子どもを厳しく叱る必要ってあるの? 児童精神科医が出した答え

精神科医さわ
2024.04.05 16:56 2024.04.17 11:40

悩みを抱える男の子

忙しい時に限って問題を起こしたり、何度注意しても聞かなかったり…そんな時は、子どもを厳しく叱らなければ、という意識が働きがちです。しかし「厳しく叱ること」は本当に子どものためになるのでしょうか? 児童精神科医の精神科医さわさんが解説します。

※本稿は、精神科医さわ著『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること 』(日本実業出版社)から一部抜粋・編集したものです。

否定から自信をなくし、人を信じられなくなる負の連鎖

悩みを抱える女の子

「アダルトチルドレン」とは、「adult children of alcoholics」の略語で、もともとはアルコール依存症の親のもとで育った生きづらい方たちのことを指した言葉です。現在は、虐待やネグレクトなど、子どもが安心して暮らすことができなかった生活環境、つまり機能不全家族で育ち、生きることが苦しいと感じている人たちのことまでふくみ、言葉の意味が広がってきています。

「アダルトチルドレン」は医学的な診断名ではありませんが、実際に子ども時代の家庭環境の影響によって、大人になってからも、なにかに依存的であったり、自己のアイデンティティが不安定だったり、感情が不安定だったり、他人を信じられないなど、さまざまな苦しみを抱えている方を指す言葉として使われています。

ネグレクトや暴力、虐待、アルコール依存症などの親のもとで育った人だけではありません。はたから見ているぶんには親御さんがしっかりしていそうな家庭でも、子どもに対するしつけが厳しすぎる環境で育った人は、「アダルトチルドレン」と言われる特徴を持つことがあります。

たとえば、親から人格を否定するような言葉をかけられ続けて育った人。
「あんたはなんてダメな子なの」「バカ」「ウソつき」「なまけもの」など、小さいころから人格を否定するような言葉をかけられ続けた子どもは、どうせ自分はダメな人間だと思い込むことがあります。

そのままの自分でいいと思うことができませんから、自分に自信がなくなるだけでなく、他人を信じられなくなることもあります。

ただ、厳しいしつけをしている親御さんに話を聞くと、よく「厳しく叱るのは、子どもが将来困らないためです」とおっしゃいます。でも、そもそも子どもを「厳しく」叱る必要ってあるのでしょうか。

どんなときに怒ってしまいそうになるか、振り返ってみてください

思春期のイメージ

そうは言っても、私も怒りのまま感情的に怒鳴ってしまったことが以前はありました。でも、よくよく振り返ってみると、子どもに怒ってしまうときというのは、別のなにか(人であったり、物事)に不満があるときかもしれないと気づいたんですよね。

たとえば、私が怒ってしまいそうになるのは、スケジュールに追われているときです。急いでやらなければならない仕事や提出期限に追われているものがある状態では、怒りの沸点が低くなってしまう(怒りやすくなってしまう)ことがあります。

そのような傾向が自分にあるとわかり、あるとき、子どもに怒ってしまったあと、「さっき怒っちゃったのは、あの件をずっと先延ばしにしているからだ」というように振り返り、なるべく時間に追われないように気をつけるようにしました。以降、私はほとんど子どもを怒ったり叱ったりしません。

もちろん道路に飛び出しそうで危ないときや駐車場で走り回っているときなど、事故にあうかもしれない命が危険な場合には大きな声で注意することもあります。そのときも、怒る、叱るというより、心配だということを伝えます。

「駐車場で走り回ったら、車にひかれる危険がある。そうなったらけがをするかもしれないし、体が動かなくなるかもしれない。それはママも悲しい」ということをおだやかに伝えるだけです。

やってはいけない理由を話せば、ある程度以上の年齢の子どもは理解します。大人だって理由もなしに頭ごなしに叱られたら、納得できないと感じてしまうこともありますよね。

うつむく男の子

それでも、親も人間ですから、どうしても反射的に怒ってしまうことや、叱りたくなることもあるでしょう。

クリニックでも、「つい子どもを怒鳴ってしまうんです……」と悩んでいる親御さんもたくさんいます。私は親御さんに、もし怒鳴ってしまったら、なぜ怒ってしまったのかを振り返ってみてほしいという話をしています。

どうしてあのときの自分はあんなにカッとしてしまったんだろうと、自分なりに分析してみるのです。

先日、次女が車の中でサイダーにラムネを入れてサイダーが大噴射したときは、思わず「ちょっと、なにやってんの!」と叫んでしまいました。実験好きな次女が「どうなるのかな?」という興味から入れてみたくなったようですが、車の中がベトベトになったら虫も来ちゃうから、次からはお風呂でやろうという話をして、その場を終わらせました。

親としては勘弁してほしいと思うような出来事ではありましたが、彼女の好奇心、サイダーにラムネを入れたらすごいことになるという経験は一生ものだと思うのです。

やる前から、「やめなさい!」と叱ってしまっては、この経験は得られないのです。そういう、ちょっとした子どもの興味や好奇心からの行動の機会を奪ってはいけないと思っています。

また、親が頭の中で「車を汚してはいけない」と強く思っていると、激しく怒ってしまう場合もあると思います。大切にしている車であったりしたらなおさらです。

でも、子どもがきれいに汚さず車に乗るというのはかなり至難の業ですよね。私は汚されてもいい工夫をするのも、また子育ての楽しみのひとつだと発想の転換をして楽しんでいます。車をきれいに保つことと、子どもの好奇心をどんどん引き出すこと、どちらが大切ですか?

私の場合は「時間」ですが、「清潔」「人に迷惑をかけない」「きちんと」など、崩されると怒りやすいポイントが人それぞれあると思いますので、まずは自分の言動を振り返る習慣をつけてみてください。

精神科医さわ

精神科医さわ

児童精神科医、精神保健指定医、精神科専門医、公認心理師、医療法人霜月之会理事長。精神科の勤務医として、アルコール依存症をはじめ多くの患者と向き合う。発達特性のある子どもの育児に身も心も追いつめられ離婚し、シングルマザーとして2人の娘を育てる。長女が不登校となり、発達障害と診断されたことで「自分と同じような子どもの発達特性や不登校に悩む親御さんの支えになりたい」と勤務していた精神病院を辞め、名古屋市に「塩釜口こころクリニック」を開業。老若男女、さまざまな年代の患者さんが訪れる。これまで延べ3万人以上の診察に携わっている。

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