「子どもをつい叱ってしまうクセ」を変えるには? 意識するだけで誰でもできる予防法

村中直人
2024.12.10 12:24 2024.12.10 12:24

イライラするお母さん

子どもをつい叱ってしまうことはありませんか?
叱るような事態は、事前の工夫で予防することができるそうです。何を意識すれば「叱る」を手放せるのでしょうか。

臨床心理士の村中直人氏と、元横浜創英中学・高等学校校長/元東京都千代田区立麹町中学校校長の工藤勇一氏の対話を『「叱れば人は育つ」は幻想』から紹介します。

※本稿は、村中直人著『「叱れば人は育つ」は幻想』(PHP研究所)から一部抜粋・編集したものです。

予測力を高めると「叱る」は減らせる

会話する夫婦と子ども

【村中】「叱る」を手放すためにできることで、しかも意識するだけで誰でもできるようになることに「予測力を高める」ことがあると思っています。

「叱る」というのは、トラブルが起きてからやることです。事が起きてからいろいろ言うのではなくて、「こういうときにはこういうことが起こりそう」とあらかじめ予測して、事前に注意喚起するとか対処法を工夫しておくことで、叱るような事態を予防することができます。

トラブルが起きてからだと、焦ったりパニックになったりしてつい叱ってしまいやすいのですが、事前に予測できていれば気持ちに余裕ができます。

問題への対応がうまくいけば成功体験として次に活かすことができますし、仮にうまくいかなくても、何がいけなかったのかを整理して次の予測の精度を高めるための材料にすればいいわけです。

【工藤】そうですね、予測力は大事です。想像力を働かせられるようになるということですから。予測精度が上がると、ストレスも減らせます。

「叱る」よりもはるかに効果的なサポート

食卓の親子

【村中】ええ。もう一つ、これも事前の工夫としてできることがあります。

私は発達障害とカテゴライズされることの多い「神経学的に少数派の人たち(ニューロマイノリティ)」への支援や、その支援者養成も行っているのですが、この領域では、不適切行動が起きる背景には「未学習」か「誤学習」、どちらかの状況があると考えます。

未学習とは、その場でどう振る舞えばいいのかを「まだ知らない」、あるいは教えられたけれども実践できるようになるまでには「身についていない」状態です。

誤学習には、「不適切な振る舞いを学習している」、あるいは「不適切な振る舞いをすることに何らかのメリットがあると感じて、わざとそうしている」場合などがあります。

未学習であるなら、どうするのがいいのかを説明し、そのやり方を身につける手伝いをしてあげればいい。誤学習であるなら、誤って身につけてしまった方法を他の方法に置き換える手伝いや、適切な行動をすることでより大きなメリットがあることを教えてあげればいい。こういう考え方をします。

つい叱ってしまう状況も、「これは未学習だからできないのではないか?」とか、「これは誤学習のために、やろうとしないのかもしれない」と考えて、サポートすればいいのです。意識と行動を変えるのに「叱る」よりもはるかに効果的です。

【工藤】大人であれ、子どもであれ、課題を解決する力をつけるには経験の積み重ねと訓練が必要です。何度も間違えたり失敗したりしながら、試行錯誤してその力を獲得していけばいいんです。「間違えちゃいけない」「失敗しちゃいけない」なんて思っていたら、何も身につきませんよ。

工藤勇一

元横浜創英中学・高等学校校長/元東京都千代田区立麹町中学校校長。
1960年、山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県中学校教諭、東京都中学校教諭、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長等を経て2014年4月〜2020年3月末まで千代田区立麹町中学校校長。2020年4月〜2024年3月末まで横浜創英中学・高等学校校長。公職として、教育再生実行会議委員(2018年8月〜2021年8月)、内閣府規制改革推進会議専門委員(2021年8月〜)。

X:@KudoYousan

村中直人

1977年、大阪生まれ。臨床心理士・公認心理師。一般社団法人子ども・青少年育成支援協会代表理事。Neurodiversity at Work 株式会社代表取締役。
公的機関での心理相談員やスクールカウンセラーなど主に教育分野での勤務ののち、子どもたちが学び方を学ぶための学習支援事業「あすはな先生」の立ち上げと運営に携わり、発達障害、聴覚障害、不登校など特別なニーズのある子どもたちと保護者の支援を行う。
現在は人の神経学的な多様性(ニューロダイバーシティ)に着目し、脳・神経由来の異文化相互理解の促進、および働き方、学び方の多様性が尊重される社会の実現を目指して活動。「発達障害サポーター'sスクール」での支援者育成に力を入れているほか、企業向けに日本型ニューロダイバーシティの実践サポートを積極的に行っている。

X:@naoto_muranaka

「叱れば人は育つ」は幻想

「叱れば人は育つ」は幻想』(村中直人著/PHP研究所)

「叱らなければ人は育たない」という呪いから、なぜ抜け出せない? 各界の識者との議論から〈叱る依存〉社会からの脱却法を模索する。