時間の約14時間が、おうち療育の時間になります。つまり、『発達科学コミュニケーション』を実践するだけのおうち療育の時間は週約58時間で、月約232時間を超え、年間約3000時間に達していたのです。

子どもへの療育は、質より「量」がものをいいます。なぜなら、子どもの脳はまだ完成されていない未熟な脳だからです。「量」の問題を解決するには、ここでママやパパがひと肌脱ぐことが最も効率的です。

英会話と同じです。週1回30分だけ有名な先生の英会話レッスンを受けるよりも、日常的に家族が英語で話す環境のほうが、明らかに上達が早いはずです。

娘が小学2年生になるまで、私は児童発達支援事業所に勤める臨床心理士でした。療育施設の心理職という立場からみても、おうちでの療育は大事だと考えます。なぜなら、療育に来たお子さんが私の前ではできても、おうちだと思うようにできないことが往々にしてあったからです。

たまに会う私の前では椅子に座ったり、絵本を読んだりできていても、おうちでは言うことを聞かず、癇癪を起こします。結局、ママが悩み果てイライラして怒ったあげく、子どもがまた癇癪を起こすという悪循環を繰り返すのです。

子どもにとって一番身近にいる大好きなママやパパとの肯定的なコミュニケーションが最良の療育です。年齢は何歳からでも可能ですし、施設での療育と併用するのも効果的です。

おうち療育でことばを伸ばすのはもちろんですが、脳を育てるコミュニケーションが目指すのは、自信や意欲、人と関わりたいという欲求を高めることです。叱りつけるばかりの否定的な声かけをやめ、できたところに注目する肯定的な声かけに変えると、嫌がって療育施設の部屋に入れなかったお子さんが、先生の前でも新しいことに挑戦したり、「できた!」の気持ちを共有できるようになったりと、大変身します。

施設療育の効果を高めるためにも、一緒におうち療育を活用してほしいと思います。

今川ホルン

発達科学コミュニケーションマスタートレーナー。
帝京大学大学院修了。臨床心理学修士。公認心理師。株式会社ここから発達らぼ代表。
自閉症の長女を含む3児の母。埼玉県の病院で臨床心理士として働く中で長女を出産し、長女の自閉症の診断をきっかけに児童発達支援事業所に勤務する。その後、発達科学コミュニケーションに出会い「家での親の声かけ」が自閉症の子を伸ばしていくと確信。発達科学コミュニケーションのマスタートレーナーとして活動する。
わが子のことばの遅れに悩むママやパパに対し、子どものことばを伸ばすおうち療育『自閉症専用3カ月おしゃべり上達メソッド』を教えるとともに、トレーナーを育成している。

Instagram:@horn.imakawa

脳を育てれば会話力がみるみる伸びる! ことばが遅い自閉症児のおうち療育

脳を育てれば会話力がみるみる伸びる! ことばが遅い自閉症児のおうち療育』(今川ホルン著,パステル出版)

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