思春期の子どもを深く傷つける「親の不用意な一言」

佐々木正美
2024.01.16 17:51 2024.02.14 11:40

高校生の男子

「勉強しなさい」「中学受験をしなさい」…子どものためを思って、ついあれこれと口を出してしまう親御さんがいます。「少しでも良い人生を歩んでほしい」という親心でしょう。しかし、親の希望ばかりを押し付けるアドバイスは、子どもの心を傷つけているかもしれません。児童精神科医の佐々木正美さんが語ります。

※本稿は、佐々木正美著『【新装版】抱きしめよう、わが子のぜんぶ: 思春期に向けて、いちばん大切なこと』(大和出版)から、一部抜粋・編集したものです。

“この子のため”は本当か?

悩む女性

親は子どものために、しばしば口や手を出します。「あれをしなさい」「そんなことをしてはダメ」と、よかれと思って口や手を出しているつもりなのですが、実はその”よかれ”と思っている”よかれ”のなかには、子どもに対する愛情と親自身の自己愛が混在している場合が多いものです。

そして、この区別がつかなくなってしまうことが、しばしば問題を引き起こします。自己愛のない人はいません。人は程度の差こそあれ、だれでも自己愛的な感情をもっています。

自己愛のとても強い人と、それほど強くない人がいることのちがいだけです。子どもにあれこれ指図し、結果として子どもがうまくいかなかったときに「どうしてできないの!」などと怒る親がいます。

このような場合、「あなたのためを思っていっているのよ」といったとしても、それは親の自己愛です。子どもに対する愛情ではないのですね。

大きな自己愛の感情をもっている人の場合は、自分と子どもの感情の区別がつかず、子どもの希望や、したいことには目を向けずに、親の希望や夢が、子どもの夢や希望とすりかわってしまいます。

名門私立中学や偏差値の高い有名高校を受験させようという親のなかには、子どもがそうしたいと思うよりも、自分の希望が強すぎる人がいます。自分の子どもを道具のように思っているところがあるのです。

過剰期待は心理的な虐待になる

落ち込む女の子

小さいときから蝶よ花よと大切に育てられ、経済的にもゆたかな家庭で育った女性がいました。いろいろなおけいこごとを習い、勉強もよくでき、周囲のだれもがうらやむような学校をとんとん拍子で卒業し、多くの人に祝福してもらって結婚をしたのですが、生まれたわが子に虐待をしてしまったそうです。

話を聞いてみると、彼女は「自分は親から愛されてきた実感なんかまるでない」というのです。彼女はいつも「親を喜ばせることばかりしてきただけだ」といいました。小さいときから、自分がどういう行動をとったときに、親が怒ったり悲しんだりし、どういう行動をとったときに喜んでいたかがわかってしまった。

親が怒ったり悲しんだりしている姿を見るのは、幼心にとてもつらかった。だから、親を悲しませたり怒らせたりしないようにし、さらに積極的に喜ばせることばかりに心をくだいて、大きくなってきたというわけです。

いつも親の顔色を見て、親から愛された実感もなく、親を喜ばせることばかりしてきた自分が、子どもが生まれたからといって、どのように愛したらいいかわかるわけがないと、彼女はいっていました。

彼女はずっと自分を殺してきたんですね。こうしたい、ああしたいと思っても、親が望まないことはすべて飲み込んできたのでしょう。周囲からうらやむような恵まれた家庭に見えても、彼女は幸せではなかったわけです。

親の本当の愛を知らないまま、母親になったこの女性が自分の子を愛せず、思わず手をあげてしまったことを簡単に非難することはできません。

思春期のイメージ
『魂の殺人』(A・ミラー〈著〉、山下公子〈翻訳〉・新曜社)という本があります。一見、愛情をかけているように子どもに思わせるのですが、それが実はひどい過剰期待で、親の思いどおりに子どもを育てようとしている家族のストーリーです。

子どもは殴られたり蹴られたりしているのと違って、親を恨めない。こういう自己愛的な親の愛情は心理的な虐待だというわけです。体を傷つけるわけではないが、魂が殺されてしまうのです。わが子を虐待してしまった女性も、魂の虐待を受けていたといえるでしょう。

こうした「魂の虐待」は、今、非常に増えています。親の喜ぶことを子どもに無理強いさせているのです。親は子どもに期待したくなりますし、優れていてほしいと思うものです。それが愛であることは間違いないのですが、度がすぎると何度も申し上げているように、親自身の自己愛になってしまいます。

魂の殺人、魂の虐待などというと、言葉が強烈すぎて、「私は子どもにそんなことはしていない」と思われるかもしれません。でも、たとえば次のような事例だって魂の虐待なのです。

こんな親子のすれちがいが子どもを傷つける

落ち込む女子高生

中学2年生の女の子から聞いた話です。彼女は運動神経が抜群によく、部活は陸上部に所属していました。短距離走が専門で、地区大会で1位になり、県大会に出場できることになったということでした。そのことを、彼女はうれしそうに報告してくれました。

私が「それはすごいねえ。お母さんも大喜びでしょう」といったら、彼女から急に笑顔が消え、うつむいてしまいました。

「どうしたの?」と聞くと、吐き捨てるように「お母さん、一度も大会に来たことない。あたしのことなんかどうだっていいんだ」といいます。よく話をきいてみると、どうやらお母さんは教育熱心な方で、運動よりももっと勉強を熱心にしてほしいと思っているようでした。

「部活の話をしても、ぜんぜん興味なさそうだし。ていうか聞いてくれないし。家に帰ると勉強のことしかいわなくて、まじウザイ」

彼女はお母さんに部活の話を聞いてもらいたかったのです。大会に来て、応援してもらいたかったのです。そして、1位になったことをいっしょに喜んでほしかったのです。だけどそれがかなわなかった。お母さんは勉強してほしい、勉強ができる子どもになってほしいと願っている。

子どもは勉強よりも今は運動に夢中で、自分が夢中になっているものを親にも理解してもらいたい、認めてもらいたいと思っているのに、受け入れてもらえなかった。彼女は本当にさみしかったと思います。とても悲しかったことでしょう。「私はお母さんに愛されていないんだ」そう思ってしまったかもしれません。

親にしてみれば、子どもの将来を思って勉強しなさいといっているのですが、それはたぶんに親の自己愛です。子どもの気持ちをまったく無視しています。子どもが何を求めているか、親にどうしてほしいと思っているかに思いを寄せることができていません。

こういうことを、魂の虐待というのです。子どもがしてほしいと思っていることは何か。何が子どもへの愛になるのかを見つめながら、子どもと接することが大切です。そして、望んでいることを十分に満たしてあげてください。

【まとめ】子どもが望んでいることを認めてあげなかったら、子どもは「お父さんお母さんは自分のことがきらいなんだ」と自分を否定してしまいます。

佐々木正美

佐々木正美

昭和10年前橋市生まれ。昭和42年、新潟大学医学部卒業。東京大学で精神医学を学び、ブリティッシュ・コロンビア大学児童精神科に留学し、児童精神医学の臨床訓練を受ける。帰国後、国立秩父学園(重度知的障害児居住施設)や東京大学精神科助手を経て、神奈川県児童医療福祉財団・小児療育相談センターに所長として20年間勤める。その間、東京大学精神科、東京女子医科大学小児科、お茶の水女子大学児童学科等で非常勤講師、ノースカロライナ大学で非常勤教授を務める。川崎医療福祉大学特任教授、横浜市総合リハビリテーションセンター参与などを歴任。2017年没。著書に『子どもへのまなざし』(福音館書店)など多数。

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